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アモルファス  作者: 霧音
第一部 ドロワ
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十ノ八、パレード

 メインストリートまで来ると、人々が道脇に集まっているのが見えた。

 賑やかしい午前。

 昨日は月魔の騒動でこの辺りは大混乱していたが、今は人々は道の端にきちんと避けて並んでいて、中央の大通りを竜騎兵が整然と行進していた。


 両脇をドロワ白騎士団が進み、誘われるように中ほどを往くのはアリステラ騎士団だ。


 本来の壮行会ほど賑やかしくはないが、街の人々に見送られての出立だ。

 街人の本音としてはまだ月魔への不安があるが、ドヴァン砦との交渉の話はわずかずつ漏れ聞こえていた。

 数日と経たず、全ての騎士団が撤収するだろう。


 イシュマイルは、見知った顔を探して行列を注視する。

 カメラがフォーカスするようにある一点に張り付き、そこがズームアップされたかのように視界が明確になる。


 騎乗のロナウズが見えた。

 イシュマイルは近付くより先に、その姿に別の何かを思い出した。


 ゆっくりと竜馬を歩ませながら、左右の人々に笑みを向けているロナウズを見ながら、イシュマイルの脳裏に見覚えのない街並みが浮かんだ。


 目の前の光景に、どこからか切り取ったような記憶が被さってきた。

(街……パレード……?)

 イシュマイルが軍隊のパレードを見たはずはない。

 しかしイシュマイルの記憶の中で、行列の中心にいる人物はロナウズに似ている。

(……違う、ロナウズさんじゃない)

 街並みは華やかで、居並ぶ人々の数はもっと多い。

(どこだろう? どこで見たんだろう?)


 それはバーツからファーナムの話を聞いた時に浮かんだ映像かも知れない。

(ハロルド………さん?)

 自然とその名前が浮かんだ。


 今、目の前にいるロナウズはおおやけの人としての顔をし、竜の背に跨っているためか一段と高い所に居るように見える。

 どこか遠い存在に思え、それがこのような幻を見せたのかも知れない。


 イシュマイルはハロルドの存在を感じて、その場に立ち尽くしていた。

 とても大きな壁を見上げる心境でイシュマイルは呆然としている。


 ロナウズが、イシュマイルに気付いた。

 群集の中にあって、あまり背丈も高くないイシュマイルを見つけることが出来たのは、ロナウズの持つ『能力者を見分ける力』のためだろうか。


 ロナウズはそっと片手を挙げ、イシュマイルに合図をよこした。

(ロナウズさん!)

 イシュマイルは、ハッと我に返る。今ロナウズを見付けたかのようだ。


 イシュマイルが行列に追従して歩き出そうとすると、ロナウズはそれを手で制した。

 目の前を行き過ぎながら、ロナウズが唇が何かを言うのが見て取れた。

(アリステラで)

 イシュマイルにはそう聞こえた。

 イシュマイルが頷くと、ロナウズは笑ってもう一度手を挙げ、前へと向き直った。


 そして、そのまま行列はゆっくりと外門へと進んでいく。

 イシュマイルは、その場から後姿を見送った。



 イシュマイルがロナウズを見送っていた頃。

 アイス・ペルサンが、シオンの元を訪れていた。


 ライオネルからの条件である『全てのガーディアンはドロワ市外に』という一条のため、アイスも弟子を連れてドロワを発つ準備で忙しい。

 その合間を縫って、アイスは挨拶もかねてドロワ聖殿に顔を出していた。


「最初に行くのはファーナムか」

 裏方の執務室で、シオンも仕事の手を休めてアイスと話している。


「そうね、ファーナム聖殿に学生を送り返すのと……あと、評議会には顔を出すよう言われているわ」

「ふン……事情聴取か」

 シオンは含んだ笑みを浮かべる。


「――それで? 君はどのくらい話すつもりだ?」

「さぁ?」

 アイスは軽く答えたが、本当に何も考えていないだけでもある。


「私の腹を探るより、私も気になってることがあるのだけど」

 アイスは逆に問い返す。

「言ってみろ」

 シオンは、意外そうにアイスの顔を見る。

 アイスはシオンの顔を伺いながら、訊いた。


「ねぇウォーラス。あなた、妙なこと考えてないでしょうね?」

「妙なこと?」

 シオンは失笑して、流した。

「妙、とはたとえば? 私がノルド・ブロスに鞍替えするとでも?」

「……洒落にならない冗談だわね。帝国の三皇子はあなたの弟子なんでしょ?」


 シオンとアイスの会話は、互いが上滑りのまま牽制し合っているかのようだ。

「……甘いな、アイス。私も彼らも、お互い手は抜かない性格の者ばかりだよ。昔のことはどうあれ」

「言い出したのはあなたよ。それに私が言いたいのは、そっちじゃあないのよね」

「君こそ、ライオネルに情でも移ったのかと思ったよ」

 言われたアイスはツンとして椅子から立ち上がった。

「あんな子供」


 アイスはそのまま退室しようと扉まで行き、振り返ってシオンに言い放つ。

「月魔石が無事にエルシオンに送られるのを見届けようと思ったのだけど……その時間も無さそうだから行くわ」

「……何?」

「今からでも祭祀官を鍛えればなんとか実戦に――なんて考えられちゃ、困るのよ」


 シオンの表情が厳しくなる。

 アイスは怯む様子はなく、言葉を続ける。

「無理な話よ。ライオネルに出来たことは、ライオネルだから出来るのよ。レアムもね」

 言われたシオンは、それまでと違い冷たい声になって答える。

「君に言われるまでもない。その件に関しては私の方がよく知っている。奴らのこともな」

「そう。……だと思ったわ」

 アイスは小意地悪く言うと、悪戯な笑みを残してその場を立ち去った。


 シオンは不機嫌そうに座ったままだ。

 アイスと入れ替わりに入室してきた事務官が、二人の顔色を表してボソリという。

「……まるで痴話喧嘩ですね」

 迂闊な事務官は、シオンに一睨みされて慌てて別室に退散した。


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