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デス・チェンジ  作者: 照綱
第零章 平和の『停止』
3/13

第二話 平和すぎた日常


「さあ受けてみろ。龍太!これが俺の全てを賭けた...」


「ーーー。」


「ーーウイング・ショット!!」


「ダセェ!!」


 時は一時限目の体育の時間。

 何故か賢太から決闘(ドッジボール)の申し込みが来て、すぐ断ったが、納豆の如く纏わりついてくるので、諦めてその申し込みを受けた。

 それでなんやかんやあってコート上には俺一人、相手は賢太一人。何もしてない結果、決闘に申し分ない舞台が勝手に作られてしまっていた。

 それでこのウイング・ショットである。


 因みに俺はドッジボールなどの球技は大体が得意。特にドッジボールは、ーーー


「よっ。」


「そんな平然と!?」


 少なくともこの学校内では断トツの実力を誇っていた。


「オラ、返すぞ。取ってみろ」


「!!!」


 上手く力を抜いて、自分の腕を鞭のようにしならせて、弾丸の如くボールに力を加える。


「!!ーーなんの、これしき!!」


「残念もう終わりだ」


「!?」


 ボールは空中で急速な回転によりカーブを描く。

 そして標的の右足に華麗に衝突させた。





「赤チームの、勝利!!」


「まじかよ」


「ふっ、俺に挑むのは数年早すぎたってことさ」


「「うおおおおおおおおお!!!」」


 痛々しい決め台詞を吐き捨て、称賛の嵐を浴びる。高揚感に溢れて今俺は最高にイキっていた。


「わっはっはっはっ!!」


「「うおおおおおおおおお!!!」」


「わっはっはっはっ」


「「うおおおおおおおおお!!!」」


「わっはっ」


「「うおおおおおおおおお!!!」」


「……もう、いいんですけど」


「「うおおおおおおおおお!!!」」


 称賛の嵐は俺の高揚感が失った後でもひたすら続く。なにかしらのリンチにでも巻き込まれた気分だ。

 しかも称賛の中にはクラスのマドンナ、美波もいるわけで。


「」


 我を取り戻し、とてつもないほど身体が熱くなるのを感じた。

 途端、今すぐにこの状況を打破しなければと声を出す。が、


「もうやめてください」


「「なんだ今のすげー!!」」


「もうやめてくださ」


「「すごーい!かっこいい!!」」


「もうやめて」


「「後で教えてくれよあれぇ!!」」


「もう」


「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」


 俺の声は周りの声によりあっさり掻き消されていく。

 実はこのクラス、中々に陽キャが集まっているので、かなり盛り上がるのだ。だから少し陰キャ気味の俺はいつも少し浮いている。が、流石陽キャ、誰だろうと構わず拍手喝采だ。


 ーーというかこういういじめではなかろうか。


 普通なら喜べる環境なのだろうが、さっきまでの自分がイタすぎて、しかもそれをクラス全員に見られた事が何よりショックで。



「勘弁して下さい」


情けない声で決闘の幕は閉じたーーー。




* * *


「まあ、そう気は落とすな。カッコよかったぞ?お前の立ち振る舞い」


「オーバーキルを決めてくるな。いくら負けたからって卑怯だぞ」


「ははっ、悪い悪い」


 賢太は少なくともあの光景を面白がっていたらしいが、想像以上に萎えている俺をみて、慰めに来た所存らしい。

 ーーまあ、決闘としては俺の勝ち。

 何のためかもわからないものだったが、勝ったものは勝ったで受け入れよう。



 とまぁ、最悪な一時限目は終わり、後のニ、三、四時限目は特にこれといった騒ぎはなく終わった。ていうかそれが当たり前だ。


 午後一時を過ぎ、昼休みとなった。

 

