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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
356/379

三十六ノ五、白い部屋

「まずはこの光……どこから射している?」

 道を少し戻り、先ほどよりも明るい光が差し込む場所を確かめる。


 不自然に白い光。

 燕竜たちが逃げて行った隙間からではない。別の、もっと高い所から白い光が注がれている。


 光を追って視線を上げると、天井が緩やかに高くなりながら続いていくのが見えた。

 天井の岩肌は白く、光源があるのか上に行くほど明るく見える。

 白く見える石が編み込まれたように絡み合っているが、光の源が何処かまではわからない。 


「岩全体がぼんやりとして……光ってる?」

「いや、乱反射……じゃないかな?」

 タナトスが上を指示して言う。

「見ろ。あの岩、透けているぞ?」


 それはテルグム晶石のように鈍く透け入り、それでいて光を蓄え、伝播してゆく。

「……確かに。龍晶石に似ているが……天然石にも見える」

 龍晶石に特有の鱗のような層は確認できず、天然石ならば未知のもので、その巨大な鉱床ということになる。

「……」

 二人は思案顔で見合うだけだ。


 燕竜と遭遇した付近も岩肌が漆喰のように白く見えていたが、ここではより滑らかな白い壁が緩やかに続いている。

 南部ではドロワ近郊や、サドル・ノアの村周辺なども白く滑らかな岩が露出している。大陸の外周に行くほど岩盤が白いのである。


(そういえば、サドル・ノア村の遺跡の白石もぼんやり光っていた……レアムが龍族の呪文で起動させて――)

 とすると、今ライオネルたちが居る此処にも。

(魔力の源はおそらく水プラント……)


 白く見える岩壁には所々に鈍く透けた石が溶け入るように混ざっている。

 氷河の洞窟のような滑らかな岩肌。だが半透明の白石は氷ではなく手で触れても冷たさはない。むしろ地下であるのに温度差すら感じない、ただ肌に吸い付いてくるような感覚だけが伝わる。


 少し進むと、アーチ状の穴が開いている白壁が見えて来た。

「見ろ、石に加工した跡がある」

 アーチを支える柱部分は人工的な形状をしていて、簡素ながら装飾も施されている。壁の向こう側はより強く白い光が見えていた。


 誘われるように近づいてみると、中は広い空間が開いている。

――白い部屋がある。


「……まるで、龍晶石だ」

 アーチをくぐるより先に、揃って上を見上げた。

 六角柱あるいは八角柱の巨大な結晶が、天井から幾つも下がりまた床からも生えている。大きさや形は不揃いだが、壁沿いに一列並んでいて規則的な壁の模様を成している。


 龍晶石――ジェム原石は氷のような透明な石だが、この部屋の結晶柱はそれに比べると幾らか白濁している。光を取り込み、跳ね返し合って白い空間を作っている。


「なんだと思う? この部屋」

 タナトスが、軽い口調で尋ねる。

 問われてわかろうはずもないが、人工のものであるのは間違いない。

「……洞穴自体は広いが……人族の大きさに合わせてあるね……」

 ライオネルもそう答えるしかない。


 中に入ってみると、やはり部屋である。

 洞穴は妙に細長くゆるやかな弧を描いているが、幾つかに仕切られた人工の空間である。

「何故あの亜人たちは、ここには来ないのだろうな」

 ここには亜人はおろか、生き物の気配がない。


 簡素ながらテーブルらしき塊、椅子らしき窪みがある。人族に合わせたサイズだが、それ以外の道具もなく生活の痕跡もなく、無機質ですらある。

 建具の代わりに、所々に驚くほど透明度の高い石柱がある。低いものはサイドテーブル程度、高いものは天井に向かって伸びている。


「……さぁ。これという術や仕掛けもないし、他の理由が――」

 弧に沿うように歩きながら、ふと気付く。


 一枚の大きな岩が衝立のように立っている。

 不自然に中央に置かれ、周囲には空間もあり、一種のモニュメントかと思われた。

「何か彫り込んである」


 周囲と同じ鈍く透ける石材で造られており、模様らしき線が見える。

 遠目にもこちら側と向こう側、両面に刻まれているのがわかる。


「石碑……聖碑文の類か?」

 エルシオン神話では、石に刻まれた言葉――碑文だけが正典とされる。

 自然と興味を惹かれ、二人とも壁の前へと立つ。


 点や線で簡素に描かれた模様が彫り込まれていた。

 模様の下には、文字らしき細かい掘り込みが並んでいる。

「……絵と……それを説明する文字列、か」


 ライオネルは様々な文字と言語に通じる学者であるが、タナトスの方も古代魔法の研究者である。常人には意味不明な碑文も、この二人にとっては専門分野である。


「これはデュオデキム天体配置図の座だな。十二宮が全部揃っている」

 点と線で描かれた模様――星座に似た図である。

 タナトスは指さして、図形と文字が十二セットあるのを確認する。

 縦に四段、それぞれ三つずつ。


 ライオネルは文字をじっと見ている。

「これ、エルシオン文字だけじゃない……一列目は神聖語の綴りか?」

 文字の一つ一つに、見たこともない装飾が加えられている。碑文に於いてはただの飾りなどというものはない。装飾にも何かしら意味を持つ。


 タナトスも文字の解読に加わった。

「あぁ、一列目は座の通称が書かれてるな。一つ目は……ハノーブ……かな」

 ライオネルよりは大雑把に読み解いた。


 ハノーブ、現在も在る地名であるが、刻まれた綴りは古い時代のものだ。

 その下に続く細かい文字は、ハノーブ座の由来や伝承などが続いてる。


「アウトゥーダ、ボレアー、カルバスス……。文字の方も十二宮揃ってるが……しかし、この並びはなんだ?」

 図と文字の組み合わせは合っている。

 しかしその並び方には違和感があった。


 碑文字は光を攪乱する奇妙な石の両面に彫り込まれている。

 彫りが浅く細いので、やや読み取り難い。また右始まりと左始まりの文字列が交じり合っていて、どうやら表側と裏側の文字が所々で繋がっているらしいが、その効果もわからない。


「一段目はハノーブ、フロント、オヴェスで一区切り。……何だろう? この法則」

 エルシオン十二宮、そして十二神殿の並びでは、一番手はテルグムのはずである。

「……」

 ライオネルは文字の装飾と位置、そして石に刻まれた溝の形状まで仔細に見ている。

 碑文そのものに仕掛けがあるのでは、と考えている。


 一方タナトスは一歩下がり、この大石全体を改めて見る。

「なぜ……円形に描かれていないんだろうな?」

 これがエルシオンに関わるの碑文ならば、デュオデキム天体配置図は真円の形に刻まれているはずである。


(もしかして……エルシオン信仰とは関係なく、別の目的で刻んだ物?)

 案内人や隠遁者、まつろわざる者が潜むと謂われる洞窟である。

「三つずつ四段……四、か。地下帝国を知る者ならば、龍王への敬意かも知れない」

 四大龍王、四つの方位、正方形のシンボル……。


「……そうか。十二宮でなく、文字だ」

 タナトスがその簡単な法則に気付いた。


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