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17 旅が終わったあとで


そうしてあの長い旅を終えてから三日経ったある日。

のんびりと過ごしていた朝、私の家にある人物が訪問してきた。


「アドルフ!」


扉を叩く音に気づいて玄関を開けた私はその先に立っていた人物に目を見開き、驚いた。


「久しぶり」と言ったアドルフの姿は旅の時に見ていたような装備ではなく、最初に出会った時のようにラフな格好だった。

そのあまり見慣れない姿に旅が終わったのだと言うことを改めて実感しながら私は彼に問いかける。


「こ、こんな田舎までどうしたの?」

「どうしたもこうしたも城からいきなり消えたらその後音沙汰無しだったら心配する·····って今日はそんなことを言いに来たんじゃなくて」


前半、いつもの様子で話していたアドルフだったけど途中何かを思い出したように言葉を詰まらせた。

その様子に何事かと「どうしたの?」問いかけるとアドルフはいきなりガバッと勢いよく頭を下げた。



「ごめんっ!!」


·····えっと、なにが?



謝罪された意味がいまいち分からずにボケッとしている私にアドルフはさらに頭を深く下げる。


「俺、仲間なのにライルに失礼なこと言った。確かに、スティナの言う通りだった。あいつがどんな力を持っていようと俺の仲間であることには変わりなかったのに、ライルはライルなのに、俺ちょっと混乱してて大切なこと見失ってた。スティナの言葉でそれに気づかされて本当はあの時、伝えたかったんだけどその前に二人ともいなくなっちまったから」