「弁当忘れた。ーーしょうがない。学食いくか。」


「おう、学食行くのか?一緒に行こうぜ?」


「女の子とならどんとこいだけどお前みたいないかにもむさ苦しい奴とは行きたくねぇよ。」


「てめぇ、まだあの偶然ひきずってんのかうらやまけしからん。埋めるぞ。」


「引きずってねぇけど!?」


 SHR後、謎の喧嘩を繰り広げた哲雄に学食を誘われた。といっても、恐らく彼は女子を見に行くために学食に行くのだろう。事実、財布すら持っていなかった。


「お前......どんだけ女の子に飢えてんだよ」


「いやいやこの時期に一人は捕まえなきゃ、青春なんてすぐ終わっちまうだろ?だからいつでもお気軽に待っていますアピールをしつつ、女の子とお話をする。」


「つまりナンパか」


「そうだ」


 誤魔化す気すら無いのはむしろ感心する。

 少なくとも女子の前では話せないような内容の話を哲雄はしょっちゅう持ちかけてくる。

 早く何処かへ引き離したい。と、そんな事ばかり考えていると、ーー


「勝将くーん」


「!??!?!」


「ちょっと来てほしいのだけどー」


 耳がおかしくなければだが、今の声はクラスのマドンナ、美波 凛の発する声音だ。彼女からありえない名前が出てきたので、驚きを隠せないでいる。しかし哲雄は俺以上だった。


「ーーあぁ。君の為なら地の果て、火の中、水の中、君の中までついていくよ。なんちゃって。」


「お前まじできもいぞ」


 急に声色を変え、低くたくましい声でそう言い放った。自然すぎるセクハラ導入にドン引きしている。が、この機会に俺は一人で学食へ向かった。



* * *


 学食へ向かう途中、見覚えのある女子の姿が見えた。スルーしようとしたらあっさり見つかり目が合う。瞬間、手を振って彼女は近づいてきた。


「やっほー、りゅうりゅう。元気してる?」


「朝が一番元気だったかな。今はあんまりだな。って、何の用だ?」


 少し赤みがかった茶の髪色。普通のショートヘアーで活発そうな目をしている。

 小学校からの幼馴染、"古橋 実"だ。

 見慣れているからかそこまで可愛いとは思ったことはないが、一見見れば紛うこうなき美少女だ。


「あー、また何の用。なんでもかんでも用事があって来てるのかって思ってると女の子に嫌われるよ?」


「用事が無いのになんで俺に話しかけてくるんだ?」


「何も無いけど話したい。女の子にはそういう所もあるんだよ?」


「凄い面倒くさいですね」


「りゅうりゅう、それじゃあ女の子と付き合える日なんて来ないぞ」


「ーー、別にいいし」


 女子と付き合えるような性格で無い事は自覚している。幼馴染から言われている為、相当なのだろう。


「じゃあ学食までは話に付き合う、それでいいのか?」


「うーん、とって付け加えたみたいな感じだけど、いいよ、いこいこ〜」


 満面の笑みで隣を歩く実はいつにもなく上機嫌だ。

 いつも笑顔で元気そうで明るいのだが、今は特にそんな気がした。


「ああいっちゃったけどさ。りゅうりゅうは、好きな人とか出来たの?」


「...まだいないよ。興味がないって訳じゃないんだけどな。皆少し高嶺の花っていうか...」


 改めて俺はチキンだなとそう思う。告白などもしない癖に何を言ってるのだか。実際、この学校の女子は顔偏差値が異常に高い。俺と釣り合う人は居ないのではないかと疑うほどだ。それにこの隣の幼馴染もそれに含まれる。仲良く接する事は出来ても恋愛には持っていける自信がない。


「へー。いないんだぁ。私も高嶺の花だったりする?」


「そこはあえてノーコメントで」


「えー!なんでー!」


 そんな事を本人に言うのはあまりに恥ずかしすぎる。それにまるで告白みたいになるのでイエスノーの問題ではなかった。


「私は別に君とならーーー」


「えっ、なんかいった?」


「ーーーなん、でもないよ。うん」


 あまりに小声だったので聞こえなかったのだが、何といっていたのだろう。

 と、それを気にしている間に学食へと到着した。



* * *


 ラーメン、うどん、そば、パスタ、ーー


 牛丼、豚丼、カツ丼、親子丼、ーー


 おにぎり、パン、飲み物、ーー


「よし、パン一つで」


「随分少食なんだね」


「元々俺はかなり少食だぞ。パン一つで全て満たされるくらいだからな。それを二つとなるならば俺は満たされ過ぎて、溺死しちまう。」


「あはは、大袈裟ー。まあいっか。私もパン。彼と同じのを」


「あれ、それだけでいいのかお前は?いつもならもっとがっつくだろ?」


「女の子の事情にあまりつけこまないでくださぁい」


「あ、すいませんでした。そんなつもりでは、ーーーって」


「ん?なにどうひたの?」


「もう食ってんの!?」


 パンを買ってもらった瞬間に袋を開けて食していた。そんな驚きもあり、俺と実は学食を後にする。



* * *

 


