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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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三十五ノ三、思慕

「あんたも、周りにいる連中もオペレーターなんだな? フィリア」

 フィリアを含め今この礼拝堂にいる祭祀官装束の者たちを指して、ガーディアンではないとバーツは言った。


高速艇ハサスラからも感じたあの守護の力。あんた一人の力ではなくテルグム聖殿そのものの魔力なわけだ」

 これは、ドロワ市でサークルが発動させたホロウ・カラムと同じ、広域防御陣の一種である。フィリアがテルグム、特にテルグム聖殿から離れることが出来ない理由だ。


 公的にはフィリアはガーディアンだということになっているが、これはオペレーターという人々が、表には出ない掟となっているためだろう。

 王国内ではもっぱらフィリア姫、姫様と呼ばれている。


「……よく出来たわね。でも、半分だけ正解」

 フィリアはなおも微笑を絶やさないが、その可憐な声もオペレーターの常で機械的な抑揚のなさである。


 そしてフィリアは次にイシュマイルに視線を移す。

「……イシュ、ね?」

 間近に見るとイシュマイルよりも年下に見え、オペレーター特有の無感情な瞳でじっと見詰められると、イシュマイルも落ち着きない気分になる。

「は、はい」

 頷きはしたものの、何から訊ねて良いのかすら戸惑う。


「十五年前……。貴方もここで、先ほどの子のように祝福を受けたのよ? 私が貴方を腕に抱いて、ね」

 フィリアはそう言いながら、灯りの揺れる祭壇を見つめる。

 あの時は、傍らにレアム・レアドが居た。


「ここでの儀式のあと、レアムはゲートを通ってドロワに戻っていった……私はその後のことはわからないわ。ウォーラス・シオンの方が詳しいでしょう」

「……はい」

 頷くだけのイシュマイルを横目に、バーツが問う。

「フィリア。俺たちにわかるのは、ドロワやサドル・ノアでの話くらいだ。いま知りたいのはその前なんだ」


「……」

 バーツの大雑把な問いかけに、フィリアは少し考えている。

「……そう、ね。私がレアムを呼び戻したかったから……かしら」

 含みのある言い方でフィリアが目を伏せる。

 そのわずかな仕草で、イシュマイルはアイスから聞いた話を思い出す。フィリアは、レアムに好意を持っていると。


 イシュマイルは、少し距離を置いた物言いで尋ねる。

「レム……レアム・レアドという人は、ずっとこのウエス・トールで戦っていたのだと聞きました」

 イシュマイルにとって、レアム・レアドはやはり未知の人物なのだと示したかった。


 ウエス・トール王国でのレアムの話はシオンからも、港町の古老からも聞いた。

 帝国領のシルファという場所では、六肢竜族の侵攻が絶え間なく続いている。それを防いでいるのがカーマイン・アルヘイトであり、レアム・レアドもこれに連携していたと。


「六十年前よ。まだカーマインが生まれる前の時代、竜族の侵略でこのテルグム城も落ちたの。私は命からがら、城の人たちに救われたのだけど――」

 先ほどヴィダルカから聞いたのと同じ話である。

「真っ先にウエス・トールに入って、テルグムの奪還戦に加わってくれたのが……レアム。それ以降も、王国に残って竜族相手に戦ってくれていた」


「……恩人なのよ。それに、残された私たちには師のような人でもあった」

 そして、ぽつりと言う。

「私にとっては……唯一、話し相手になってくれた外からの人」

 色々な意味で、レアムの存在は大きかった。


「じゃあレアムの奴がドロワに居たのは」

 声音に寂しさを滲ませるフィリアの心を知ってか知らずか、話を進めるバーツ。

「ソル・レアドに呼び戻されたから……でしょ?」

 フィリアも手短に答えるだけである。


 ハロルドのガーディアン修行のサポートをするよう、師で養父でもあるソル・レアドに命じられたから――というのはドロワでも何度も聞いた。

 フィリアはこれが嘘だと知っている。ソルはおそらく、レアムに弟子を取らせたかったのだろう。レアムに欠けているものを、レアム自身で学ばせる為だ。


「――その後、師父であるソル・レアドとハロルドが次々に亡くなってしまって……。私はその頃のレアムのことはわからないけど、相当参っていたみたいで」

「で、こっちに呼び戻そうと?」

「……ドロワにいては、レアムの身も危ないと思ったから」

「……」

 フィリアの言葉の裏に、さすがのバーツも押し黙った。


「このウエス・トールで竜族を狩っているのも辛いでしょうけど、ドロワに居るよりは……」

 バーツに代わって、イシュマイルが問う。

「どういう、ことですか」

 フィリアは言葉を選んでか、少し考えて言う。

「レアムにしてもカーマインにしても、龍人族が竜族相手に戦うというのは、とても辛いことなのよ。レアムは、それをウエス・トールの為に延々と続けてきた」


「でも多分、その後の十五年の方がもっと……」

 フィリアは言い濁り、再度イシュマイルに向き直って言う。

「ウォーラスは当初、レアムがそのイシュという子を弟子にするべきだと薦めていたの。私も……それでレアムがウエス・トールに留まってくれるならと思っていた」


 だがレアムはゲートを通り、ドロワへと戻ってしまう。

「レアムがドロワに行った後、テルグムより北側と東側は全て白い砂に飲まれてしまった。だから私から話せることは殆ど無い……」


「白い砂に? 月魔にやられたって師匠に聞いたが」

「どちらも憶測ね。痕跡から言えるのは、砂虫が村々をみんな飲み込んでしまったこと……月魔の襲撃で守護の力が切れたのか、砂虫が月魔を狙って襲ったのか。それももうわからない」

 フィリアは当時の報告の内容を淡々と繰り返すのみだ。


 砂虫に襲われると、その周囲には白い砂溜まりが出来て近寄れなくなってしまう。人々の往来も途絶え、そんな所を好んで巣食うのは命知らずの類だけだ。


 フィリアが語ることが出来るのは、当時のレアムの様子だけだ。

「レアムが、赤ん坊だった貴方を腕に抱いてテルグムに現れた時。何かに迷っているようだった……ひどく動揺もしていて。私はそれまで、そんな彼を見たことが無かったから――」


 レアム・レアドは詳細をフィリアたちに語ることなかった。

 テルグム聖殿ではその赤ん坊――イシュへの祝福の儀式を行ったが、レアムはその間も心を閉ざしたままだった。それでいてその子を手から離そうとはせず、思い詰めたようにその子の顔ばかり見ていた。

 フィリアはその様子を見、言いようのない不安を覚えたものだった。


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