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一匹の獣人が神になるまで  作者: 狐魂
第3章~その掌で踊る竜~
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平和

 この水の都アーマンドで雇われている能力者8名は、有用性の差はあれど全員が羨ましがられる地位と金を得ている。ある者は未だ前人未到の地を開拓する対価を得て。またある者は人々が奇跡と呼ぶ確率を意図的に起こし、金を集める。

 それとは別にある者は己の力の限界を求めてドラゴンを超える存在を探すついでに狩っただけの者、過去を哀愁と共に罪滅ぼしと自らに課し助け合い見守る者。理由は様々ながら何らかの利益を与えその褒賞を受ける。

 その中で有り余ったお金を豪邸に充てた者が3名。その内の一家では無意味に長い食卓を挟んでこんな会話が繰り広げられていた。

 「父さん。やはり要所要所で姿を晦ます彼はあまりに不自然です。父さんの権限で今すぐにでも拘束してください」

「…」

「僕の能力は存在を隠し気配を感知する(見る)能力。ガル(あいつ)は"常に居ない”んです、父さんは知らないだろうけど植物性魔獣の時も月の欠片が落ちる時も!」

 月の欠片が落ちる時、つまり隕石は占い師によって年の初めに予言されていた事だった。しかし占い師によると何らかの要因によって月が地に墜ちる事はないと断言された。そこで人々に要らぬ混乱を齎さない為この情報は水の都とその周辺の村や町のみに留めた。ここで透が言っているのは何も知らない癖に降って湧いた様なやつがどうして大事な場面で運良く現れるのか、そして(家に、部屋に)居ないのか、と言う事だ。

「父さんだって分かってる筈だ。急に全貌を見せたと思ったら潰れていた麻薬(ミスト)の組織、あの赤い光…。誰も原因が分からないって言ってるのにあいつはまるで後始末したって感じで悠々と帰って来た…!」

「ふむふむ。随分弄ばれているね…?透、お前はまだ若い。そんな時は当たって砕けるのも1つの手だと私は思うぞ。なぁに、子供の内から失敗を学ぶのも悪い事じゃあないさ」

「…!でも…玉在(リーダー)リモア()を喜んで手に掛けてそれで、義賊とか名乗ってる様なやつなのに…間違いじゃないけど…」

「手を掛ける?それなら本人は気付いていないのかも知れないが、もう一押しで落ちるところまで来ているんじゃないか?」

「…え?あ、そうか。身分だって借り物かも知れないし!父さんはもう1回でいいからガルって人の事調べてください、僕は」

「その必要はないだろう。何度調べても同じ情報しか出ないくらい平凡で…両親は事故で亡くなってしまっているが、兎に角怪しい点も不自然な点も見付からなかった。彼は正真正銘ガル·ワーグナー君だよ」

「…行ってきます」

 自分の父親であるシキにそう断言されると透は不満そうに部屋から出て行った。

「行ってしまったか。柵成(さくなり)君、実は私は始終息子が何を言っているのか良く聞き取れなかったのだが、恋愛の話で良かったかね?」

 シキは自分の息子の姿が見えなくなると、傍に立っている料理人兼庭師兼執事に話しかけた。

「…はい旦那様。完璧です」

「それは良かった。帰ったらタイタニックでも薦めて見ようと思うのだがどうだろう」

「はい…フフっ旦那様。フフっ…完ふふふ…完璧です」



 (おっと虎白(こはっ)くんが仲間になりたそうにこっちを見ている!)

「ん…」

 今日の理科の授業(唯一価値のある時間)である1限目、瀕死なのを押し隠しながら黒板を眺めていたガルのお腹が鳴った。小さな音だったのだが、窓側の1番後ろからの音は適度にうるさい授業中であっても周囲の数人に聴こえるには充分だった様で、反応が、特に獣人の耳が動いたのが見えた。先生の授業じゃなかったら天秤に掛けるまでもなく栄養補給したんだが。流石に腹が鳴るより食べる方が失礼だよな?これからもっと鳴るけど。

 そんな葛藤を知ってか知らでか隣で暇そうな虎はポケットから飴を取り出して渡してきた。超ニコやかに。文字で表すとニコーッ!て感じ。

 ノートにありがとうと書いて破って渡した。当然飴は机にしまった。

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