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デス・チェンジ  作者: 照綱
第零章 平和の『停止』
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第一話 平和すぎる日常

最初は日常編です。第壱章に異世界に行きます。

 

 俺は、ちっぽけなただの高校二年生だ。



 何の特徴も無ければ、力もない。



 見据える将来もないし、努力もしない。



 でも、別にいい。

 ーー俺は毎日自堕落に過ごしているのが楽しい。

 

 家族や友達、親戚や隣人さんなど、とても、良い人達が俺と一緒に日常を過ごしている。


 だから、良いと思っていた。

 


 しかし、いつも思う。


 あの日以来から、少しそんな幸せばかりな気がするのだ。ーー何の音沙汰も起きないし、事件だって起きやしない。良い事であるはずなのに、何故か違和感を覚える。


 ーー幸せ、すぎるのだ。



* * *


 最近、異世界ものというものが流行っているとか流行っていないとか。


 しかし、俺にとってはあまり興味の無い事だ。

 あんな空想の世界で好き勝手出来るなんてご都合主義。俺にとっては気に食わない。


 だから、行きたいなんて、これっぽっちも思っていなかったんだ。

 なんの因果かなんの企みか分からない。しかし、俺はまもなく、とてつもない事に巻き込まれようとしている。



 そんな出来事の一日前から、物語は始まる。



* * *


 太陽は俺に太陽光を突き刺してくる。必死に布団でガードして、丸まった状態になる。

 体の感覚は曖昧で、手も足も動いているのか動いていないのかよく分からない感覚を覚えていた。


 起きる事が面倒くさい。


 布団から出たくない。


 どうしよう。サボろうかな?別にいいと思うんだよね。まだ将来見つけられてないんだから。見つけてからやればいいじゃない。それまで休んでた方がいざという時に本領発揮出来るではないか。


「うーん...。」


 適当すぎる言い訳を考えながら睡眠を楽しんでいた。実際今はまだここから出たくなーーー


「起きろぉぉぉぉぉぉ!!!」


 意識が朦朧とした中、瞬間の何かが俺に対して叫ぶ。


「ぐぅっはぁぁぁあ!!??」


 とてつもない衝撃が真上から彼を襲う。突然すぎる出来事に驚きと痛みで大声を出してしまった。


「おはよう!兄ちゃん!毎日毎日寝坊助は流石の私でも失望しちゃうな!」


「お前今の平気でスルーするとかじゃねーだろ!くそいてぇんだけど!?心配くらいはしてくれよ!」


「大丈夫!人ってそんなにヤワじゃないんだよ!なんならもう一回!」


「やめろばかたれ!」


 いきなりの出来事を瞬時に理解。俺の妹がジャンプして飛び乗ってきたのだ。

 今頃、こんな起こし方があって良いものか、実際に背中や腕などを確認し、異常が無いことに安堵を出す。

 落胆の溜息を吐きながら布団から出た。腹が立つほど快晴だ。


「別に学校が無かったらお前の事は好きなんだぜ、快晴。ーーまぶしい」


「起きて早々何言ってるの?兄ちゃん」


「いやそもそもなんで俺の部屋に来てんの?」


 疑問を疑問で返す。自分が何を言ってるかを自分でも理解し切れていなかったが、あえて見送ることにした。

 因みにこの元気いっぱいすぎる少女は俺の妹。茶髪の短髪で整った顔つきをしている。

 名は"石垣 亜美菜"。中学二年生。俺とは真逆のポジティブガールだ。でも中学二年生でこのテンションは若干引くが。


「うーん。どう言おう。...兄ちゃんのいびきがうるさいからかな?」


「俺中学の修学旅行では友達から冬眠野郎ってあだ名がつくほど寝相はよかったんだ。いびきなんてもってのほかだ。ていうかまず廊下までいびきは聞こえねえだろ。父ちゃんじゃあるまいし」


「へーそうなんだ。じゃあえっと、うーん。」


「なんで本人の前で堂々と言い訳を考える。手遅れって事がわからんのか」


「もーなんでもいーよ!早く学校いこー!」


 誤魔化されてしまったので、あまり追求しないでおく。面倒くさい。ていうか体の所々が痛い。

 それもそのはず。曖昧だった意識の中で受け身も取れず、まともにくらってしまったのでかなり応えていたのだ。

 起きてしまったからには学校に行かねばならないため、ゆっくり歩を進め、ゆっくり荷物の確認、洗面所に行ってゆっくり顔を洗って、キッチンに行ってゆっくり朝食食べて、...ん?


