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8 野宿とジェラシー


「で?それがお前の目の下に大きな隈が出来てる理由?」

「·····あい」

「本当にお前らの関係、よくわかんねぇな」


寝不足でしょぼしょぼする目を擦りながら質問に答えていると、隣でアドルフに溜息をつかれた。


現在、旅の途中。

水晶の封印場所へ向かっている真っ最中だ。

ライルは今はルルとエラ、それに街の女性方の相手をしていてこちらの話は聞こえていないと思う。


その隙に私はアドルフから目の下の大きな隈について聞かれ、昨日のことを洗いざらい吐いていたところだ。

ちなみにアドルフは私がライルのことを好きだということを知っている。

と言うか、普通にバレた。


言うつもりはなかったのだけれど、あくまでも好きじゃないよというスタンスでいたら「嘘つけよ」とあっさり見破られた。

今のところ、私の好きな人を知っているのはアドルフただ一人だけだ。

多分、ルルとエラにバレたら冗談抜きで殺されるんじゃないだろうか。



「今日は朝からライルがやけに上機嫌だから何かあったんだろうとは思っていたけど、案の定だな」

「お陰様で私は寝不足ですよ」

「そりゃあお疲れ様でした」


茶化すように言われて私は少しムッとしながらも「どーも」と答える。


「そう、いじけんなって。今日も沢山歩くだろうし気分悪くなったら言えよ?」


面倒見の良いアドルフはぶんむくれる私に今度は仕方ないなあとでも言いそうな微笑みを向けてそう言った。

こういう所がアドルフの良さなんだよな、と思いながらも私はうなずく。


「それにしても分かんねぇな。好きなら好きで告白すれば良いのに」

「·····だから、前にちょっと話したでしょ。今は良くてもそのうちきっと振られるって。私はいつか振られるくらいなら告白したくないの。分かってるわよ。自分が、当たって砕けることすら怖がる陰気なウジウジ野郎だってことくらい。」

