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15 帰りました


「あ、でももちろん私だって戸惑うことはあるよ?いつだって予想を超えてくるのがライルだし」


正直、水晶のことも空間魔法のことも普通に驚いた。

そりゃあ普通、驚く。

いくらライルが規格外と言えどもまさかあそこまでやるとは。


「·····俺は」


数秒の沈黙の後、アドルフが何かを口にしようとしたその時。



ガンッッと激しく音を立てて部屋の扉が開いた。

破壊音にも近いその音に何事かと音の方を見てみると、そこには今話をしていた当本人であるライルが立っていた。


何故かその瞳の色彩は赤黒く変化している。


驚く私とアドルフを前にライルはズンズンと無遠慮に部屋に入ってくると、私の腕をとった。


「スー、帰るよ」

「は、はぁ?いきなり帰ってきて何言ってんのよ、っていうか国王様と話してたんじゃなかったの?!」

「話したけど、聞く価値もなかった」


ライルの顔には、はっきりと不愉快とかいてある。

一体どんな話があったのか·····。


「アドルフ、取り敢えず後で連絡するから。今はスーを貰ってく」

「え、お、おう·····?」


アドルフも色々なことがいっぺんに起きたせいで少し混乱気味なのか吃りながらライルに返事をした。

するとそれを確認したライルは私の腕を掴んだまま扉へと向かっていく。


·····って!この野郎、私の意思も聞けよ!!


そうしてポカンとした顔のアドルフを置いて部屋を出た私達は周りの人にジロジロと見られながらも、そのまま城の出口に向かって歩き続ける。


「ちょっ、ライル!帰るって、いきなりどうしたの?一旦、落ち着いて」

「ここにいてもいい事ない」


説得を試みる私にライルがぶっきらぼうな口調で反論する。


「いい事って、そういう問題じゃなくて色々と·····」

「スーは、帰りたくないの?」


·····その聞き方はずるい。

私がそれにノーと言えないと分かってきて聞いている。


「帰りたく、ないわけない。·····けど」

「じゃあ決まり」

「え?」



顔を上げると、もう城の出口はすぐそこだった。

先程の門番達があまりに早く帰ってきた私達を不思議そうに見ているのが視界の隅に映った。


「き、決まりってどういう·····」

「俺にしっかり掴まっててね」


私の質問に答えないまま、ライルは目を閉じると黙り込んだ。


·····え。ま、まさか。



私の当たって欲しくない予感は当たったようで案の定、周囲から風が巻き起こる。


「ちょっ、まって、嘘でしょ。だって、まだ来たばっか·····」


とその言葉を言い終わらないうちに、ブワッと身体ごと攫われるような風が吹いた。


襲い来る浮遊感に無意識にライルの腕を強く掴む。

そして数秒後、身に覚えのある重力感が身体にのしかかってきた。


「ついたよ」


全て体感速度としてはあっという間の出来事だったし実際、僅かな時間だったと思う。


それでもライルに声をかけられて目を開けた時に飛び込んでくる光景はやっぱり先程とは全く違っていて。



瞼を開いて真っ先に目に入ったのは、見慣れた私達の故郷の村への入口だった。

まるでそこだけ時間が止まっているかのように、四年前と何も変わっていない景色がそこにはあった。

少し朽ちて色褪せた木の入口も、周りに咲く草花も、村へと続く砂利道も何もかも、変わっていなかった。


今日だけでどれだけ移動すれば良いんだとか、空間魔法を気軽にバンバン使うなとか、せめてちゃんと話してからにしてくれとか色々言いたいことはあったけど、その景色をみていたらなんかもう色々なものが胸に押し寄せてきた。




「·····って、ええ?!ス、スー?!どうしたの?!!ど、どっか痛い所でもあるの?!俺の空間魔法変なところあった?!酔ったとか?!やっぱり無理やり連れてきたのが嫌だった?!それは本当にごめんなさいだけど!!」


突然、隣にいるライルがギョッとした顔で叫び出し何をそんなに焦っているのかと眉を顰めそうになった私は、そこでようやく頬に流れる暖かい感覚に自分が泣いていることに気づく。


