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11 魔物との対峙



入ってすぐに洞穴のその異質な雰囲気に私は呑み込まれそうになる。

洞穴の中は薄暗く、少し気味が悪い。

それに瘴気によって活発になるはずの魔物がこの洞窟には全くいないというのが不気味さをさらに掻き立てていた。

ここには瘴気の元とも言える水晶があるはずなのに、魔物一匹出てこないこの状況はあまりにおかしい。静かすぎる。


それでも怯むことなく、足を止めずに歩き続けていると洞穴の行き止まりが見えた。

どうやら行き止まりの洞穴の天井部には吹き抜けのように穴が開いているらしく、そこだけ外の光が降り注ぎ幻想的な景色になっている。


そしてその先にあるのは豪勢な台座に置かれ、光によってきらきらと光る水晶玉だ。

私達がずっと探していた、水晶。



「あ、あれって水晶よね」


エラが呆然と呟いた。

そして、「すごいわ!」と感極まったように叫ぶと水晶玉に駆け寄っていく。


「あ、ちょっといきなり近づいたら危ない……」


はしゃぐエラに注意しようと声をかけたその瞬間。



視界からエラと水晶が消えた。



次いで、驚く暇もないままに洞穴中にギャギャギャという錆びたブリキのような音が響き渡った。

しばらくしてからそれが何者かの声で、しかも笑い声だということに気づいてブワッと鳥肌が立った。


それはとてもこの世のものとは思えない、狂ったような笑い声だった。



「よくここまで来たな、人間。ご苦労だった」


戸惑い、パニックになる私達にしゃがれた知らない声が頭上から話しかけてきた。

その声に反応して上を見ると、片手に水晶を持つ人型の魔物が宙に立っているのが見えた。

つり上がった紫の目に真っ黒な皮膚。

見た目からしてこいつは俗に言う悪魔と言うやつだろう。

エラはどうやらその悪魔に腕を拘束され、身動きの取れない状況になっているらしい。真っ青な顔をしているのが見えた。

宙に浮いているため、エラの足がブラブラと揺れている。


空を飛ぶでは無く、宙に浮く魔物なんて初めて見た。


もしかして、こいつがルルの言っていた格の違う魔物?


通常、魔物というのは基本的に言葉を発さず理性もほとんどない事が多い。

が、魔物において知能とパワーの力関係は比例しており、知能が高いものほど比例して能力値も高いものとなる。

人型と言うだけでも凄いのに、言葉を話すなんてこの魔物は相当強いはずだ。



乾いた喉でゴクリと唾を飲み込む。


「さて、遠路はるばるようこそ。よくこんな辺境の地まで来てくれたものだ。君たちの目的はこの、水晶玉だろう?」


人型の魔物はしゃがれた不気味な声で宙に浮いた状態のままで水晶玉を見せびらかすように掲げる。

そして、ニタリと笑った。


「なんでもこの水晶から漏れでる瘴気を塞ぎに来たとか。他の魔物から聞きだしたよ。でも残念だったな。この水晶は私がいる限り封印出来ない」


そう言うと悪魔はまたギャギャと錆びたブリキのような笑い声をあげる。


何がそんなに楽しい。


異様な雰囲気の中、何も出来ずに悪魔を睨む時間が続く。



「お前は何が目的なんだ」


アドルフが悪魔に向かって問いかけた。


「私はね、誰よりも早く水晶から瘴気が漏れ出していることに気づいたんだ。瘴気の力は我々魔物にとっては偉大でな、水晶の近くにいるだけで大幅に能力が強化される。唯の一魔物に過ぎなかった私も瘴気の力によって今やどんな魔物にも負けない力を手に入れたんだ。私はこの水晶に選ばれたんだよ!!」


そう言ってうっとりと虚空を見る悪魔の隣で小刻みに震えるエラはなんとか拘束から逃れようともがいている。

が、拘束の力は思いの外強くビクともしないようだった。


「この機を逃す手はないだろう?私は、この力を使って私のための、私が王の世界を作るのだ。·····だが、まずその為には人間を滅ぼさなければならない」


滅ぼすという言葉に反応した私達を見下ろすと、魔物は気味悪く笑った。


「たくさん考えたよ、人間を楽に滅ぼす方法を。そんな時に水晶の瘴気を封印しようと旅をしている人間がいると聞いてね、私は閃いた。そうだ、人間の振りをして人間を滅ぼせば良いじゃないか、と。幸い私は元々人間に取り憑く能力を持っていてね。その上、今は水晶によってその力も強化されている。私がひとたび人間に取り憑けば、取り憑かれた人間は即死ぬだろうね」


