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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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三十四ノ十、対となる者

 ローゼライトは民家の屋根にいる。

 その高さよりも高い位置からはっきりと聞こえ、ローゼライトはその声に覚えがあった。


 どこからともなく、無数の矢が降り注いだ。

 ローゼライトの頭上からも、地面にいるロナウズたちの頭の上にも。景色を歪めて雨のような何かが降り落ちてくる。

「――この術は!」

 ローゼライトは咄嗟に腕で己が身を守ったが、矢は空気のように体を掠めて動きを封じた。


 一方のロナウズたちの周囲では、水の魔物たちが針鼠のように矢を受け、そのままの形で凍り付いて無数の氷の彫像と化す。

 そしてたちまちに細かく崩れ、元の水へと戻って溶け落ちた。


「ロナウズ、見て!」

「……あぁ」

 泥濘は、そのままただの泥であり続けた。

 もはや禍々しく鮮やかな色の泥土ではなく、そこから魔物が沸き上がることもない。地面を濡らした泥水は、それに触れた魔物をも溶かしていく。


(あの矢のような術……浄化? それにしては……)

 ロナウズは二つの術が作用し合う様を無言で見ている。


 対して、ローゼライトは術同士の相性をみて呟いた。

「……これはまた……水鏡盾には分の悪い……」

「――その通りだ」

 再び声がして、その男が姿を現した。

 分厚いマントを翻して、屋根の上へと降り立った人影は――。


「レコーダーか!」

「えっ?」

 ロナウズはその名を呼び、サグレスは意味がわからずただ上を見上げる。

 ローゼライトは苦々しく顔をしかめる。

「……ルシアスか」


 ルシアス・ファナード。

 レコーダーの本名とされている名である。

「私をその名で呼ぶのはそなたくらいのものだな、ローゼライトよ」


 レコーダーは乱れた布地を片手で払って直しながら、ロナウズを見下ろした。

「……助太刀が少々遅れたようだ。無理をさせたな、囚われの子よ」

「ロナウズ……誰なの」

 サグレスはまだ剣を構えたまま、ロナウズに小声で尋ねる。

 レコーダーはというと、目聡く美女を見つけて帽子に片手をやり、少々古風な会釈をする。


 レコーダーは一通り顔を見合わせると、またローゼライトに向き直る。

「相変わらず、忘失相を利用して悪戯ばかりしておるな小僧。しかしこのアリステラの景色を汚すというなら、許さんぞ」

「……これは……とても手に負えたものではない。私はこの街から退散させて貰う」


 ローゼライトはすでにこの場所での行動に飽きていて、ともかくもレコーダーの視界から逃れようと次の屋根へと飛んだ。


「おっと……」

 レコーダーはローゼライトを目で追いつつも、ロナウズたちを片手で制して言う。

「そなたらは本来の職務に戻り給え。奴は私が追おう」

「レコーダー――」

「すぐに合流するよ」


 レコーダーは話もそこそこに、ふいと消えてしまった。


「……ロナウズ」

 二人の消えた屋根を見上げたままのロナウズに、サグレスが声を掛ける。

 いつの間にか二人の周囲に居た水の魔物は姿を消し、ぬかるんだ地面だけが残っている。


「ロナウズ、貴方は聖殿に行って。あの妙な術のことを説明できる人が必要よ」

 サグレスの再三の呼びかけに、ようやくロナウズも視線を戻す。

「君はどうするつもりだ」

「私は……」


「私は自警団に戻る。……幸いマインアームズが港に到着してるわ。対月魔の魔法武具を揃えている彼らなら、ある程度は……」

 自警団の団長として、冷静であろうとするサグレス。

「わかった」

 ロナウズは再び剣を構え、港への道を見渡す。


 アリステラ港までの道は緩い下り坂となっている。

 港に近いほど濁った靄が漂っているようで、一口に戻ると言っても先ほどのような魔物の群れが立ち塞がることは想像に難くない。


「その剣、預けておく。切り進んで突っ切るぞ」

「えぇ」

 二人は同時に走り出し、左右の魔物を切り捨てながら駆け抜ける。


 もとより互いの腕前や剣筋などをよく知っている仲である。

 このような形での共闘は初めてではあったが、こと剣での戦いとなると心強いものだ。


 分かれ道まで来ると、往来で纏まって蠢いていた一団を排除する。

 武器の特性さえ理解していれば、月魔よりも対処しやすい相手かと思われた。

「抜けたわ!」

 サグレスが行く手を塞ぐ一体を切り伏せながら叫ぶ。


「気を抜くなよ、行け!」

「あなたも――ロナウズ」

 サグレスは振り向くことなく、一瞬開けた視界へと飛び込む。

 後を追おうとした動いた数体を、ロナウズが引き受けて切り裂いた。


 己の周り、前後左右を囲まれながらもロナウズは単身で双剣を振るい続けた。

 この後はアリステラ聖殿を目指してここを突破せねばならない。


――一方。

 逃げるローゼライトに追いついたレコーダーである。

 ローゼライトの前方に、ひらりと降り立った。

「まぁ、待て小僧。逃げるというなら構わんが、一つそなたに教えてやろうというのだ」


「……金龍相の者のことを、な」

「なんだと?」

 レコーダー相手に無謀に仕掛けようとしたローゼライトであったが、その言葉を聞いて手を止める。


「探し方が間違っておる」

 レコーダーは言う。

「タナトスの対となる者を示した託宣は、過去のものだ。もはや運命は違う道に入り、タナトスは死を得た」


 そう話す二人は今、アリステラの郊外にいる。

 ローゼライトはアリステラを脱し、ファーナムを目指そうとしていた。


「なにより、どう足掻いたところでタナトスの結末は変えられん。奴は真の名を持たず、タナトスという役目だけを負う。そなたの手には負えんよ」

 ローゼライトも、薄々は知っていたであろう言葉を前に表情を歪める。


「……甥御殿を助けられぬ、と? ならば私は」

「助けてはやれぬが……別の手助けはしてやれるだろう。そなたの得意なことで、な」

「……」

 

「いや、私は……諦めぬよ。見殺しにはせぬ」

 ローゼライトはなおも声を絞る。 

「誰を? 『甥御殿』を? ……違うだろうローゼライトよ」

「……」


 レコーダーは明言こそ避けたがローゼライトの本心を言い当てる。

 むしろ口にはしないが故に、事実は残酷である。


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