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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
343/379

三十五ノ二、祝福

 ウエス・トール王国。

 テルグム城の最下層。


 白砂の川を上り、ヴィダルカによって秘密の入り口に案内されたバーツとイシュマイル。

 テルグム城と同じ、黒い壁に囲まれた小さな船着き場へと降りた。傍らではヴィダルカがロープを使って船を泊めている。


「こいつぁまた、真っ暗だね」

 バーツは皮肉めいた口調ながら、秘密の入り口なる場所を楽しんでいる。壁の灯りは少なく、天井は上に行くほど狭くなっている。

 すぐ近くに急な階段――というより詰み上げた巨石そのままの段差の上に、木の扉が見えた。金属の枠組みと文様が施された重たい扉である。


「うわー……まさに脱出口って風だねぇ」

 イシュマイルも気楽な口調でいるが、実際に六十年前には此処を抜けて命を守った人々が居る。フィリア・ラパンもその一人である。

「なんなら賓客として持て成されたいかい? フィリアに会うのが数日後になっても、さ」

 ヴィダルカも冗談で返している。


 ヴィダルカは二人の隙間を抜けて段差を上がり、懐から大袈裟な装飾の鍵を取り出す。木の扉の鍵穴に入れた時、わずかながら魔力が発動したのをイシュマイルも感じた。


 重い扉を向こう側に押し開き、ヴィダルカは背で扉を支えるようにして道を空ける。

「さ、通ってくれ。ここから先は、別の者が案内する」

 そう言って、手のひらを上にエスコートするように指し示した。


 まずバーツが、続いてイシュマイルが扉をくぐると、その先も黒壁の部屋である。幅狭く天井だけがやけに高い通路となっていた。

 通路の先には、祭祀官に似た装束の男が二人立っている。

(祭祀官……じゃない)

 イシュマイルはすぐに気付く。

 彼らは人形かと思うほど、表情がなかった。


 バーツも、口にはしないが思い出している。

(こいつら、オペレーターってやつか?)

 以前にドロワ聖殿の地下で会ったオペレーター、それと同じ気配がする。

 ともかくも、バーツは反応の薄い彼らに声を掛け、イシュマイルはそっと後ろを振り返った。


 ヴィダルカはまだ開いた扉を背に、腕組みしつつ凭れていた。

 先ほどと同じく手のひらを上に、行け、と品のある仕草だけで促す。

 イシュマイルも頷きで返し、バーツに続いて先を進んだ。


 その先は普通の段差の階段が長く続いていた。

 最下層の川から、高台にある拝殿の高さまでその階段は続いている。


(さすがにリフター……じゃねぇよな)

 ファーナムのような機械式のリフターではないし、ドロワで使用した魔術的なリフターでもない。ただ『普通の』階段よりははるかに早く、上層階に向かっているのは感じる。

 一段踏むごとに数十段分の上昇、登っている当人たちにはその感覚はない。


 聖殿の階層まで来ると、いきなり広い部屋になっている。

 狭い階段室から抜けたものの、すぐには平衡感覚が追いつかずイシュマイルは壁に手を付く。


(――この感触)

 黒い壁、だが手に吸い付くように滑らかで、石の冷たさも感じない。

(シップにあった柱とおんなじ……)

 オアシスに向かう道中、アシュレーに案内された砂船シップ。そこでテルグム晶石の石柱に触れた。

 それは夢で何度もみた黒い船の壁と同じもの――。


「どうした、大丈夫か?」

 バーツが声を掛ける。

 ドロワでリフターに乗った時も感覚が狂ったが、今登った階段も似たようなものだ。バーツは説明はしないが、イシュマイルを気遣ってはやる。


「ううん。ちょっと、ね」

 イシュマイルも何を言おうかと少し考えている。

「……ねぇ。ここの壁も、黒いテルグム晶石なんだね」

「あ? みたいだな」

「不思議。川の砂はあんなに白いのに」


 テルグム聖殿は造り自体は巨人建築らしく天井が高いが、その厳めしさと圧迫感はかなりのものだ。

 港町の黒壁といい、古都テルグムは全体的に重厚な印象を受ける。


「……お静かに」

 さきほどまで無言だった案内の男が、そっと注意する。

 見た目よりは優し気な声音であったが、それもそのはずでこの階層は礼拝堂となっている。

 壁の向こうをそっと覗いてみると――。


 一家族ほどの信者が祭壇前にいて、どうやら新生児の祝福を行っているようだった。

 離れているイシュマイルたちの耳にもたおやかな祝詞が聞こえ、拍子を取るためか鈴が定期的に鳴らされている。

(子供……いや赤ん坊……)

 イシュマイルは、吸い込まれるようにその光景に見つめている。


 祝福を与えているのは、他より一回り背丈が低い祭祀官――少女である。

(どうやら……あれがフィリアだな)

 バーツは一目見るなり、納得したように呟く。

「……なるほど。そういうことか」

 しばし、祝福が終わるまでの時間を待つ。


「なるほどな。どおりで周りが『ガーディアン・フィリア』って呼ばないわけだ」

 バーツはフィリアに顔を合わせるなり、そう言い放った。

 家族が立ち去った後の礼拝堂はまだお香の煙と匂いが残っている。


 フィリアはというと、その白い肌にわずかに作り笑いを見せただけだ。


 とても在位五十年を超えているとは思えない、あどけない少女の顔である。

 身に着けているものは女性祭祀官の装束、プラチナブロンドの髪。黒い壁を前に真っ白な人形を見るようである。


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