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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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三十七ノ一、古き店

第四部 諸国巡り・弐

三十七、探せよ求める者

――一方、ローゼライトの方は。

 エリファスが茫然としている間に、ローゼライトはとうに数ブロック離れた街路に逃げ込んでいた。


 商店がいくつも立ち並ぶ明るい場所である。

 ローゼライトは行き交う人々の中に忽然と現れた。


 しかし周囲の人々は気付かない。

 姿見えぬ老人のすぐ横を、街の人々は危機感を持たずにすれ違って行くだけだ。

 ごく日常的な街での、いつも通りの風景である。


「……おや、巡礼の方です?」

 ローゼライトの背後から、柔らかい口調で話しかける男がいる。

 振り向いて見れば商いの者らしく、その手には奥の棚から運んできた品を抱えている。

 しかし声音とは逆に、厳つい見た目の大男である。


 男は、エリファスですら見逃したローゼライトの幻術を、わずかにくぐり抜けてこの老人を見つけた。とはい言えその正体などには気付かず、いつも通りに丁寧に声を掛けただけだ。


 男は、見慣れない老人を巡礼者だろうと判断した。

「巡礼の方なれば、旅支度にご入用な品物を見繕いましょう。何かお探しで?」


 ローゼライトはというと、見破られたことに驚きはしたものの平静を取り繕う。

 ふと、男が運んでいる物がジェム・ギミックであることに気付き、これに注目した。巡礼を装い、男との会話に応じる。

「その手にしている品、中々面白い物を取り扱っていそうだが」

 ローゼライトの目から見ても、男が手にしているギミックは質も出来も良い。


「そなたの店の品か?」

「いえいえ、これは卸しの手伝いをしていた所で。ギミックの類をお探しでしたら、表の通りに行かれるが宜しいでしょう。私の従弟が店を構えております故」

 男が今手にしている品も、その店に運ぶためのものだ。


「それは良いことを聞いた」

 ローゼライトは適当に返答をしている。

 ギミックにも興味があるが、この男との会話にも面白味を感じた。もとよりローゼライトの目的の一つは、ファーナムを知ることである。


 男は言う。

「この通りは職人相手の特殊な品しかありませぬ。静かなものです」

 ローゼライトは改めて振り返り、店の中を見る。

 表側には壁などがなく、棚や卓に並べられた商品が外からでもよく見える。

「ふむ……見たところ、巡礼相手の旅装束の店のようだが……。何故このような足の運びにくい所に?」


 周囲の店はほとんどが専門職人への卸し業などだ。

 巡礼者や旅の者が多く利用する大通りからは離れているし、市民が日常的に買い出しに来るような品も少ない。ローゼナイトならずとも不釣り合いな商売をしているように見えた。


「……昔は、この辺りにも多く巡礼の方が訪れたと聞いております」

 男は答える。

「この店は、我が商会の本店なのです。形骸化してはおりますが、今も変わらず昔と同じ品を置いていて、古くからの馴染の方の目印になっているとか」

「ほほう? ファーナムにもそのような風情があるのだな」

 ローゼライトも笑って頷くだけだ。


 実際、商会の売り上げの殆どが街のあちこちにある親族の店からのものだ。この男も自分の店を構えてはいるが、今日はたまたま手伝いに来ていたところだ。


「長居をしたな。表通りの店とやら、行ってみるとしよう」

 ローゼライトは適度に話すとその店と男から離れた。

 不思議とその本店とやらに興味が惹かれたが、今は他に用もある。


 表通りに向かって歩き、途中で道を違える。

 小芝居をしたのは、男に見破られて多少肝を冷やしたからだ。

(あの看破……あのギミック。これがファーナムの技術力か……)


 少し歩いただけでも、ファーナムの街はギミック仕掛けの魔窟である。

 そのギミックのほとんどが、ローゼライトたちの帝国式ジェム・ギミックとは赴きを異にするものだ。仕掛けが違うならその対処も変えねばならない。

「……厄介なことよ」

 ローゼライトは老人らしく愚痴りながら、目的の場所へと足を向ける。


 ところで。

 ローゼライトと言葉を交わした男であるが、名をアーウィン・ルトワという。


 アーカンス・ルトワの兄の一人であり、ルトワ商会の者である。

 少し離れた場所に輸入の品を扱う店を構えており、時に他所の街に買付けに出向くなどルトワ家の者らしい身軽さを持っている。


 だがそれ以外は「普通の」男だ。

 ローゼライトとはこれきりで、特に危険などを感じたわけでもない。

 そしてその後は他の者達と同じく、忘れてしまった。


 また先ほどのルトワ商会の本店であるが、古い時代に建てられたもので店構えも小さくルトワ家の権勢にしては質素、あるいは味わいがある。

 アーウィンが言ったように商売としては形だけの店であり、主に遠方からファーナムを訪れる馴染の客を繋ぐための拠点となっている。

 迎えるのではなく、繋ぐのが役目である。


 店の持ち主はアカルテル・ハル・ルトワであり、かつてはその妻セルカ・ヴィータ・ルトワのものだった。現在の店主はアカルテル夫婦の娘であり、あのアシュレーの妹にあたる。

 彼女は亡き母の役目を継いでいる。


 最近この店を訪れた客としては、高名な老剣士がいる。

 その頃のアカルテルは忙しく、老剣士とは会わず仕舞いだったらしい。老剣士は古馴染のセルカの墓参りだけ済ませると、またすぐに旅立った。


 行く先はドロワ市だという。、

 その頃のドロワ市はまだサドル・ムレス都市連合の一員だったが、国境線が変わったために老剣士のその後はわからない。

 こういった街の噂は、外側から見える情報だけのものだ。


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