 実は既にパンを食べ終わり、なんだか物足りないような顔をしていた。


「女の子はつらいよ。男の子に認めてもらえる為にスリムを保たなきゃいけないんだもん」


「ーーー、まあ、あまり首は突っ込まないけど、頑張れ」


「ふふっ、分かってもらえたようで何よりです」


 幼馴染とはいえど女の子。そのくらいの配慮はしてやらないと可哀想だなと反省。彼女もそれに満足したようだ。


「俺はそのままでも充分可愛いと思うけどな」


「」


「ーーー。あ、いや、あくまで幼馴染の意見だから」


「」


「あっ。そろそろ俺教室行くかな。じゃっ」


「えっ、あっ、ちょっと!」


 無意識に気を遣おうとしたらかなりクリティカルな発言をしてしまった。実はその場で絶句。慌てて誤魔化すも絶句のままなので教室に逃げた。



* * *


 そろそろ急がなきゃいけない時間であったので廊下を走る。さっきの気恥ずかしさが未だ消えない。



「ーーー。あっ」


 前をちゃんと見ていなかった為、廊下で誰かと衝突する。


「あっ、ごめん。大丈夫か?」


「ーーー。」


「足挫いたりしたかな?良かったら背負ってあげるけど?」


「ーーー。」


「そろそろ授業だし一旦、立とう、怪我、ないよね?」


「ーーー変態」


「ーーはぁ!?」


 ぶつかった相手は髪が青く、右目が隠れるように髪が伸びており、ショートヘアー。吊り目。どうやら一年生の女子らしく、彼女も前をちゃんと見ていなかったらしい。

 彼女は黙ったままで少し照れたような顔つきをしている。悪い事をしてしまったと心配するが、ある一言でその心配が掻き消えた。

 しばらく考えているとどうして変態かが納得できた。スカートがめくりあがってしまい、下着部分がもろ見えになっていたのだ。


「!!ーーいや違う!そういう気があってやった訳じゃなくて何というか、ーーたまたまなんだ、ごめん前見てなくて、そろそろ行かなきゃ」


「ーーあそこが...もっこりしてる...」


「えっ!?嘘!?」


 衝撃の事実に驚きを隠せなくなり、すぐさま股間部分を確認。もっこりはしていないので一旦は安堵。


「おい!嘘つくなよ!!誤解されるだろ!!」


「パンツ凝視してもっこりさせるなんてーーーこの変態!!!!!」


「ちょ、やめろお前!!」


 だんだん周りの人達が騒ぎ出してきた。そんな中で彼女は自然と逃げ出していた。


「ちょっーーー」



 そのまま彼女は俺の視線から消えていった。確かに悪い事はしたと思っているが、ここまでするだろうか。普通。その後、他の生徒からかなり冷たい目で見られた。



* * *


 疲れ果てて教室に戻るとセクハラ発言した哲雄が机の上で生き絶えていた。


「どうした。何があった」


「フラれた」


「そうか。残念だったな、全然話についていけないんだが」


 フラれるのは納得だが、それまでに何があったのかを問う。あんなセクハラ発言までするのだから、余程酷い内容だったと予想を立てる。


「呼ばれたからまさかと思ったんだが、ただ提出物が疎かになってたってだけで別に俺の事は何もなかったんだ。でも美波ちゃんと話せるのはこれが最後かもしれないと思ったから告白して、わずか二秒でふられちまった」


「ーーー。」


 なんとも切実なフラれ方をしていた。そのシュールさに笑いをこみ上げてきたが、何とか口元を動かして耐える。


「全く。無茶しやがって」


 哲雄の隣の眼鏡、平次郎は哲雄を男らしく慰めていた。しかし口元は引きつっていた。朝の件があったのでそれも兼ねて吹き出しそうになった。

 


 それにしても今日はいつもより楽しかった。

 でもその楽しさが、なんだか自分の中で素直に喜べなかったーー


 なんだか嫌な予感を感じた。今日に限ってこんなに一日を満喫している。よりによって今日、そんな事を感じていた。



 まるで明日、何かが起こるのではないかとーー

 

