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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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三十八ノ八、月光

――ドヴァン砦。

 夜。

 ライオネルが飛竜と共に砦に帰還してから、半日が過ぎた。

 頭を冷やそうとしてか、またバルコニーに出ている。


 夜空を見上げていた。

 ライオネルらしくなくただ上を見ていて、さすがに様子を案じてかレアムもバルコニーに出て来た。

「……」

 レアムは、声を掛ける前に揃って夜空を見上げた。


 見えるのは、龍族の十七星座の一つ。

 その横には、月。

 水路で見上げたモニュメントと同じものが、天空にもある。


「……あの飛竜族の、様子は?」

 ライオネルの方から訊ねてくる。

 ノアの里で遭遇した命の危険もさることながら、全身に降り注いだ情報の量を受け止めきれずにいる。


「首尾良ぅ、というところかな」

 レアムは婉曲な表現で答える。


 ライオネルが連れて来たのは飛竜族の長、あの老飛竜の息子である。

 ドヴァン砦にいる雌の飛竜に見合わせると約を交わし、予想通り二頭はすぐに意気投合し、つがいとなった。


「うん……当然だな」

 ライオネルは頷く。

 この時点でドヴァン砦の有する戦力もまた上がったことになるが、ライオネルは更なる高見を目論んでいる。


 ともかくも。

 二人は揃って夜空を見上げる。

「兄上と……暦の話をした」

「暦?」

 ライオネルが唐突に話始める。

 地下帝国での逃避行動の件は、レアムにはまだ説明しきれていない。


「あぁ。地下洞穴を探索しているうちに、暦を刻んだ旧い時代の聖碑文を見つけたんだ。こんな時でなければ、大発見ってやつさ」

「ほう」

 レアムも興味がないわけではない。素直に関心を寄せる。


「それにしては、あまり浮かれていないな」

「まぁ、な。そして兄上とこういう話もしたのさ」


「――何故タイレス族やエルシオンは、ああも月にこだわるのか、エルシオンはどこに在るってね」

「……」

 レアムの浮かべていた薄い笑みが消える。

 沈黙が答えとばかりに前を向いた。


 ライオネルは言う。

「エルシオンの民には、古き神々がいる。その古き世界にはエリュシオンという、神々の死後の世界があるという……」

 これはタナトスにも話したことだ。

「そして霊迷宮アユラ……。全ての死者が帰り、魂を浄化する場所。死の国だ」


「レアム、お前はエルシオンに行ったことがあるんだろう?」

 ライオネルは、上を指さしてレアムに問う。

「本当はアユラ……月にあるんじゃないのか?」


 伝承ではエルシオンは天盤宮――太陽の光の中にあるとされる。

 そこはあまりにも遠すぎ、現実的でない場所。


「……」

 レアムは反応を返さなかった。

 身じろぎもせず、ただ夜の森を見つめている。

 その様に、ライオネルはただ笑った。

「答えず、か……お前らしいな……」


「レアム・レアドの忠誠心は、未だエルシオンにあるってことだ」

 ライオネルはそう言って、月――霊迷宮アユラを見上げる。

 アユラは二つある月のうちの一つである。

 絶えず同じ面をこちらに向けていて、いつでもアユラは見ているぞと子供に躾る時にも言う。


 レアムは月光から目を逸らすように横を向いた。

 わずかに動揺が見えたのは、エルシオンの場所についてではない。

(忠誠心……?)

 そんなものが、まだ?

 自分で自分の感覚が信じられずにいる。



――それは寓話だと言われ、時に絵本の題材にもなる。

 その者たち、人の形に似た彼らは、かつての大陸を離れる際に長旅の環境に耐えるため、自身の体を大きく作り変えてから出発した。


 生命の力を操る術、長い眠り。

 かつての大陸にいた全ての同胞の特徴を取り込んだ体……。彼らはその体で長い旅を繰り返し、新たな大陸に出会う都度にそれに応じた体に変化し、適応していった。


 しかし、だ。

 彼らは大陸全ての生命と同化したと思っていたが、一つの取りこぼしをしていた。

 それは、大地そのもの。

 自分たちの生まれ持った自然や環境、そのものの特性を取り込まなかった。


 種というのは時をかけて変化はするがその流れは途方もなく、繁栄するためにはある程度の間、固定化も必要だった。


 彼らは寄る辺を失った種のようなもの。

 たどり着いた土にあわせて容易く変化する生き物へと成り変わってしまった。

 自己の名と形を失い、ただ使命を本能に置き換えて彷徨うだけの生き物など……どこに生きる希望があろうか。


 次に彼らがある大陸に着いた時。

 そこは彼らにとって適応不可能な場所だった。


 その大地はあらゆる生命を取り込み、その記憶も、生命の力さえも吸い込んで同化してしまう。その果てにあるものは、崩壊しかない固定化だった。


 再びその塵がどこかの大陸の粒となり、次の生物の中で覚醒する確率など……彼らが望む再生の姿ではない。


 そこで彼らは作り出した。

 一つは、聖なる印。

 その地に降り立っても生存できる加護、変容しない確かな姿を与えた。


 そしてその印でもって、人の姿の者を生み出した。

 自分たちが大地に降りる前段階として、大地を整える役目を持つ者を――。


 彼らは七つ目の文字で呼ばれる。

 ガードナー。箱庭の管理人、と。


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