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4 剣士との出会い


旅に出てから一年。

私たち二人は想像より遥かに順調に歩を進めていた。


ライルが襲いかかる魔物をバッタバッタと脅威のスピードで薙ぎ倒していくため、特に途中でなにかトラブルが起こることもなかった。

それにライルは訓練の時からずっと剣の才能が飛び抜けていると言われ続けていて、私は彼のお陰で未だに怪我ひとつないまま旅を続けていた。


そんなある日のこと。

本部から突然連絡があった。

内容は、今私達がいる街に英雄の一人、剣士がいると言うものだった。


その旨が書かれた手紙を見て私はその時初めて思い出した。

私達二人(正しくはライルだけだけど)の他にも英雄と呼ばれる人がいるということを。


一年前、まだ旅に出る前。

私達はお偉いさんや、お偉いさんの上司から旅に関しての様々な情報を教えて貰っていた。


そしてその中の情報のひとつとして水晶の封印方法があったのだけれど、その封印はどうやら四人の英雄とやらが揃うことが条件らしくお偉いさんからも旅の道中、英雄を探してくれと頼まれていたのだった。ただ、水晶の封印方法に関してまだぼんやりとした方法しか分からないらしく、詳細が分かったら便りを出すと言われた。


まあ、私は当然カウントしないとして、ライルの他にあと三人仲間を見つけなければ行けなかったのだけれど当然私たちに英雄が誰かなんてわかるはずもなく·····。


すっかり仲間の存在を忘れていたのだけど、どうやらライルの時と同じように占いによってハッキリとその英雄の居場所がわかったらしい。

英雄を見つけて仲間にせよとの命令が出た。


人見知りウルトラ愛想無しボーイであるライルはその命令を滅茶苦茶嫌がって無視しようとしていたものの、このままでは水晶のある場所に辿り着いても封印ができないと私が必死に説得し、私達は英雄である剣士のスカウトへと向かった。


手紙に書かれている通りの場所へ向かうと、そこには小さな一軒家があった。


手紙を見るにはこの時間にこの場所で、その人物が待っていると書かれているのに扉をノックしても、返事がない。

ドアノブを引くと、どうやら鍵がかかっていないようで扉はすんなりと開いた。


「は、入っていいのかな?」


隣にいるライルに聞くと「いいんじゃないかな」となんとも軽い返しが帰ってきた。


·····まあもしも万が一、中で人が倒れてるとかだったら大変だしな。


「·····入ります、よ?」


覚悟を決め、そっと扉を開けるとギィィと大きな音が立った。


「お、お邪魔しま〜す。王都からの手紙できたものなんですが」


周りを見渡したところ、少し狭さはあるものの、清潔感のある部屋だった。キッチンも兼ねているらしく、調理場にはフライパンといくつかの調味料が置いてあった。


「·····あの〜、誰かいらっしゃいますかー?」


応答はない。


「留守かな」

「返事ないし、留守なんじゃない?·····ねえ、だからもう王都の人達には嘘ついて旅に戻っちゃおうよ。俺、ずっとスーと二人っきりが良い」

「ダーメ。王都にバレたら叱られるに決まってるし、英雄とやらが揃わないと水晶の封印が出来なくっちゃうって書いてあったでしょ」


相変わらず英雄のスカウトに乗り気ではないライルに反論していると、もうひとつ奥に部屋があることに気づいた。


「·····あれ?見て、ライル。もうひとつ奥に部屋がある」

「ほんとだ」


私は奥にある部屋の扉をノックした。


「·····入ってもよろしいですか?」


が、やはり返答はない。


「入りますよ、失礼します」


そう言いながら扉を開けた私は部屋の中を見て数秒固まった。

扉を開いた先に、ベッドに横たわり目を瞑る少女の姿が見えたから。


「·····スー、どうしたの?」


私の様子に気づいて、ライルが部屋を後ろから覗き込んだ。

そして、少女を見つけると遠慮なく部屋の中へ入り込み少女をじっと見つめる。


「あれ?ここにいる英雄って確か剣士でしょ?この子、到底剣士には見えないけど」

「普通に考えてこの子は剣士じゃないでしょ。·····でも、となるとこの子は一体誰なのかしらね」

「さあ?でも、手紙から指定された通りの時間に指定された通りの場所に来てその英雄っぽい人がいないんだから、もう英雄はいませんでしたって王都に報告しちゃおうよ」


なにやら笑顔で嬉しそうに語るライルに「そんなことはしません」と返しながら私も少女に近づく。


銀髪の美しい長い髪の毛がベットの上に広がっている。

華奢な印象を受けるその少女は胸が上下しているのを見るに呼吸はしているみたいだけど、全体的に青白いせいでただ睡眠をしているようには見えない。

全く動かない瞼とその整った顔立ちのせいで人形にすら見えてくる。


·····ここは英雄の家じゃなくてこの子の家?