そこでようやく私はアドルフが何に対して謝っているのかを理解した。


そうだった。

あの日は色々ありすぎて忘れていたけど、まだアドルフとは話の続きだった。


たった三日前のことなのに随分遠い出来事に感じる、と思いながらも私はアドルフに声をかける。


「アドルフ、顔を上げて?まず、こうして遠い所まで伝えに来てくれて本当にありがとう」


アドルフが恐る恐ると言った感じで顔を上げる。

私はそんな彼の気が少しでも楽になって欲しいと言葉を続ける。


「それだけで凄く嬉しいし、ライルのこと沢山考えてくれた事も嬉しい。だからそんなに思い詰めた顔しないで」


私の言葉にハットしたようにアドルフが瞠目した。

と、その時。



「·····なんでそいつがここにいるわけ?」


いつもより少し機嫌の悪い、無愛想な声が聞こえた。

それからその声の主にぎゅっと後ろから抱きしめられる。


「ライル、おはよう」


そう挨拶をすると声の主―――ライルは眠そうに目を擦って「おはよう」と答えた。



突如、家の奥から現れたライルにアドルフが驚愕の表情を浮かべる。


「な、なんでお前がいんだよ?!ここ、スティナの家って聞いたけど?」

「そんなの俺とスーの愛の巣だからに決まって―――」

「ちょうど今、両親が二日間だけ仕事で不在なの。それで、何故かライルが入り浸り状態になってるって感じ」


なんかやばい感じの言葉を口走りそうになっていたライルの言葉をさえぎり、説明する。


ちなみに今言ったことは全てちゃんと事実だ。

私達が旅から帰ってきばかりだから両親的には出来れば離れたくなかったようだけど、どうしても外せない仕事だったらしく、泣く泣く二人で仕事へと向かった。

ちなみにまだライルとの事は話してないはずなのに、何故かお母さんからは「ごゆっくりってライルくんに伝えといてね」という言葉と意味深な笑みを頂いた。何故。



「·····お前ら、本当に仲良いのな」


アドルフが呆れたように呟いたのを聞いたライルがギュッと私を抱きしめる力を強めた。


「旅してる時よりも、もーっと仲良くなったし。ね?」


最後の方、わざと耳の辺りで囁くように話された私は悔しいことに顔が赤くなるのを感じた。


「·····え、お、お前ら!え、え?ちょっと俺が見ない間にそんな進展したわけ?!え?!」


ライル、あとで殴る。


そう心に固く近いながら私は「お陰様で」と小さく呟いた。


「ま、まじか。よ、良かったな!いや、本当に!!!」


何故かアドルフの方がよっぽど楽しげに、沢山喜んでくれることに少し面白く感じながら私も随分と久しぶりに感じるアドルフとの会話に笑みを零した。



「あ、立ち話もなんだし中へどうぞ。狭いけど、お茶くらいはだすよ」

「ああ、わりぃ。じゃあお邪魔しようかな」

「·····え〜、折角スーと二人きりだったのに」



耳朶を触りながら文句を言うライルにゲンコツをお見舞しつつ、私はお茶を用意する。

その間、二人が後ろで言い合いを始めたのを聞いてなんだか凄く懐かしいような気持ちになった。



「はい、どうぞ」


アドルフの前にお茶とお菓子を置くと彼は「ありがとう」と軽く頭を下げた。


「あの、あれからお城ってどんな感じだったの?」


席に座って直ぐにずっと気になっていたことをアドルフに聞くと彼は「大変だった」と即答した。


「まず、お前らが突然消えたことで城中パニックになった。それで城の皆が探し出そうとしたんだが、何故か国王様や国の幹部連中からストップがかかったらしくてな。結局お前らのことはそれ以上追求するなとのお達しが下った」

「·····え、なんで?」

「さぁな、聞いても何も教えてくれなかった。ただ、俺はこのまま会えなくなるのは嫌だったからお偉いさんにこの村の場所を聞き出しでここに来たってわけ」

「そ、そうだったんだ」

「おう。んで、あの気絶してた二人についてなんだが」

「気絶してた二人ってルルとエラのこと?」


私が問いかけるとアドルフは頷き、お茶を飲んだ。


「お前らが居なくなったすぐ後に目を覚まして、エラの方は普通にライルが居なくなったことを悲しんでたんだが、ルルの方は目覚めて直ぐに泣き出してな」

「ルルちゃん、大丈夫なの?」

「まあ一応、まだ精神的なショックがあるみたいだから家で療養することになったらしい。でも、起きて直ぐに泣いたのは生きて帰ってこれたって気持ちから来る嬉し泣きだったみたいだし、思ったよりは回復も早いらしいから心配ないと思うぜ」

「そっか」


私はほっと胸を抑えた。

最後に見たルルの様子は尋常ではなかったから本当に、良かった。


「俺の妹もめちゃくちゃ元気になってたしな」

「あ!えっとレイチェルちゃん、だよね?」

「そうそう!今度逢いに来てくれよ。レイチェルも会いたがってる」

「え、いいの?」

「おう!むしろこっちからお願いしたいくらいだ」

「やったー!ねえ、ライルも今度一緒にレイチェルちゃんに会いに行こう」

「そうだね」


つい、はしゃいでしまった私にライルがやけに優しい目を向けた。

それに気づいて少し恥ずかしくなりながらも、私はあの可愛らしい銀髪の少女に会える日を想像して頬が緩むのを感じた。






「じゃあ、俺そろそろ帰るわ。家でレイチェルが待ってるし」


そろそろ日も暮れる頃になり、アドルフがそう言いながら席を立った。


·····前から薄々思ってたけどアドルフってもしかしなくても結構なシスコンだったりするよね?


デレデレと笑うアドルフを見てそんなことを思いながら、今度レイチェルちゃんに会ったら聞いてみようと心に決める。

まあ、八割確定だろうけど。



「いきなり来たのに、ありがとうな。お茶美味しかった。今度はちゃんと菓子持ってまた来るわ」

「なんでまた来る前提なの」

「あんたは黙ってなさい」


いつも通り、ゲンコツをお見舞するとライルは「酷い」とぶすくれる。


「まったく、ライルはすぐそうやってひねくれたこと言うんだから。·····あ!そう言えばアドルフ、林檎好き?」

「え、おお。大好きだよ」

「ちょうど昨日、林檎沢山貰ったの。良かったら帰る前に持っててよ。凄く甘くて美味しいから」

「まじか、ありがとう!レイチェルも林檎好きだから喜ぶよ」


その言葉を聞いて林檎を取りに戻ろうとするとライルが「俺がとってくるよ」と私の代わりに取りに行ってくれた。

その背中を見送ってるとアドルフから「あのさ」となにやら少し躊躇いがちに声をかけられた。


「あいつ、やっぱりどう考えても俺のこと嫌ってるよな?」

「え、なんで?!」

「なんでも何も·····、総合的に見て」


いじいじと小さい子供のように下を向くアドルフがらしくなくて思わず笑みを零すと「笑い事じゃねえし」と睨まれたので、私は安心させるように彼の肩を二回ポンポンと叩いた。


