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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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三十六ノ七、シオンの記憶

――おそらくは二十、いや十七年ほど前にはなろう。

 私、ウォーラス・シオンは既知であるソル・レアドの召喚によりドロワ市に赴いた。


 ちょうどハロルド・バスク=カッドのガーディアン訓練の最中で、街にはハロルドとソルのほかレアム・レアドの姿もあった。

 何故この時この街に四人ものガーディアンが集められたのか。当時から懸念はあったが、理由を問うてもソルからの返答など、真正直に受け取るものではない。


 私はソルの立ち上げた戦災孤児院の管理を任された。

 そしてドロワ聖殿や施療院の人々とも会い、ソルがこの街で広げて来た様々なことについて、後を引き継ぐこととなる。

 理由は――ソルがハロルドの修行に専念するため。

 それだけのこと。

 私も、自分の師匠の束縛から逃れたかったから……渡りに船というわけだ。


 寄宿舎の窓からは、ドロワ旧市街の大公園の眺望がきく。

 ハロルドとレアムはいつもの広場にいて、日がな一日鍛錬を繰り返しているが、その光景たるや奇妙なものだ。


 当時のハロルドはタイレス歴での二十九。

 ファーナムの騎士団長としては異例の若さだったが、その任期も三年と短くガーディアンへと転向したという。

 しかし一流の聖殿騎士をもってしても、ガーディアン修行というものは厳しいらしい。

 ごく基礎的な日々の訓練でも疲労困憊している様が見てとれる。


 ハロルドというのは見た目の印象とは違い磊落な男で、打ち負かされたなら素直に膝を付き、疲れたなら土の上にも大の字になる。

 元の身分がどうだとか相手が自分より小柄であるなど、まるで拘らない。


 そして傍らには涼しい顔のレアム。

 もう何度もみた姿だ。

 この頃のレアムというのは、そう――今のイシュマイルのようだ。


 龍人族はタイレス族より寿命が長い分、成長も遅い種族。幼生体の時期にガーディアンとなったレアムというのは、他のガーディアンと比べても幼さがあった。

 そんなレアムが地面に転がる大の男を見下ろしている様というのは……私の目から見ても不思議に思える光景だ。


 レアムが言う。

『その痛み、その疲れ、その苦痛……今のうちに、体に刻んでおけ』

 多くのガーディアンが弟子に伝える言葉でもある。


 ガーディアンとなり不老長寿を得たとしても、その感覚がなくなるわけではない。

『無くなりはしないが……それどころではない。他の命を踏み台にして生きるのだから』

 細かい感情や感覚は飛び越えてしまう。


 ハロルドが問う。

「限界がないから、無茶をする?」

『大雑把だな』


『でも、その通りだ。精神を鍛えないと、先に心が擦り切れる。そうなったら魔物より性質が悪い』

「だから……騎士や適合者の子供からしかガーディアンを作らないと?」

『ガーディアンといえど、完璧なシステムではないのだよ』


 その通りだ。

 エルシオンなしでは、生きられない。


――私はハロルドの訓練期間中、ずっと彼らの近くに居た。

 ハロルドがガーディアンと成った時には、ドロワに残ったソルの傍に居た。

 ハロルドのあの事件のことも、ドロワで耳にした。


 その後の、ソルの時にも。

 私はソルの最期をドロワで看取った。


 一度はドロワを離れていたレアムが戻ってきた時、出迎えたのも私だ。

 だが、すぐにウエス・トール王国に送り返した。

 フィリア・ラパンからの依頼だと理由を付け、かの地で子供を受け取れと言って炊き付けた。早くしなければ、また一人ガーディアンが死ぬかも知れない――。


 直感というよりは、これはソルから引き継いだことなのかも知れない。

 何故ソルが自分の後継に私を選んだのか、今もってわからない。わからないが、この一連の出来事、現在いまに繋がっている気がしてならない。


 だが何故だろう?

 何故こうも、視えないのか。

 私にどう動けと?

 ソル――。



 ファーナム市。

 現在。


 ファーナム聖殿の礼拝堂でガーディアン、アイス・ペルサンは『ヴィジョン』から覚めた。

瞼を開くと、日常が戻って来る。


 たった今まで、二十年ほど前の記憶の断片を旅してきた。

 それもウォーラス・シオンの心の中の世界を、である。

「これがウォーラスの、記憶……?」


 予想外に生前のハロルドや当時のレアムの姿を垣間見た。

「ソル・レアド……」

 アイスの憶測では、ヴィジョンに現れるのはノルド・ブロス帝国の皇帝アウローラやその周囲の人々だと思っていた。


(ウォーラスの葛藤は帝国との関係かと思っていたけど……)

 ウォーラス・シオンが、彼らしくなく行動を停めている理由をアイスは探っている。


 図らずも引き寄せたヒントは、ハロルドの記憶だった。

 けれどその内容は、他愛もない日々の様子にも見えた。

「……違うわ。この記憶には幾つもの枝葉がある。どこが根でどこが梢の先なのか、ウォーラス自身も見えていないんだわ」


 アイスならずとも疑問に思っていたのは、ウォーラス・シオンが長らくドロワという一つの街に留まり祭祀官や祭祀官長の代理という公職を勤めてきたことだ。これは通常のガーディアンの活動ではない。


 単純に見ればソル・レアドの後を引き継ぎ、それをエルシオンも認めてきた為ではあるが、それら全てがこの記憶に起因するとなると一気にきな臭くなってくる。

(葛藤の根は……ハロルドの事件? ウォーラスはもしかして、傍観者ではなく――)


 もしかしたら。

 アイスは思案しながらも、感覚を遮断する。

 今の閃きを『流れ』の中に解き放たない為に。


(ガーディアンとエルシオンを繋ぐ流れ……あらゆる記憶の河の中に、ウォーラスからは見えない情報がある……?)

 ウォーラス・シオンの記憶の最後は、真っ暗な空間だった。

 何もない流れなどない。

 有るはずなのに見えない『流れ』が、そこにある。

(ウォーラスが動けないのは、そこにある『答え』に辿り着く道がないから?)


 色々あってシオンはドロワから離れた。

 大きな変化ではあるが、スドウに入ってもまだシオンは次の行動を取ってはいない。


「私なら……見えるのかな……?」

 アイスは、誰かに確認するようにそう言葉にする。


 それは危険な好奇心かもよ?

 そう囁く心の声はアイス自身のものである。もしくは、悪趣味な覗きで終わることかも知れない。


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