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9 説得します


白々しく微笑むルルになんと返すのが正解なのかと考えていると、後ろから「おーい」と声がした。


振り向くと、ライルとアドルフがこっちに向かってくるのがみえた。


「テント張り終わったけど、なにか手伝うことある?」


ライルが微笑んで私達に問いかけてくる。

すると、隣に座るルルが素早くライルに駆け寄った。


「あ、えっと、それじゃあライル様は私と一緒に野菜を切ってくださいまし。アドルフ様はスティナさんと一緒に野菜の皮をむいてくださいな」

「了解〜」

「·····でも、まだ処理してない野菜いっぱいあるみたいだし俺も皮剥くの手伝うよ」


ルルの言葉にアドルフは素直に頷いたのだけれど、ライルがそう言ってこちらに来た。


ええ、ちょっと今こっち来ると·····。


やばいだろ、と思ってルルを盗み見ると案の定すごい目付きで私を睨みつけていた。

普通にめちゃくちゃ怖い。


猫を被ってるライルやルルをいっぺんに相手にするには今日は疲れてしまって少し元気が足りない。

だから私はルルに「水を汲んでくる」と伝えると、返事を待たないうちにその場を離れた。






川に着いてから私は何をするでもなくちゃぷちゃぷと川の水で遊ぶ。


·····二、三分したら帰ればいいかな。


水に浮かぶ月をぼーっと見ながら気持ちを入れ替えていると、「そんなとこで何してんの?」と声をかけられたので振り返る。


「あ、エラちゃん」

「今みんなで料理とか作ってる時間でしょ?あんた何してんの」


両手一杯の枝を抱えたエラに話しかけられ、私は「ちょっとね」と誤魔化す。


「·····ふ〜ん。ま、どうで良いけど。

っていうかあんた、この間私が言ったこと全然守ってないじゃない!ずっと文句言いたかったのよ!」

「エラちゃんが言ったこと?」


首を傾げる私にエラはプンスコと顔を赤くさせる。

「ライルに近づくなって言ってるのに普通に話したりしてるじゃない!」

「いや、同じパーティにいる以上喋らないのはかなり無理があると思うけど·····」

「う、うるさい!とにかく、幼馴染でちょっと仲がいいからってライルがあんたのこと好きなんて勘違いしないようにね!」


もうそのセリフ耳にタコができるほど聞いたわ、と言いたくなるのを我慢して私はなんとか神妙な顔つきで頷く。

この子の場合、聞き流した方が会話が早く終わる。



「私なんてね、この間魔法教えてくれないかって言われちゃったんだから!ふふ、どっちが特別かなんて一目瞭然ね!」


へえ、ライルが魔法を。

その時のことを思い出したのか、先程とは打って変わってご機嫌に私に自慢してくるエラに私は適当に相槌を打つ。

頬をうっすら赤く染めるその姿は黙っていればとんでもない美少女だ。


う〜ん、怒っててこんなに可愛いんだから普通にしてればもっと可愛いと思うんだけどな。


なんて思いながらもその美少女の怒る原因が自分だということに気づいてなんとも言えない気持ちになりながら、エラがご機嫌にライルに魔法を教えているときのことを語っているのを聞いていると、しばらくしてから彼女は何かに気付いたように声を上げた。


