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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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三十六ノ四、燕竜

 タナトスは無闇に歩き回る前に、先ほどの焼き煉瓦の道を辿って確かめた。

 少し戻ったところで立ち止まる。

「……やはり有ったな。ここだ」

 ライオネルが追いつくと、煉瓦を組んだ模様の中に異質な十文字のマークがある。


「確かに。これは……方位?」

 十文字の印を起点に、煉瓦道も四方向に延びている。

「――かどうかは測りかねるが、道標ではありそうだ……」

 タナトスは周囲を見回した。


 十字のうち、片方は先ほど亜人たちが来た方向と立ち去った方向だ。

 対してもう片方は水プラントに向かっており、その反対側は――。


「……こっちの道。跡は残っているのに灯りは置かれていない。放棄されたか」

 見れば、途中までは煉瓦敷きになっているが、徐々に荒れて途切れている。

 暗い闇が続いていた。


「行ってみるか?」

 止めたところで行くつもりのタナトスである。

 ライオネルは頷くだけだ。

「えぇ。あの亜人たちにとって、この道の先には用がないということ……。遭遇する確率は低いだろう」


「――だが、それ以前にここに居た者には大事な何かが有ったはず。十字路の片方は水プラントという重要な施設。なら、もう片方にも何も無いわけはない。何しろ、こんな地下に整然とした歩道を作るような連中さ」


 煉瓦敷きの道を作ったその者たちは、今となっては伝える物語すらない。

 失われた者たちだ。


「彼らは巨大な龍頭亜人ではない。我々にかなり近い体格と文明を持った者……となると?」

 先程のキメラ達ではない、タイレス族やノア族などの人族にも伝承がない。

 相当に古い時代に生きた者たちは、あの水プラントにも関わっていたのだろう。

「……」

 タナトスは問答をやめ、笑みを浮かべる。


 面白くなってきた、と口にはしないが荒れた煉瓦の道を辿って暗がりを進み、ライオネルも背後を警戒しつつそれに従う。


 しばらくの間、二人は暗闇の中を足元の煉瓦道の跡を辿って進んでいた。

 道は何度も途切れそうになり、自然と下を注視しつつ亜人にも警戒しながらの道行である。中々に骨が折れた。


(天井が低いな……)

 時折立ち止まって、上を見る。

 低い、というのはライオネルたち人族が難なく歩行できる高さ――つまりは龍頭亜人ら巨人のサイズではないということだ。


 水プラントのあった最初の洞穴は、空間そのものは巨大であったが、プラントであれ計器であれ人族のサイズだった。

(地下帝国とその水源は古代龍族が造ったものとして……送水プラントやその諸々の設備は人族が後から作ったもの――か)


 この二つの事柄の間に、どのくらいの年月の開きがあったのだろうか。

「兄上」

 先行しているタナトスの背に声を掛ける。

 周囲に響かぬよう、声を落として。


「ここはやはり、自然の洞窟ではない様子ですね」

 タナトスも立ち止まって振り向く。

「あぁ。風に……異臭が混じりだした。外海からの空気が抜けている」

「えぇ」


 洞穴内の空気は循環している。

 抜ける風が、ときおり笛のような音を立てる。

 外海が近いのかも知れない。

 ノルド・ノアの里も大陸のかなり外側にあるため、海側に出たとしても不思議はない。


「かと言って、古代龍の住処――地下帝国とも思えない。これは……外に向かう目印の道だったのでは?」

「……うん」

 タナトスも考えている。

 そうだとしたらその目的は?


「聞いたことはある。『案内人』の抜け道は一度外海に出て船で外周を回るとか。……有り得ないことだけれど」

 外は大嵐の海、それも毒の風を伴う。

 正気の沙汰ではない。


 だが歩き進むうちに、本当に行く手が明るくなってきた。


(外海側は絶えることのない曇天だと言うが……)

 随分と明るい気がする。

 考えるライオネルの耳に、聞き慣れた鳴き声が入って来る。


 ライオネルが警告する。

「――兄上、竜に注意を。巣があるぞ」


 言い終わらぬうちに、岩陰を複数の影がよぎった。

 一羽が騒ぎ立てながらの場を逃げ出すと、周囲の竜も呼応したらしく、羽音がさざめき出す。彼らは臆病な性質らしく、慌てた様子でその場から居なくなる。


 ライオネルが岩陰から様子を窺うも、薄暗い洞穴は岩肌が見えるだけで、飛竜の巣にしてはその痕跡がない。

 所々に小窓程度の穴があり、竜たちはこの小さな穴から逃げ出したようだった。


 幾つかある穴からは、鈍い光と共に外海特有の不快な臭気が外から運ばれて来る。


「……多分、燕竜だな。岩肌に張り付いて巣を作るとか」

 ライオネルが壁を背に、向こうを覗き込みながら言う。

 燕竜は、六肢竜族のうち飛竜に属する竜族で、その小さな体が特徴である。


「生存競争に於いてはどんな手も有効だと、そう体現したかのような飛竜だ。他の竜族が好まない絶壁にも六肢で張り付いて巣を作る」

「ほう。逞しいことだな」

 タナトスも頷くが、用心してそれ以上は近づかない。


 ライオネルは注意深く先に進み、開いた穴の一つから外を窺う。

 洞穴の外は暗く、濁ったモヤが景色を覆っていて遠くの様子はわからない。辛うじて見える海面付近は荒れていて、止むことのない毒の嵐に翻弄されている。


「此処から外に出るのは不可能だな。燕竜も危険だが、海面よりもかなり高いようだ」

 ライオネルは喉に苦痛を感じてその場から離れる。


 少し考えて、タナトスは言う。

「なら、この空洞は? 外への出口じゃない、しかし亜人の気配もない……」

「えぇ。まだ何やらあるかも」

 もう少し、周囲を調べることにする。


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