 なんだか違和感を感じる。


「ねぇ、龍太?そんなのろのろ支度してるけど…貴方今何時か分かってる?」


 大人びた女性の声、茶髪でロングストレート。


 俺の母親である"石垣 靖菜"は俺に真面目な声でそう伝える。


「知ってるよ。流石にそこまでボケてない、...あれ。」


 大体、腹時計で認識している俺。だからこそ、ちょくちょくはずれる事がある。

 今になって、ようやくスマホを見る。そして違和感の原因に理解した。

 七時半に起床したと思いきっていたら、なんと一時間遅れの八時半である事に今気づいた。


「ボケてない、ーーなんだって?」


 母が溜息を吐きながら苦笑いで次の発言を問う。


「」


 その事態に対して、沈黙が続く。そして、亜美菜がその沈黙を破りーー


「ボケてるよ。兄ちゃん。」


「ああああああああああああああああああ!!!」


 今日の腹時計は大きく外れ、余裕というものをかき消した。

 登校は最低でも十分を要するため、八時四十分からのSHRに間に合わない。完全なる大失態をしてしまったのだ。


「よしいくぞ!亜美菜!!全速力だ!!!」


「兄ちゃん待って!」


 大失態を誤魔化すかのように苺ジャムの乗ったパンをくわえ、急いで家を後にする。

 慌ただしい子供達の絵面は母親から見ても、


「ふふっ。ホント、幸せな子達に育ったものね。」


 幸せすぎるものだった。ーーー



* * *


 先程言及した通り、只今息がもたなくなるほどの全速力で学校を目指している。


「はっはっ、というか、亜美菜、お前も、遅刻、するんじゃ、ないのか?、はぁっ、俺と同じだろ?、開始時刻。」


 中学、高校は違えど、登校時刻が同じという事はよくある。なぜ遅刻寸前の兄と一緒に全速力で走ってるのか。


「だってー、兄ちゃん、ありえないくらい起きようとしないじゃん!!」


「おいてけば、いいだろ?別に、はぁっ」


「ーーーっそれは、出来る限り私と居ないとダメな兄ちゃんだからあ!」


「ーー、馬鹿にしてんのか」


 一瞬彼女が目を見開いて、発言に迷っていたのだが、腑抜けすぎる回答に迷わず首を傾げる。これが本当に中学二年生なのだろうか。そろそろ反抗期を迎えてほしい。愛嬌はあるが、鬱陶しく感じてしまう。

 学校まであと三分の二ほど距離がある。間に合うか間に合わないかで言えば、うん。間に合わない。そんなことを考えている最中、ーー


「おっ?お前も遅刻か?奇遇だなおい!」


「はっ?」


 覇気のある男の声に思わず後ろを振り返る。それは黒髪短髪でいかにも運動部してそうな青春ボーイだ。足がめっちゃ速い。


「圭太か。はぁっ。」


「お前真顔で友達の名前間違えるな。賢太だ賢太。井上 賢太だ。」


 彼から自己紹介してくれたので説明は省こう。そう、"井上 賢太"だ。

 中学からの付き合いであり、誰に対しても楽観的に接している。いわゆる陽キャ。

 何故か分からないが俺を気にいったらしく、大体はこいつと登校したりしている。


「んで、お前も、ナチュラルに、遅刻かよ」


「おいおい、元陸上部、元々サッカー部なめんなよ?」


 足が速い印象を強く受ける部活をどちらも経験していたようだ。因みに今は帰宅部。


「わかった。ごめん。なめない。なめない代わりに俺を背負ってってくれないか?余裕だろ?」


「図々しいなお前!?」


「兄ちゃんはこういう奴だよ」


 もしかしたら可能かと思ったが、二人から文句を言われたので控えることにした。ていうか喋るの疲れる。


「お前はともかくとして、亜美菜ちゃんは兄と違って可愛いまんまだなぁ!」


「当たり前でしょ!兄ちゃんとは外見も性格も桁違いなんだから!」


「...。」


 腹が立つので一発ひっぱたきたい気分だが、余程疲れることを予想したので我慢した。

 それにしても俺が体力無いのだろうか。それともこの二人の体力が化け物なのか。息切れしてるのが俺しかいないのはどういう事なんだ。


 まあ、おそらく前者だろう。


「ほれ!あともう一息だ!頑張れよお兄ちゃん!」


「そうだよ!頑張ろ!兄ちゃん!!」


「賢太てめぇ!、お前が言うのはやめろぉ!!ぜぇっ、はぁっ」


 俺が息切れしているのに気付いたらしく、煽るように言われた。亜美菜は本心っぽいのだが、どっちにせよ、屈辱的だ。

 騒がしい登校から一日が始まる。



* * *


 当然だけれど遅刻した。亜美菜はギリギリセーフで、賢太はギリギリアウトだった。多分ギリギリまで俺を煽りまくったからだ。こういう時にざまぁと言うのだろうか。後で言っておこう。

