戦闘訓練
修正して見やすくしました
この世には不思議で特殊な力がたまにある。実在が確定している話だと、まず魔法を扱う際必要だと推測される魔力について語ろう。
基本的に何でも有り。見えないし重さも感じないけど量があれば尚更。勝手に出てくる魔法陣を通して魔法に変換される様だ。使用者の周囲少しなら魔法陣を通さなくてもいい。今のところ俺が唯一使える。記憶さえ完璧なら素直に喜べるのに。
次にラック。剣気というものが扱える。武器の気?らしい。剣の天才と呼ばれる所以は特にここにあると思う。以上。
時間は戻って決戦前日の昼。最後の訓練にラックが勝負を挑んできた。
「1本だけだ」
「よし!」
熱が入り過ぎるのを避ける為、1太刀入れるだけの遊びと2人ともが即座に決めた。
「今日は珍しく準備運動してたね。遠足だと目的地に着いてようやくわくわくするタイプなのに!」
ラックの体に力と共に剣気なるエネルギーが充満していくのを感じ、余裕をもちながら二本の木刀を揺らす。獣人の中でも小柄だが運動神経の良いガルは二本の剣を使わなければ攻撃力が物足りないとしている。逆に堅実な守りを好むラックは片刃の刀を使うのが得意らしい。
2人が試合を始めるのを察してか、周りが観戦する空気に変わり始める。
十分に距離を離せたのを確認するとラックが続けざまに三回武器を振る。ここでガルは魔法を使う。身体に魔力を巡らせそれを力に変換する、簡単に言えば身体強化の魔法だ。打ち合うならこれがないと話にならない。
「お前らに釣られてだ」
距離を測りながら刀の通った痕に上と下から木刀を振ると弾かれた。短い硬直を狙って素早く回り込む動きと牽制と剣気の設置を兼ねたねちっこい一振をいなし片手で設置された罠を壊す。
「みんな、ちょっと近いよー」
「…」
周囲には決して多くはない人数しか居ないが、円を作るように集まった為思いの外圧迫感が出ている。狭い空間では当然設置罠がある方が有利だ。
じわりと刃を当てられる気配を感じながら長引くだろうかと思った。…足音がしない?
ダ!と床を踏み鳴らす音で危険を察知した時、ガルは虎柄を見失った。じわじわと有利に押し進められると覚悟していた相手の意識の隙を突き、立ち位置が直線で重ならないように慎重に立ち回っていたラックは、直線の踏み込みでガルを右の背中に捉えていた。
「ぁっ…!」
全身のバネと遠心力を伴った一薙に、バギッと鈍い音が響く。何も思い浮かばなかった。ただ、無様に、嫌な予感だけを頼りに、体を反射的に縮めた。勢いで持ち上がった木刀が大きな音を鳴らす。衝撃が伝わってくるがギリギリ取り落とす事はなかった。
何とか立て直そうと距離を取ったガルに追撃は来なかった。野次馬も決着が近いと思ったのか声が大きくなり始めた。
「何てやつ…!」
「1本だけだもんな」
木刀に違和感がある。見た目は大丈夫だけど片方は多分真っ二つだ。腕も痺れて動かせるかどうか…。今の俺には重過ぎる。そう考え折れた木刀をギャラリーの方へ捨てた。
「流れてきた!」
「なんでー?なんでー!」
「みんな蹴ってる!邪魔だから!」
なんと言う幸運!後方の観客席から新品の木刀が降ってきたではありませんか!
「へ?ちょっ!?」
予想外な一降りに焦った虎が罠を仕掛けた虎穴から出てきた。
その瞳には迷いが浮かんでいた。まだ選択肢があるらしい。それはそうと投げたって1本は1本だろう。ふっと力を入れ持っていた木刀をぶん投げる。複数存在する選択肢に一瞬の逡巡が見えたが、何を考えたのかラックは宙を舞う木刀目掛けて刀を振り上げた。
「し·ん·わ·ざ✌️」
透明な剣気らしいものが二つの木刀を吹き飛ばした。そして口の動きで自慢を欠かさないラックはその動きのまま目の前の相手に武器を振り下ろす動きに変える。その時ガルは片足で踏み込む動作の最中であった。
「…負けたよ」
ラックの手の中の柄を蹴り上げ言い放つ。
「完敗かな。これは俺の負けでいいよ」
三本目の木刀が地面に落ちて乾いた音が鳴る。明らかに言外に負けてないですよと言っている言葉が続く。
「…あー、こ、これはぁ…」
「熱くなりすぎだ。ま、引き分けって事で、じぁーねぇ」
「えー…」
そう言い残して歓声の中に溶けていったガルを見てテンション高すぎだろと思うラックだった。