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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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三十八ノ七、巡礼の村

 三人を乗せた船が、地下の水路をゆっくりと進む。

 しばらくして気付いたことには、水路は一本ではなく何ケ所かで十字に交わり、その都度行く先を違えていることだ。


 そういった場所にはドーム型の天井があり、幾らか明るく照らされていて、必ずエルシオンや古代龍族に関する何かが有る。


「――兄上、天井にも星座図が」

 ライオネルが言うと、タナトスとカロンが揃って上を見る。

 光る点と線で描かれた座は、龍人族には見慣れたものだ。

「龍族の十七星座図だな」


 龍族と龍人族の共通の暦では、龍暦一年は十七星座で表される。

 一つの座は四十日。

 これは四大龍王が十日ずつ受け持つことで一巡する。

 零から九までが短期歴の基準となる。


「エルシオン十二宮、謎の十二星座図、そして龍族十七星座……ここには全てあるんだな……」

 タナトスが上を見ながら呟く。

 この中で実際の天体現象と合致する暦はない。


「そうだな……これが本来の――ノルド・ブロスのあるべき姿だな」

 カロンが櫂を動かしながら言う。

 タナトスもライオネルも、同意の意志をもって沈黙で応えた。 


 静かな時間が流れた。

 水の音、櫂の音……。


 ライオネルが視線を戻すと、前には子供のような姿勢で上を見ているタナトスが居る。

 いつも見ているようで、見慣れない兄の姿。


 ライオネルはここまで訊けずにきたことを口にした。

「兄上……。今こうして話している貴方は……どちらの貴方なんだ?」


 自分でも問いの意味を説明できないが、この質問が最も妥当かと思われた。

 タナトスもまた応える。

「……さぁな。それは僕にもわからない。どちらでもないかも……知れない」


 櫂を操っていたカロンが言う。

「お前たち人族は……いつもそうだな。自分が何者かわからないままに、目的だけがある」

 タナトスが振り返って問うた。

「貴方はどうなんだ、カロン」


 カロンは幼龍のように首を傾げてみせる。

「……そうだな。私も半分は人族……どちらでもないと言われれば……そうかも知れぬ。目的は無いが……役目だけは有る……」

 カロンという名の、渡し守の役目。


「僕の名と同じだな……カロン」

 タナトスが親しみを込めて言うと、カロンは頷きで返した。

「お前も名を持たぬ者か……闇の皇子よ」


「……」

 タナトスとカロンが語り合う様を、ライオネルは無言で見ていた。

 そのカロンの姿は幻であり、本体は船着き場に在るのだろう。

 タナトスも、もしかしたら実体ではないのかも知れない。


 もしかしたら、今ここに居て船に揺られているのは自分一人なのかも知れない。

 そうライオネルはうっすらと考える。


「……カロン。ところで、この船の行く先は何処なのだ?」

 ライオネルが不意に尋ねる。

「行く先か? いつもの通り、巡礼の村だ」

 カロンは答えるが、帝国人であるライオネルたちにも、そこが何処なのかはわからない。


 それはかつて、ノルド・ノア族の夫婦がロアという甥を連れてきた村である。

 ロアはそこでタナトスに似た幻影を見た。

 それはともかくとして――。


 巡礼の村は今でも駅馬車が通る拠点ではあるが、かつてのような賑わいはない。

 地下帝国を巡る巡礼が為されていた頃には、村も聖地として多くの人を迎えていたが、今はその姿もなく国境を不法に越えようという者たちだけが訪れる寒村である。


 かつての巡礼の村が、敢えてそのような選択をした理由の一つには、正しき祈りを曲げた為政者たちへの無言の抵抗がある。

 それは何世代にも渡り、連綿と続く抗いの祈りである。


 フローターズはその選択に同意する。

 この『抜け道』を利用しようと求めるのなら、この志を汲み、過去の信仰と歴史を正視し、敬意を払わねばならない。

 なんびとであれ、目的が何であれ――。


「……カロン。行く先を変えることは出来るか?」

 ライオネルが言う。

「老飛竜との約束がある。飛竜族の長のいる場所に行きたい」

 これにはカロンもタナトスも驚きを隠せない。

 野生種の飛竜の群れに近付くなど、龍人族であっても命の保証はない。


「ライオネル、一度ドヴァン砦に戻って雌の飛竜を用立ててからで良かろう。お前が剥き身で行ってどうなるものでもあるまい」

 タナトスの意見に、カロンも頷いている。


「いや、それでは駄目だ。間に合わない」

 ライオネルはここに来て急に強硬になる。

「兄上、忘れたか? 今ノア族は襲撃者の虜になっている。砦に戻っていては間に合わない。確実に一撃食らわせることが出来るのは、件の飛竜だけなんだ」

「……」

 タナトスは、この時点ではライオネルの狙いがわからずにいる。


 ライオネルは畳みかけて言う。

「兄上は、危険だと思うのなら一足先に行ってくれ。私は飛竜族に会ってから、ノルド・ノアの救援に向かう」

「ライオネル……」


 聞いていたカロンは、なおも無言で首を横に振る。

 否定よりも、呆れているのだ。

 先ほどノルド・ブロスは一つだと言ったばかりではないか、と。


 ライオネルの言葉は、ノア族を助けるために飛竜族を使い龍人族と闘わせるということだ。事情を知らないカロンからすれば、この時点でもう無茶苦茶な話なのである。


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