でも王都からの手紙には間違いなくここに行けって書いてあったんだけどな。




「レイチェルに近づくな」



その時、突然背後から声をかけられた。

驚いて反射的に後ろを振り返れば、そこにはこちらに剣を向ける謎の銀髪の男と、いつの間に移動したのか、その剣から私を護るようにして立つライルがいた。

ぼーっとしている時ではないと分かっていてもライルのその人間離れした動きに唖然としてしまった。


「·····誰だ、お前?」

「それはこちらの質問だ。俺の家で一体何をしていた?」


あまりに唐突に状況が変化したため思考停止してしまったが、低く、唸るように問いかけるライルの声と銀髪の男の言葉に私は我に返った。

しまった、今は思考停止している暇じゃない。


·····ライルのこの声のトーンはちょっと良くないぞ。

それに発言的に多分、この銀髪の男の人ここの家主!!


やばい、と思った私は咄嗟にライルと謎の銀髪男の間に入り込む。


「え、ちょっと、スー?!危ないよ?!」


ライルが慌てた声を出した。


彼の瞳を見ると、やはり少し色合いがいつもより黒っぽく変化しかけていた。あのまま放置していれば、ライルは間違いなくキレていただろう。

危ない、危ない。


ライルの様子を確認してから私は銀髪の男へと向き直った。


「私はスティナと申します。先日王都から手紙を預かり英雄である剣士をスカウトすべく、ここへ伺いました。外の戸を叩いたところ、返答がなく扉が開いていたため中で何かあったのかとつい、無断で入ってしまいました。許可もなくご自宅へ足を踏み入れたこと、深くお詫び申し上げます」


と、ここまでを滅茶苦茶慌てて早口になりながらなんとか伝える。


続けて駄目押しで「申し訳ありませんでした」と頭を下げると銀髪男は少し驚いたような顔をしてから剣を引いてくれた。


「·····英雄、というのは水晶とやらのか?」

「はい」


私が頷くと、銀髪男は数秒考えてから深く頭を下げた。


「それはすまない。てっきり賊か何かかと。こちらこそ、よく確かめもせずに剣を向けて悪かった」

「あ、いえいえ!!家の中に見知らぬ人がいたら当然怪しくも思いますって!だから貴方様が謝る必要は·····」


私の謝罪に応えるように同じく、いやそれ以上に深く頭を下げる銀髪の男に慌てて頭を上げるように言う。

こんなに真摯に謝ってくれるところを見るに、私の想像以上にこの銀髪の男は良い人らしい。


それからようやく頭を上げてくれた銀髪の男は私たちを見て言った。


「多分君たちの言ってるその英雄の剣士は俺の事だと思う。つい先日この国のお偉いさんがうちに来てそんなようなことを言ってた。俺の名前はアドルフ。そんで、そこのベッドで眠っているのが俺の妹のレイチェル」

「あ、貴方様が剣士でしたか。それにあそこにいるのは妹さん·····」


確かに言われてみれば、銀髪は言わずもがな整った顔立ちもよく似ている。


「ああ、妹は昔から病弱だったんだ。幼い頃に両親が死んでからはお金も無くて満足に治療もできていない。最近は容態も悪化しちまってな。

そんな時に国の幹部らが家に来て水晶の封印とやらに協力してくれるんなら無償で治療するって言われたんだ」

「それはまたご苦労なされましたね·····」

「ああ。今日は丁度近所でレイチェルの好きな果物が安売りしててな。急いでいたからか、不用心にも鍵をかけ忘れたまま買い物に行っちまった。

それに、先に旅をしてるっていう英雄が今日来るっていう話もすっかり忘れてた。本当に色々と悪かった」

「あ、いえいえ。その件に関しては圧倒的に私たちが悪いので·····」



「ねえ、いつまでスーと話してんの」



丁度良い感じに相手の雰囲気も柔らかくなってきて、事情も理解してきたという所でライルが不機嫌そうな声色で口を挟んだ。












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