自分でも驚きながら頬を流れる涙を拭った。


「あ、えっと、違うの。これはどこか痛いとかじゃなくて·····」


と説明しながらも私の涙は何故か止まらない。


おかしい。私、こんなのキャラじゃないんだけどな。

別に両親と手紙のやり取りだってしてたし、ホームシックになった覚えもあんまりない。


でも、なんか。やっぱり、自分が生まれて育った場所の安心感って他には無いものがあって。

この匂いにも、雰囲気にも、吹く風にさえも。

無性に懐かしさと喜びを感じてしまって



拭っても拭っても止まらない涙に泣いている私よりも隣にいるライルが慌てている。

いきなりなんの説明もなく連れてこられたささやかな仕返しとして隣でこれ以上ないほどに焦るライルを横目に結局、私は落ち着くまでずっと涙を流した。




◇◆◇



「·····で。ちょっと質問なんだけど、ライルくん。なんの説明もなく、アドルフを一人城に残して、こうしてかなり強引に村に帰ってきた理由って、なにかな?」


ようやく、目の腫れも引き一段落ついた所でライルに問いかけると彼は気まずそうに目を逸らした。



数時間前。

なんの知らせも出さないまま、突然に村に帰ってきた私達は村中の人達からそれはそれは驚かれた。

でも顔を合わせるとみんな揃って一番に無事を喜んでくれて、なんとも言えないむず痒さを感じ暖かい気持ちになりながら私達はまず村長の元へと向かった。

村長は私達二人の顔を見るなり、手を握りしめ泣き出してしまって私は思わず貰い泣きしてしまいそうになった。と言うかした。


ライルもそんな村長を優しい目で見つめながら暫し再会の時を過ごした。


そして次に向かったのが私の家だ。

呼び鈴を鳴らし、玄関で待っていると扉が開き中から私のお母さんがでてきた。

相変わらずぽわぽわとした雰囲気だった。


「あらあらあら」と頬に手を当てて嬉しそうに笑ったお母さんは部屋の中にいるのであろうお父さんを呼びながら私とライルを強く抱き締めた。

「おかえりなさい」と言われて、何とかこらえていた涙がまた零れた。



そして日が暮れ始めた頃、村長主催の村を上げてのどんちゃん騒ぎが始まり、私達はお腹いっぱいになるまで料理を勧め続けられ、旅であったことを皆に聞かれるがままに話した。

最初は私達の無事を祝って開いてくれた会だったのだけど、なにせこの村の人達はみんな陽気で明るく、楽しいことが大好きだ。

最終的には私達抜きでも大いに盛り上がっていたので、私とライルは村長に断りを入れて少し早めに抜けさせてもらった。

村長は疲れているだろうから、と言ってくれたけど、あの場から抜けた理由は他にある。


それが、今私がライルにした質問だ。

実は私は未だにライルからこうして村に帰ってきた理由を聞いていない。

ライルの様子を見るに、早く帰りたかったという理由だけではないだろう。


今は私の部屋に二人きりだし、本当のことを言うまで解放する気は無い。

私は自分のベッドに座りながら、床に座るライルを睨む。



「·····言わなきゃ、だめ?」

「だめ」


即答すると、ライルは視線をさまよわせた後に諦めの溜息をついた。



「·····城に着いてから俺一人だけ国王に呼び出されたでしょ?」

「うん」

「それで、その時にされた話っていうのが勇者に対しての報酬の話で」

「報酬?」


勇者だけ報酬が違うのか?

首を傾げる私にライルは頷いた。


「そう。別に報酬なんて興味なかったけど勇者だけが貰える報酬だから話だけでも聞いてくれって言われて拒否できなくて国王のところに行ったの」

「それで、国王様はなんて言ったの?」

「·····それが、俺の顔を見るやいなや「そなたには我が娘と婚約する許可を与えよう」って言い出してさ」



ライルはなんでもないように言ったけど、その言葉に私は頭を殴られたような衝撃に襲われた。









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