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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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三十六ノ一、亡骸の行方

第四部 諸国巡り・弐

三十六、燈火

「侵入者を意図的に迷わせる仕組み……か。この先にも何かあるということか……」

 暗闇を進みながら、ライオネルが呟く。

 タナトスが感心したように言う。

「ほう? 思っていたより幻術の心得があるな」

「というより、慣れ……かな。さすがにこう何度も経験すると、ね」

 ライオネルは誤魔化すように言って、癖で眼鏡の弦を触る。


 洞窟内には人を惑わせる目的の術や罠が幾重にも仕掛けられていた。

 タナトスほど得意ではないものの、ライオネルはこのところ遺跡と言われる場所に幾度か潜っていて予測が付くようになってきている。

 もとより伝承などから知識だけは蓄えられているから、あとはその実践のみである。


 タナトスは言う。

「一つ一つは原始的だが、長い年月の間に多重に仕掛け続けてきたのだろうな。常人ならば迷う前に命が無くなるような場所だ」

「……なるほど、里の者が立ち入らないよう戒めるわけだ」

 迷路のように入り組んだ洞穴ながら、二人は正しい道順を進んでいる。


「――ところで、兄上はどうやってプラントまで?」

 ライオネルとタナトスは岩肌に手を置いて注意深く進んでいる。

 さほど広くもない穴の中は多少の湿り気はあるものの、植物の根などは殆ど見られない。その代わり時折強い風が洞内を吹き抜けた。

 冷たい風は、水の匂いを運んでいる。


「……そうだな。信じなくても構わないが、ノルド・ノアの里に行きたいと言ったら僕の知っているノア族の近くに飛ばしてやると言われた。気付いたら、里とは反対側の川の畔に立っていた」

「……どういう意味だ?」

 ライオネルは足を止めてタナトスの方を見る。タナトスの言葉というのは昔から意味の通らないものが多かった。

 それぞれに灯りを手にしているので場所はわかるが、表情までは読み取れない。


「計らずもお前と同じ目的だったようだな。ノルド・ノアの遺跡とやらを調べに来たが、ノアの里からは入れそうにない。だから洞窟を探していた」

 二人は声を顰めて話している。


「遺跡は地下にある大空間、巨人が生活できる環境だと踏んでいた。だから、水の通り道を遡ったのさ」

「では、川から水路に入ったんだな」

「あぁ。この国で何者かが作った遺跡ならば必ず水の痕跡がある。……鉄則だろう?」


 タナトスもそれが水プラントそのものだとは思わなかったが、大空洞には予想通り辿り着いた。

 ちょうど午前の放水の時刻だった。

 放水口が閉まる隙をみて内部に侵入すると、水路は水棲竜の住処になっていた。並の人族ならば生きては通れないが、タナトスには容易いことだった。


「お前たちが来る少し前まで、プラントを調べていた。……なるほど、あの扉。こちらから開かないと思っていたが、ノアの里からの入り口だったんだな」

 獣の扉は、今は固く閉じたままだ。


「……で? お前も遺跡に潜ったわけだが。何か答えを得たか?」

「……」

 ライオネルは、彼らしくなく黙り込む。

 ことの始まりはイーステンの森、サドル・ノア族の守る遺跡から始まる。

 レアム・レアドに導かれるまま聖地の深部へ赴き探索した末に、巨大な古代龍と遭遇した。これまで修めて来た数多の知識、自身の根幹を成す何かが揺らぐのを感じた。


 明確な迷いを見つけられないままノルド・ノアの里に戻り、叔父に案内されてからここまでのことを思い返して、何から話して良いのか、話しても良いのかすら図りかねた。


 しばしの沈黙のあと、二人は同時に口を開いた。

「――ここに、三賢龍は居ない」

 ライオネルは驚きに息を飲む。

「兄上……何故、それを」


「おまえこそ」

 タナトスはというと『何を驚くことが?』と言う声である。

「なぜ居ると思ったんだ」

 ライオネルが見聞きし、衝撃を受けたことをタナトスは予想していたようだ。


「そ、それは……昔から里の地下深くには『三賢龍の亡骸がある』と聞かされてきたからだ。だが私は……此処には巨大な龍族が眠る『龍座』があると思った。だから――」


「ほう? 僕は、ここには古代龍族は居ないものとして確かめに来たが?」

 食い違う互いの予測。

「どうやら、僕の予測の方が正しかったようだな」


 タナトスは得意気ですらあるが、一息付くと種を明かす。

「実を言うと、少し前までの僕もお前と同じだった。ノルド・ノア族の言い伝えは正しいと」

「……」

「だが考えが変わった。ここに三賢龍は居ないはず、亡骸すら無いはずと……。それをこの目で確かめに来た」


 タナトスは言う。

「最初はそれだけのつもりだったけど、あのプラントを見てさらに興味が沸いた。ならばノルド・ノア族は何を守って来たのだろうってね」

「……それが、地下帝国だと?」

「それはまだ……わからないね。今のところ、ただの天然洞窟だ」

 命懸けのライオネルに比べると、まるきり冒険気分でいるタナトスである。


(こんな人だったかな……)

 ライオネルでなくとも面食らうだろう。


 ライオネルの知る皇太子タナトスとは、書物を片手に王宮内をふらふらと歩きまわっている道化者。しかし要要で鋭い言葉を吐き、冷たい眼差しを向けるのを知っていた。

 本人も恐ろしいが、それを背後で支える者たちも怪しげだった。


 兄とは名ばかり、迂闊に近寄ってはいけない相手だと戒めて距離を置いてきたものだ。

 だが、今目の前にいて言葉を交わすタナトスというのは、気さくというより子供のようだ。


 ライオネルには、今のタナトスとの接し方がわからない。

 脱出よりも探索を優先し、こちらからの疑問はすらすらと躱す。タナトスは自分のやりたいように動いている。


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