 ーーそう思わせるように。






* * *


 学校も終わり、家へ帰る準備をする。掃除当番でもなく、部活も入っていないため、そそくさと学校を出る。


「賢太は、ーーいないか。」


 いつも帰宅する時は必ず来る彼が今日はどうしてか来なかった。確認はできたのですぐに正門を出て、通学路を通って帰宅する。


「あぁー疲れたぁ」


と溜息をつきながら、そう呟いた。



 通学路を通るといつもの河川敷があり、その河川敷の景色を見るのが最近の趣味でもあった。

 色とりどりに満ち溢れていて、安心が満たされる。

 

 しかし、そこにはいつもはいない人の影があった。



「賢太ーーー。」


 学校では見かけなかった彼の姿がそこにはあった。


「んっ?よお、龍太。いずれ来ると思ってたぜ。」


 河川敷から上ってきて俺と同じ位置に立つ。


「そりゃ通学路だからな。ーーどうしたんだ?」


「今日は楽しかったなぁ。いつにも増して」


「あぁ。そうだな。なんだか騒動が多過ぎた気がするよ」


「へへっ。そうだな」


「ーーー」


「ドッジボールで決闘したの、覚えてるか?」


「あんな衝撃的な出来事、忘れる方が難しいよ」


「まぁ、お前が勝手にカッコつけてああなっただけなんだけどな」


「うるせえほっとけ」


「はっはっはっ、それでよ、なぜ俺が決闘を申し込んだかをお前に言ったほうがいい気がしてな」


「ーーー」


「俺は、お前が先を見てないように見えた」


「ーーー」


「将来も決まらず、彼女も作る気なし、色んなところでお前は堕落して過ごしてた、そうだよな?」


「それが、ーーなんだよ」


「前のお前は夢を見ていた」


「ーーー」


「前のお前は希望を見ていた」


「ーーー」


「お前はなんでだか知らねえが、いつしか見たものを自らへし折っている」


「ーーー」


「だから、消極的なお前はこの決闘をキッパリ断るか、期待に応えず、そのまま普通にやられようとするのだろうって思ってたんだ」


「ーーー」


「でも、お前は俺を倒してみせた」


「ーーー」


「先を見ていないわけじゃなかった」


「ーーー」


「それが俺には嬉しかったんだ」


「ーーー」


「堕落しているんじゃない、迷っているんだと」


「ーーー」


「前のお前が消えた訳ではないんだと」


「ーーー」


「だから、お前はこれから、胸張って生きていけよ」

「自信もって、自分を示してみろよ」

「お前には、そうする価値がある」


「ーーー!」


 賢太の言葉は、やけに重く、俺に勇気を与えてくれた。

 そして、俺はその信頼に、答える必要がある。


「それが、決闘したかった理由だ」


「ーーー案外、くだらないな」


「嘘つけよ」


 自堕落に過ごしていた俺を、賢太は解き放ってくれた。どうやって進むべきか、教えてくれた。


「お前に言われると、なんだか勇気が湧くよ。ーーありがとう。迷ってる俺を、こうして引っ張ってくれて」


「ああ。今のお前より、そうやって前みたいなお前の方が俺は面白いと思ってる。ーーだから、それを前の自分、越してみろよ」


「わかった。だけど、どうして今日なんだ?言う機会なんていくらでもあっただろ」


「気分、かな」


「なんだよ、それ」


「へへっ、なんでもいいだろ?とにかく俺の言いたいことは伝えた。後はお前に期待してるからな」


「随分と重い期待だが、ああ、応えてやるさ」


「それでこそ、石垣 龍太だ、じゃあな!」


「ああ」


「ああ、それとぉー!」


「お前、もう少し自分見直してみろよー!髪型、クソダセェぞ!」


「ーーーうるせぇな」






 そう微笑んで賢太に言った。


* * *

 

 賢太とも別れて、気付けばしっかり前を向いて歩くようになっていた。

 河川敷をずっと歩き、夕やけが綺麗だなと思いながら、今日の事を思い出していく。


そんな中、目の前には俺の妹が立っていた。




「兄ちゃん」




いろいろ曖昧な気もしますが、このまま突き通します。

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