第四話 『停止』した世界
ありもしない現実は、残酷にも石垣 龍太の前に現れた。
「ーーなんだよ、これ」
見た夢と、まるで似ていた。ーー
世界が全て『モノクロ』に見えた。
* * *
真っ先に教室を出て、廊下を走る。
賢太がいる時間、つまりいつも早く登校している人はいるはずなのだ。
「はぁ、ぅ、はぁ、なんで、誰もいないんだよ!?」
焦燥感と絶望感に支配され、まるで息継ぎが間に合わない。
廊下を見る。教室を見る。職員室。体育館、屋上、科学室、地学室、コンピューター室、校庭ーーー。
どこにもいないーー生徒も先生も。
人が、いない。
「おかしいだろ、ーー。今、何時なん、はっ?」
八時に登校したと思っていた。しかし生徒がいないから七時、先生がいないから六時と予想した。
しかし、それは全て外れていて、ありえない時刻がそこには映っていた。
「四、ーーー時、ーーー?」
誰も来るはずがない、そんな時刻だった。
「ははっ、少し早起きすぎたかな、ーー。」
そう、時計を見つめる。その針が動くと信じて、ーーしかし、動かなかった。何分も何十分も、ましてや一時間待っても、ーー。
「ーーこわれ、てんだよな。そうだよな?」
信じられなくて、すぐさまスマホを確認する。
分かっていたはずなのに。
「なんで、ーー充電は、したはずだぞ?」
スマホは、動く事さえ忘れていた。
もしかしたらただの故障かもしれない。しかし、それにはあまりにもタイミングが悪質すぎた。現代っ子の情報源、命とまで言われたスマホは役目さえを拒否した。
「嘘だ嘘だ嘘だ」
自暴自棄になり、自分で自分の頭を掻き毟る。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」
膝から崩れ落ちていく。絶望感は絶え間なく押し寄せてくる。昨日のあの日常は、いったいどこへ?
そんなことを言おうと状況が変わるわけでもない。
まるで狂ったかのように、虚言を吐き続ける。
しかし、それもこの世界には抗えなくてーー
「ーー何処かに、必ず!!ーー」
何かがあると、ありもしない希望を求めてーー
そうして、この広い世界を走り出した。
* * *
何かあると信じてーー。
救いがあると信じてーー。
これが夢だという事を信じてーー。
しかし、どんなに走ろうとも、どんなに夢から覚めようとしても、何もなく、ただ神経が研ぎ澄まされ、現実味が増していくだけだった。
「どうして、ーーー」
昨日の違和感も、
「どうして、ーーー」
胸が痛くなったのも、
「どう、して、ーーー」
ーーこの現実の、『予兆』だったというのか。
龍太しかいないこの世界で、一人彼は途方に暮れた。涙を流そうとも、自分を殴りつけても、人に声をかけても、何も状況は変わらずにーーー。
「どう、したら、いいんだーーー」
昨日決心した自分が、一瞬の内に崩れていくのを感じた。
* * *
「なんでお前は、ここにいるんだ?」
学校へ戻り、自分の教室へ入る。そこには賢太がいる。それが唯一、この世界についてが分かりそうな事柄だった。
「お前がなんか知ってるっていうのか?」
「」
「お前があえて昨日、俺に伝えた事は、この現実と、関係があるっていうのか?」
「」
「なぁ、答えてくれよ。ーー頼むよ。」
「」
龍太の中で時は過ぎていく。世界はまだ、四時のままだ。
「助けてくれよ。導いてくれよ。解決策を知ってるなら、教えてくれよ。もう、限界なんだよ。ーーー」
誰に話しているのかも分からず、世界に対して独り言を呟く。哀れにもそれは何の影響も及ぼさなかった。ーーー
「ーーー夢。ーーー」
「ーーー夢を、見た。ーーー」
「ーーー『モノクロ』に見えた世界」
「ーーー青く光る、『魔法陣』」
* * *
自宅へ戻り、急いで階段を上る。
夢を見た。その夢にはまるでこの世界のように『モノクロ』の世界が広がっていた。そして、その中、鮮やかな色を醸し出した、『魔法陣』があった。
「何か、ーーあるなら!」
二階へ行くと、一つだけ青く輝く扉があった。否、その扉の部屋が青く輝いていた。
開けるとそこには、男子部屋がある。
しかしその中心には夢でも見た、青く光る『魔法陣』が描かれていた。
「何で、ーー起きた時は、無かったのに」
その『魔法陣』は、この世界に抗うかのように、とてつもない光を発していた。
「ーーー、どう、すればいいんだ?」
「ーーー、何か、ヒントは」
「アナタガスクウノデス。アナタシカイマセン」
「!?」
突然、脳内に直接響く声が聞こえた。男ともいえず、女ともいえない、謎の声。あまりにも突然過ぎたため、すぐさま頭を抱える。
「ーーーなん、」
「アナタシかいないのです。だからこの世界を救って下さい」
「!!」
脳内に響いた声とともに『魔法陣』は更なる輝きを見せ始めた。それはあまりに綺麗なものであり、ーー
「何も、分からない。ーーでも、俺は、此処を通れば」
「何かがーーー」
「ーーーーーー変わるんだ」
無意識に身体は『魔法陣』の中心へと、移動した。
そして、彼はありもしない記憶からーー
「俺がーーこの世界をーーー救ってやる」
「ーーーそして、全てを変える」
そう、誓いの言葉を立てた。
『魔法陣』はいっそう輝きを増していった。
その輝きは止まるところを知らず、
光って、光って、光ってーーーーーー。
そして彼はこの"世界"から姿を消した。
これで第零章は終わり、次は異世界です。