「あ、いけない。そろそろ枝を届けないとあの女にネチネチ嫌味言われちゃう」


エラのいうあの女とはルルのことだ。

二人とも最も嫌ってるのは多分私なのだけれど、恋敵ということもあってかルルはエラが嫌いだし、エラもルルのことを嫌っている。

まあ、だからつまり、このパーティは、女性陣の仲がすこぶる悪い。

説明してるだけで悲しくなってくる。

多分一生仲良くなることはないんだろうな。


少し寂しくなりながら、慌てて私たちの拠点に戻るエラの背中を見送った。



私もあと少ししたら戻ろうと思っていると、何故かまたジャリジャリと川原の砂利を踏む音が聞こえてきた。


あれ、エラちゃんが忘れ物でもしたのかな。


なんて思いながら何の気なしに振り向いた私は固まった。

何故ならそこに立っていたのはライルで、その上、彼の顔が驚くほどに無表情だったからだ。

しかも彼の瞳の中に金色の光が火の粉のように飛び交っており、その色彩は血のように赤黒かった。


「ラ、ライル?どうしたの?」


あまりに久しぶりに見たその瞳に思わずしばらくの間、魅入ってしまう。

我に返り慌てて声をかければ、ライルはその不思議な瞳をエラが帰っていったほうへと向けた。

その目には驚く程に温度がない。



「ずっと、あんなくだらないことを言われてたの?」


何かあったのかと不安になっているところにどこか聞く者を威圧させるような声で問いかけられ、私は今のエラとのやりとりを聞かれていたことを察した。


こんなに怒っているライルを見たのは何年ぶりだろう、なんてことを他人事のように思う。

最近は他人の前でも笑顔を絶やすことがなかったから、無表情のライルを見るのは本当に久しぶりで少し、怖い。


何も言えない私にライルはもう一度同じ質問を繰り返した。


「えっと、いや、その」


これはまずい、と思い慌てて否定しようとするも、突然のこと過ぎて上手い言い訳が出てこない。


「もしかして、もう一人の方からも言われてた?」


そんな私の様子にライルの瞳の中で金色の光が更にキラキラと激しく動く。

まるで、ライルの怒りが膨れ上がったことを知らせるように。


やばい、こんな状態で「どちらかと言うとそのもう一人の方がかなり精神的にくる絡み方してくるよ」なんて言ったら殺されかねない雰囲気だ。



「え、い、言われてない、言われてない!やだな〜、さっきの会話、本気にしたの?ちょっとした冗談みたいなものだからそんなに重く受け止めないでよ〜」

「本当に?」

「へ?」

「しっかりと俺の目を見て、おんなじことが言える?」


血のような色をした瞳が私をじっと見つめる。

絡めとるようなその視線に私の口からは意図せずして「あ」だとか「う」だとか意味の無い言葉が漏れでてしまう。


「ねえ、スー。教えて?本当に言われてなかったの?」


スッと目を細めたライルは私の両頬を抑え、じっと見つめてくる。

きっと、本当のことを言うまでこの人は解放してくれない。

本能でそれを悟った私は仕方なく口を開いた。


「·····ぃ、言われてたけど!私別にそんなに気にしてなかったし、あっちもつい感情が先走っちゃっただけでそんなに」

「スーが良くても俺が良くないんだ」


仕方なく白状したものの、何とか穏便に済ませたくて続けてフォローしていると、ライルに言葉を遮られた。


「スーにあんな口を聞いてることも許せないし、指図してることも絶対許せない。それになんでスーがあいつらを庇うの?どうして味方するの?それも俺にとっては許せない。何されたか、俺に詳しく教えて?

そうしたらその何倍もうんとキツい罰をあいつらに与えてやるから。手始めにまず、スーに二度と近づけないように」

「ちょ、待て待て待て」


今度は私がライルの言葉を遮る番だった。

何言ってんの、この子。思考回路が危険人物のそれよ。


ライルは元々、他人にも自分のことにも無関心な子なのだけれど自分が仲間だと認めた人物に何かあると、驚くくらいに過剰に反応する所がある。

それはもう当事者であるこちら側がストップをかける程に。



旅に出てからは私自身、そうならないように気をつけていたしそうなって欲しくないから色々と黙っていたのだけれど、すっかりその事を忘れていた。


今久しぶりにライルが怒っているのを見て、そして攻撃態勢に入っているのを見て、私はもう冷や汗のかきすぎで脱水症状になりそうだ。


とにかく暴力はダメ、絶対。


私のストップに不思議な顔をするライルに私は言い聞かせるように話す。


「いいこと?まず、私達はなんの為に旅をしているんだっけ?」

「水晶を封印するため」

「そうよね」


素直に答えてくれるライルに私も頷きを返す。













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