「そこまでは言ってねぇって。ま、二人の問題だし俺は必要以上に口は出さねぇけどさ」


私の自虐にアドルフが苦笑する。

いけない、いけない。私は特に寝不足の時は簡単なことでもすぐネガティブに考えてしまう癖がある。


気持ちを切り替えようと自分の頬を軽く叩く。

いつまでもネチネチ考えてても仕方ないし。



「スー」


とその時、ライルが私の名前を呼んだ。

声のした方へ顔を向けると、ライルがひらひらと私に手を振っている。


「どうしたのー?」

「そろそろ動くよ」

「了解」


私が頷くとライルはまたニコニコと笑って街の方への対応へと戻る。

その姿に成長への嬉しさと少しの寂しさを感じていると、隣でアドルフが「おお、怖い」とわざとらしく自分の腕をさすった。


「何、どうしたの?」

「お前さんの想い人に今、殺気の籠った目付きで思いっきり睨まれたとこ」

「えー、嘘つけ」


驚いてライルの方を見るも、彼は何事も無かったかのように街の人と話している。


「勘違いじゃない?」

「勘違いなわけあるか。普段からあんな目付きで殺気ダダ漏れにしてる奴がいたら即投獄になるわ。お前と話してる時、いつも睨まれるんだよな」

「アドルフの事が単に気に食わないからとかじゃないの?」

「·····お前、最近さらっと心にグサッとくる言葉を言うようになったよな」


じとっとした目で見られ、自覚のなかった私は素直に謝る。


「·····まあ、いいけどさ。と言うか早くライル達の方、行こうぜ。また俺が睨まれちまう」

「あ、そうだね」


アドルフの言葉に頷き、私たちは少し前にいる人だかりと合流したのだった。



◇◆◇



こうして今日も着々と水晶に近づいていた私達だったのだけれど、日が暮れてからある一つの問題にぶち当たった。


今日、泊まる宿がない。


旅をしていると、どうしても出てきてしまう問題だ。

最近は運が良いことに近くに宿があった為、野宿することは少なかったけど、この様子だと今日は野宿になりそうだ。


ライルとアドルフは寝れればどこでも良い主義だし、私も野宿に抵抗はないから別に良いんだけど、問題はルルとエラだ。

どうやら野宿になりそうだと分かった瞬間、機嫌が急降下した。

ライルに悟られないようにはしてるみたいだけど。



水晶のある場所に近づくにつれて周りは岩ばかりで人が住んでいなさそうな所になっていくし、この先更に宿を見つけるのは難しくなるだろう。


まあ、恐らく旅もあと少しで終わりを迎えるだろうからそれまで少し辛抱してほしい。


「テントはここら辺に張ればいいのか」

「うん、たぶんそこでいいと思う」


野宿する場所も決まったので、テントをどこに張るかアドルフと話しているとライルがやってきた。


「俺も手伝うよ」

「あ、それじゃあライルはそっち持って」

「わかった」


ライルは一応街の人たちが見ているところや、ルルやエラがいる場所では私とのスキンシップを抑えてくれている。

まあ、アドルフに対しての態度はあんまり変わらないけど。


「ルルちゃんたちは?」

「力仕事は任せてって言ってきた」


つまり置いてきたのか。


後であの二人に何か言われそうだな、と思いながらテント張りを手伝っていると案の定、数分後にルル

から「スティナさん、こっちも手伝ってくださらない?」とお呼び出しされた。


·····ほらね。



行きたくないと喚く心に蓋をしながら私はテントを張っている二人にあっちを手伝ってくると伝え、その場を抜けた。




ルルはどうやら焚火の近くで料理をしているらしく、私が来たのを見ると芋の皮をむくよう言われた。

大人しく言われたままに横で皮をむく。


「あの、エラちゃんはどこ行ったの?」


あまりの沈黙に気まずくなり、そう問いかけるとルルはにこりと微笑む。


「エラさんは自分から焚火にくべる枝を拾いに行きましたよ。彼女、働き者ですから」


副音声として『あなたと違ってね』と聞こえた気がした。

いや、多分、私の被害妄想だと思うけど。


「あ、そう言えば水晶について分かったことがあるんですよ」

「え、何がわかったの?」


聖女であるルルはごく稀に千里眼的な能力が使えるらしく、今回もその能力で水晶について分かったことがあるらしい。


「もしかして封印方法が分かったとか?」

「いえ。封印方法はいまだに謎なのですが、どうやら水晶の近くに今まで戦ってきた魔物とはレベルが違う魔物が一匹潜んでいるようなんです。どうやらその魔物が水晶を守ってるようで」

「それじゃあ封印する前にそいつと戦わないといけないんだ」

「ええ」


ルルは神妙な顔でうなずいた後、なぜかその顔をほころばせた。


「そのことを先程、ライル様に報告したら「教えてくれてありがとう」と言ってくださいましたの」

「へ、へえ。良かったね」


夢見心地で話すルルに適当に相槌をうつ。


「ええ。パーティの中では私はどうしても守られることが多いですから、私の能力がライル様のお役に立てたなら光栄ですわ。·····ああ、でもこんなこと言ったらスティナさんに失礼ですね」

「·····へ?」

「ほら、ライル様は勇者でアドルフ様は剣士。私は聖女でエラさんは魔術師。でもスティナ様はなんの力も持ってらっしゃらないのに守られてばかりですから、ね?」


おっとぉ。突然の攻撃態勢じゃない?


·····おかしいとは思ったんだよ。

呼び出されたあとも嫌味のひとつもないし、やけに素直に水晶についての情報を教えてくれるから。


あれ?意外と機嫌悪くない?と思った頃に来るこれだよ。

多分今のは遠回しに「お前だけ役立ってねぇぞ」と嫌味を言われたのだと思う。


まあ事実だけど!


野宿のストレスを私で発散させないで欲しい。







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