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2 ドナドナされる


ライルの言葉に一番焦ったのがお偉いさんだ。

お偉いさんは旅にいかない発言を聞くと、グリンと首の向きを私の方へ変える。勢いが良すぎて若干怖かった。


「ゆ、ゆゆゆ勇者様、スーというのはこの少女でしょうか」

「勝手にスーの名を呼ぶな」


お偉いさんの問いかけにライルは答えになっていない答えを返す。その声は恐ろしく低かった。

ライルの機嫌を損ねたことが分かったのか、お偉いさんはさっき以上に慌てて「申し訳ありません」と私とライルに頭を下げた。


「この少女が勇者様と行動を共にするのなら良いのですね?」

「うん」

「ではそのように手配致し·····」

「ちょっと待ったぁぁ!!!」


何を勝手に決めてくれてんだ!!


慌てて口を挟んだ私にお偉いさんとライルが驚いたような顔をした。


「なに勝手に決めてるんですか。私の意思は?」

「い、いえしかし、このままでは世界が·····」

「世界救う前に私が滅びるわ!!私、特殊能力も何も持ってないんですよ?!それに、お父さんとお母さんもきっと反対·····」


「いや、俺たちは別に賛成だよ。な、お母さん」

「ええ。うちの娘、殺しても死にそうにないし、ライルくんも1人じゃ心細いでしょう?」


「なんでだよ?!!」






という叫びも虚しく私はライルの訓練が終わり次第、共にドナドナ、もとい旅に出ることが決まった。




そして、その日の夜。



私はベッドの中に入りながら『もう決まったことだ』と幼いながらに悟りを開き、自分が役に立てそうなことを考えていた。

切り替えが速いことだけが唯一の私の長所なのだ。


とその時、突然窓をコンコンと叩く音がした。



窓の方へ目をやるとそこに居たのはライルだった。

ライルは昔からこうして偶に夜、私の部屋に遊びに来ることがある。

だから私は特に驚くことも無く、ライルを部屋に招き入れた。


「·····どうしたの?」

「あのさ今日のこと、怒ってる?」


ライルは部屋に入ると間髪入れずに不安げな顔で私に問いかけてきた。彼は普段はグイグイ来るくせにこういう時だけ弱気になるところがある。

私は少し悩んでから返答した。


「別に怒ってないよ」

「·····本当に?」

「うん。本当に」


その言葉に嘘はない。

私は今も昔も死ぬのが嫌なだけで、ライルに対する怒りはこれっぽっちもない。




それに、当時は旅に出るのが嫌で仕方がなかったけど今になってみると私は彼と一緒に旅に出れて良かったと思う。


もし旅の途中でライルが大怪我をしてしまったら。

もしも万が一、億が一にでも、ライルが帰らぬ人になってしまったら。


私は世界が救われようとも、平和が訪れようとも、自分のことを絶対に許せないだろうから。

きっと一生、その時傍にいなかった事を後悔し続ける。



お父さんもお母さんも村に残ればいずれ私が後悔する事になるかもしれないと分かっていたから旅に出ることを了承したのだと思う。

普段はこっちが不安になる程にぽわぽわしている二人だから忘れそうになるけれど、あの人達はいつだって私の為になるよう動いてくれているから。


·····多分。その、はずだ。

「世界を救うための冒険なんて、なんだかワクワクするじゃない!」とか言い出しそうだけど、きっと、そのはず。うん。




「巻き込んでごめん。でもどうしても俺、スーから離れるなんて耐えられないんだ」


しゅんとした様子で俯くライルに私は笑いかける。


「大丈夫よ。本当に嫌だったら受け入れてないもの」


ライルが私にベッタリなのは昔からだ。

こうなったら、ライルが私離れするまでとことん付き合ってやろうじゃないか。


「·····スー、大好き。俺、絶対に誰にもスーを傷つけさせないからね」

「そりゃあ頼もしいね」



私はお父さんの真似をして安心させるようにライルの頭を撫でる。

そうすれば、ライルはゆっくりと顔をあげて微笑んだのだった。









そうして、その夜から一年後。

私は齢十三歳にして、想像の何倍もの速さで訓練を終えたライルと共に旅に出ることとなった。






村を出る日、私は見送りに来てくれた人達に手を振りながら再びこの村に帰ってくる時は笑顔でいようと心に誓った。


ライルと一緒に、元気で村に帰ってこようと。




「じゃあ、いってくるね」




こうして私達は世界を救う旅へ出た。





この話だけだと短いので本日二話投稿致します!

お読みいただきありがとうございました!

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