「ごめん、ごめん。でも本当にそんなことないから。あれはライルなりの照れ隠しだよ」

「照れ隠しぃー?」

「そう。その証拠に今日のライルはやたら耳たぶ触ってたでしょ」

「·····あー?言われてみれば確かに」

「あれ、ライルが照れてる時の癖なの」

「え?!まじで?」

「まじまじ。だからこの前も言ったでしょ?ライルはちゃんとアドルフのこと仲間だって思ってるって。第一、ライルは人一倍警戒心強いから親しい人じゃないとこうして家の中でお茶したりなんてしないよ」

「あいつ、天邪鬼にも程があるだろ。でもそうか、照れてんのか。分かると可愛く思えてくるな」

「面倒な性格ではあるけどこれからも仲良くしてやってね」

「ああ、それはもちろん。スティナの方も本当に良かったな。俺の知らない間に発展しやがって、結婚式は呼べよな」

「いや、け、結婚式は·····」


さすがに気が早いと言う前に林檎を取りに行っていたライルが帰ってきた。


「何話してんの?」

「あ、いやなんでもない!」


焦る私をライルが不思議そうに見る。


「それより、林檎のある場所わかった?」

「ああ、うん。ほらこれ。林檎持ってきてやった」


「ん」とライルがアドルフに袋を差し出した。


「ありがとう、帰って美味しく頂く」

「もう来なくていいからね」


またもや、ひねくれたことを言うライルにゲンコツをおとそうとすると、それより先にアドルフがへらと頬を弛めた。


「え、な、なに?気持ち悪いんだけど」

「そんなこと言って、本当は俺が来て嬉しいんだろ。素直じゃねえなぁ」

「何言ってんの、こいつ。ちょ、近づいてくんなっ」


珍しく、本当に珍しいことに口悪く慌てるライルと、そんな彼に酔っ払ったオヤジのように絡むアドルフを眺めながら私は自然と笑顔になるのを感じる。


ずっと変化することを恐れてきた。

でも、こういう変化なら悪くないな。


「ちょ、まじやめろ!抱きついてくんなっ、スー、助けて!」

「またすぐ来てやるからな。寂しがんなよ」



子供のようにわちゃわちゃと騒ぐ二人を見ながら、そんなことを思った。




◇◆◇





「勇者伝説ぅ?ああ、何年か前に話題になったやつか。でもあれ、聖女や魔術師は実在してるみたいだけど肝心の勇者が行方知らずなんだろ」

「そうなんだよ、そこがまた不思議な話でよぉ。その上、国の方もその事についてハッキリさせたがらねぇから未だに色んな噂が流れてんだ。

実は英雄は5人連れだったとか、とんでもない美男美女のグループだったとか、勇者は国に殺されてるんだとか。挙句の果てには勇者伝説自体が作り物だって言ってる奴も出てきてる。色んな学者が事実を解明しようと躍起になってるみたいだしな」

「·····へえ。まあ真実は藪の中ってやつだな。案外、勇者もどこか田舎の村でひっそりと幸せに暮らしてたりするかもしんねぇぜ?」

「そんな訳ねぇだろぉ。もし勇者伝説が事実で勇者がまだ生きてんなら今頃どこかで豪遊してるだろうよ。俺が勇者なら絶対にそうする」

「そりゃあ違ぇねぇや」




ある町のある飲み屋のはじっこの席でガハハと笑い合うこの二人が冗談交じりに話した説が、実は一番事実に近いなんて話してる当の本人たちはもちろん、研究家達も夢にも思わないだろう。




真実は小さな田舎の村にひっそりと隠されているのだから。









END



本編はこれで完結となりますが、あと2話番外編としてライル視点の話を更新させていただきます。

お読みいただきありがとうございました!

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