ご機嫌で魔物が語るのを見ていた私はそこでようやくやつが何をしようとしているのかを理解した。


つまり、こいつは私たちの中の誰かに取り憑き、あたかもその人物かのように振る舞い騙しながら人間を滅ぼそうとしているということだ。

確かに魔物の姿で人間に近づくよりも人間の姿で近づく方が危害を加えるのはよっぽど楽だろう。

簡潔に言ってしまえば、世界征服が目的らしい。



正直、あまりにもスケールの大きい話に現実味がわかない。


だけど、今ここでこいつを倒して水晶を封印し直さなければどの道この世界は魔物に喰い尽くされ、滅びてしまうのだ。

現実味がなかろうがあろうがこいつは倒さなければならない。


慎重に悪魔の様子を見る私達を見て悪魔は口角を上げる。

そして何を思ったか、悪魔はエラを拘束したままもう片方の腕を岩壁に向けた。


「見よ、私の力を!!」


悪魔がそう叫んだ次の瞬間。

やつの手から目に見える衝撃波のようなものが現れ、壁が大きな破壊音を立ててガラガラと崩れ落ちた。

「ひっ」とルルが引き攣った声をだした。


「この力があれば人間も魔物もあっという間に私の支配下だ。

だが、そうだな、どうせ取り憑くのなら一番強いやつが良い。そうすれば私の力とそいつの力が合わさり私は更なる力を手に入れるだろう。·····さて、どいつにしようか」


どう動こうか考えあぐねている私達を嘲笑うかのように悪魔は悠々と話し、それから自分が拘束しているエラを見るとニヤリと嫌な笑みを浮かべた。


「あー、こいつはダメだ。魔力は持ってるようだが身体的に弱い、私の役には立たないな」


そう言い終わるか終わらないうちに、悪魔は今まで拘束していたエラを下に向けて放った。

まるで、幼子が飽きた玩具を投げ捨てるかのように。



「エラちゃんっ!!!!」


慌てて落下点へ走る私の両脇をライルとアドルフが目にも止まらぬ速さで走り抜けた。


そうして次の瞬間には、既に落下地点に追いついた二人がエラを抱えているのが見えた。

ほっと息をつくものの、エラは目を瞑ってぐったりとしている。


私も二人に数秒遅れてエラの元へ辿り着く。



私はエラの脈をはかる。

·····少し弱いけど正常だ。

呼吸も浅いもののしっかりとしている。


「·····気を失ってるだけみたい」


恐らく落ちた時に気を失ったのだろう。

何とかしてあげたいけど唯一治癒の力が使えるルルにも精神的なものはどうにも出来ない。見たところ別に外傷がある訳でもないようだし治癒の力を使っても状況は変わらないだろう。



「でも受け止めてくれたおかげで傷はないみたい。ライル、アドルフありがとう」

「いや、本当に間に合ってよかったよ」

「別に、俺はスーが助けようとしてたから助けただけ」


ライルは今は猫を被る必要が無いと思ったのか、素でそんなことを言う。まあルルは若干、パニックに陥っているようでライルの言葉も聞こえていないようだから問題は無いのかもしれないけど。



「人間っていうのは情に厚いんだなあ。皆で助けにいくなんて私は感動したよ」


ホッとした雰囲気が漂ったのも束の間。

頭上から馬鹿にしたような口調のしゃがれ声と共に拍手の音が聞こえた。



「てめぇ·····」


アドルフが額に血管を浮かべ、悪魔を睨みつける。


「まあまあ、そんなに怒らないでくれよ。怒ったところで人間の君たちは宙に浮くこの私の元まで来る術なんてないのだから」


悪魔の煽りにアドルフが睨みをきつくする。

しばし膠着状態の中、今まで妙に静かだったルルが突然騒ぎ始めた。


「いや、私もういやよ·····!一度退却しましょう?ね?い、今のままじゃ、死んじゃう·····、いや、いや·····」


究極まで生命の危機を感じ、パニックになっているらしいルルに私は「落ち着いて」と声をかける。


「大丈夫、大丈夫だから。今、下手に逃げたら逆に危ない。落ち着いて一旦ゆっくり、深呼吸しよう」


今までの旅ではルルも私も護られるばかりでまともに魔物と対峙したこともなかった。隠れたりしているうちに皆が魔物を倒してくれていたから。

それに、ルルは元は貴族の出で根っからのお嬢様だと聞いた。

今まで蝶よ花よと育てられたのに突然旅に出され、その上、今こうして命の危機に陥っている中でパニックになってしまうのは仕方の無いことだろう。


もちろん私だって怖い。

でも、ここで私までもが正気を失ってただでさえ負担をかけているライルとアドルフの二人にこれ以上負担をかける訳には行かない。


「落ち着こう、大丈夫。大丈夫だから」

根拠もないけどこの言葉を繰り返す他、対処法はない。

それでもルルは恐慌状態から抜け出せずに遂には隅で蹲り「いやだ」と繰り返すばかりだ。


「おやおや、仲間割れかい?そこの女、先程から耳障りなんだがなあ」


魔物がこちらをチラリと見やる。

その視線に気づいたライルとアドルフが私達を護るように前に立った。いや、ようにじゃない。実際にこの二人は私達を護ってくれているのだろう。


「見たところ、先程の女と同じでなにか特別な力は持ってるようだがやはり身体的に弱い。そいつも使えないな。

·····ん?なんだ、そこのもう一人の女なんかなんの能力もないじゃないか。身体的に強い訳でもない。なんでこんな無能がパーティにいるんだい?まったく、ゴミ以下だな」


無能だと言われているのが私だと気づき、カッと頬が赤くなると共に心臓に鉛が乗っかったように重くなった。


·····でも、そうだ。私がなんの役にも立っていない無能なのは確かに事実だ。

でも、だからこそ、ここで私が使い物にならなくなって更に迷惑をかける訳にはいかない。



なんとか気力を保ち、魔物を睨みつける。

と、その時。


前から「あ"?」という獣の唸り声の様な声が聞こえた。

その声に反応し声の主を見た私は思わず息を呑んだ。










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