 ちなみに賢太とはクラスが違う為、別々の教室に移動してSHRが終わった時に教室へ入った。

 すると、


「あっ!龍太くん!おはよっ!」


「...おはよう。」


 疲れ果てて今にも倒れそうなほど疲弊してる俺に話しかけてくれているのは、クラスのマドンナ的存在。

 黒髪でポニーテール。"美波 凛"だ。マドンナと言われるだけあって、美貌も仕草も、他の女子とはずば抜けていた。


「な、何か、俺に用事でも?」


「いや、来ないから心配してただけ。良かった来てくれて。遅刻なんかしちゃダメだよ?」


「す、すいません」


 わざとやっているのかと思うほどあざとい動作、そして女神のような性格に思わず、押し負けそうになる。実際押し負けている。

 わざわざ心配しに俺の元まで来るという善人の所業としか思えない行為。それは俺の心を揺さぶるに充分なものだった。

 今も顔が近いため、そろそろ危ないところまで来ていた。


「あっでも、顔が少し赤いわよ?保健室まで一緒に」


「大丈夫!大丈夫だから...席につかせてもらっていいかな?」


 そろそろ、いろんな意味で危なかったので、緊急回避。ただでさえ、女子と関わる事があまり無いため、こういう現象になるのは日常茶飯事だ。顔すらも直視できず、その場から離れる。


「龍太くん......。」


 と、普通に考えたらとても羨ましい出来事を味わう事が出来た。ーーまあ疲れ過ぎてそれどころではないのだが。


「うらやまけしからん、あいつぶっ飛ばしていいか?」

「安心しろ彼女は誰に対してもあんな感じだ。うらやまけしからんだったら話しかけてこい、きっと花が咲く」

「それはやだ、こわい」

「なんでだよ」


 教室内のそこら中から嫉妬の声がきこえてくる。俺だってやりたくてやってる訳では無い。その中でも一際目立つ会話が一つ。


「あぁ、もううらやまけしからん!」


「やりたくてやってる訳じゃねえわ」


「ご本人きたぞ。大将。やっちまいな。」


「挑発すんなよ。マジになるだろ?もうあんなくだらないことはやりたくなーー」


「うらやまぁ!!!」


「おわぁ!?」


 デブの方が突進してきて、思わず俺は足を崩して吹き飛ぶ。はたから見ると茶番劇にしか見えない争いが突然と幕を上げる。


「ほらみたことか!!こいつ、無駄に流れに乗りやすいんだよ、って、痛ぁあ!!」


「俺はお前が許せないだけだ!!あんなうらやまけしからんな事しといていい気になるなよ!!」


「それでもここまですんのはおかしいだろうがぁ!!」


「ぐほぉっ!!」



 疲弊してる中突っ込んでくるこの男に苛立ちを覚え、反撃を繰り出す。勿論この喧嘩は本気の喧嘩ではない。本当は二人とも、そこまで怒っていないのだ。

 ただ、マドンナに話しかけられると自然と羨ましがられる。そして、羨ましがられる極地がこれだ。クラス中もそれをみて大盛り上がり。


「「そこだいけぇ!てつおぉ!!」」


「「頑張れりゅー!!」」


「「頑張ってぇ!りゅうくん!!」」


「「てっちゃん!ふぁいとー!!」」


 クラスにとってこれはいつも通りの事だ。

 ある日、ひょんな事から喧嘩になり、その喧嘩があまりに芸として成り立っているのでクラスの一大イベントに成り上がった。


「いいご身分だなぁ、龍太くんよぉ?!」

「うるせえ黙れ脂肪野郎!!やりたくてやってるわけじゃねぇんだよ!!」

「誰が脂肪野郎だこのやろう!!」

「ーー、お前以外、誰がいんだよぉ!!!」


 一人のガリと一人のデブがお互いの肌を引っ張りあい、パンチやキックやカウンターを繰り出していく。


「いやー、朝から良いものを見せてくれるなぁ。」


 と、一人の少年が手を叩いて歩いてきた。


「元はと言えばお前だろ!!三ッ井!!何とかしろよ!!」


「断る。これは僕の商売でもあるんだよ。あえて君達に煽りをかけ、一つの物語を成り上がる。クラスのみんなに感動を与える。士気を宿す。こんな素晴らしい職場を失う訳にはいかん!!」


「ーーっ、何言ってんだテメェ!!!」


「へぶぅっ!!」


「調子こくな!眼鏡え!」


「ええお前も!?」


 高みの見物のしている眼鏡の男の頬にしっかりとストレートをお見舞いした。ついでにデブの方も肘打ちを喰らわしていた。その後は二人が三人になって、その物語はさらに急展開を迎えた。

 ちなみにそれの元凶ともいえるクラスのマドンナの美波 凛はその状況にすらついていけていない始末であった。



* * *


 ちなみにデブの方は"勝将 哲雄"。

 眼鏡の方は"三ッ井 平次郎"。


 後日談としては先生にこっぴどく怒られた。もちろん真面目な喧嘩ではないので、致し方ない事だ。

 一時限目は体育。身体を早くも動かしすぎたのでなるべく動きたくなかった。ドッジボールとの事なので体育館に移動していると、登校中煽って遅刻した井上 賢太が体育館前に待ち伏せていた。


「ーー、なんだよ。遅刻ならお前の自業自得だからな。謝らんぞ」


「なあ、龍太よ。」


「?」









「次のドッジボール、正々堂々勝負しないか?」


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