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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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三十四ノ八、再臨

「あのいかづち……雷の術は、アルヘイト家の家伝……」

 叔父は思い至り、いつもの笑みでにやりと笑った。

「生きて延びてくれてたか」

 そして上空を飛び回る飛竜を見上げる。

「……やりやがる」


 高く伸びた岩場に張り付く飛竜、その肩に乗り角を掴む格好でノアの里を見ているのは、ライオネルその人だった。

 足場から落ちた時に比べ、その服装は土に汚れていたが外傷などはなく、水に濡れた跡もない。


 ライオネルは、いま雷術を放った手のひらを見ている。

 まだ手のひらで静電気のような光がパリパリと音を立てている。

 軽い火傷をしていた。

「……やれやれ。こんな場所で使うもんじゃないね」

 その声音は、いつもと同じく飄々としたものだ。


 眼下では、飛竜たちが襲撃者たる龍人をあらかた片付け終わり、漂うように飛んでいる。

 この距離からでも地面が赤く染まっているのが見えた。

「アルヘイトを甘くみるからこうなる」

 当然だろう?と言わんばかりの表情でいる。


「私と兄上の命を狙い、不可侵のノアの里を襲ったこと……只では済まさない」

 そう呟くライオネルを、肩に乗せたままの飛竜の目がぎょろりと動いて見た。ライオネルは気にする風でもなく、飛竜の鼻先に肘を置いて頬杖を付く。


 そこへ、一体の飛竜が報告へと戻ってきた。

 飛竜は、龍人族に付けられた鞍を背負ったままだったが、爪にも牙にも龍人族の血が残っている。

「……半分だけ殺せと言ったろう? それとも、日頃の恨みをここぞとばかりに晴らしたか?」


 頬杖をついたままのライオネルに、飛竜は返り血のついた眼を細めて笑う。

「まぁいい。送り返す分には、肉片でも構わないしな」


 本来ならば。

 竜族に『笑う』という表現はない。彼らは人の表情を真似ているだけだ。

 つまりはライオネルの問いかけを理解し、答えをもち、それを伝える手段を知っているということだ。

 人族が予想している以上に竜族の知能は高いのである。


「……ライオネル」

 一方。ことの顛末を、未だ混乱の収まりきらぬ里から見ているノア族たち。

 彼らの目の前で、ライオネルを腕に乗せた飛竜が岩場から離れた。


 ライオネルは飛竜に掴まったまま、里の無事を確かめる。

 そして数多くの飛竜をその場に置いて、一騎のみで飛び去って行った。その方向は、恐らくはドヴァン砦だろう。

 残った飛竜たちは、ノア族の守護を任されている。


「あいつ……戻らなかったな」

 叔父の傍らに戻った親族の若者が、周囲には聞こえぬように言う。

「助けるだけ助けて、そのままか……」

 自分が無事だったと伝えるでなく、里の者たちと言葉を交わすでもなく、ライオネルはドヴァン砦に『戻って』行った。

 アルヘイト家の者として。


「……そうかな」

 叔父は少しだけ違う印象を受けた。

「確かにいつもの奴らしくないが……むしろ、今までが他人だったのかもな……」

 叔父はそれだけ言うと、族長代理の顔に戻る。


 彼にとって急務なのは、この惨状の後始末である。

 これだけの龍人族の死体の山、ノルド・ノア族は被害者です、などとは通用しない相手を敵にまわしてしまった。

 今、唯一の味方となるのも、ライオネルだろう。



――その頃。

 この一連の騒動を、他人事で見守っている人物がもう一人居た。

 ノアの里からは見えない高台で、ライオネルの位置からは互いが見えていた。ライオネルの行動を逐一観察し、飛竜と共に飛び去るまでその場に腰掛けていた。


「やるなぁ……敵の竜族の制御を、奪うとはね」

 竜族と騎者の龍人とは、一度絆が付いたら違えることはないと言われている。

 生涯の友、種を超えた伴侶とも言われる美徳でもある。


 だがライオネルはそれを容易く割いた上、周囲に棲息する飛竜族までも引き入れ、これらを一つに自在に操って見せた。飛竜たちは、龍人の命を奪うことにも頓着しなかった。

「こんな大玉を隠していたとは……ライオネル。弟ながら食えないヤツ」


「なるほど、カーマインが扱いに困るわけだ」

 ライオネルの飛び去った方向、ドヴァン砦に続く空を見ながらそう独り言を繰る人物は――タナトスである。


 行方不明、あるいは死亡したと帝国内で言われていたタナトスが、再び姿を現した。

 だがその姿は別人のよう。

 陽射しの元で見えるのは灼けた肌色、黒く長い髪――ノア族の特徴である。


 以前の銀髪の龍人、ノルド族としてのタナトスとの共通点といえば、身に着けているノア族の装束が女物であることくらいだろう。どうやらそこだけは譲らないらしいタナトスである。

 長い黒髪を背中に流している様は、以前ロアが盾の泉で遭遇した魔性の人物、そのものだ。


 タナトスは、黒い瞳で考えている。

 万が一、ライオネルが裏切るとアルヘイト家の竜騎兵が相当数奪われる可能性がある。

 カーマインは竜騎兵団の総帥ではあるが、あくまで兵を束ねる者。ライオネルはその竜族そのものを操る……。

「ライオネルの底力……見抜いていたのはカーマインの方だったか……」


 タナトスはしばらく考えていたが、ここで夜を待つつもりもなく立ち上がる。

「まぁ……でも、これで南は任せても安心ってことだな」

 服についた土汚れを払い、身支度をする足元に四つ足の龍族が甘え声で寄ってくる。

「それにしても――」


 タナトスは、その小ぶりな龍族に声をかけてやる。

「お前たちまで来なくても」

 四つ足の小龍――四肢龍族は、以前タナトスが屋敷で育てていた幼生体の古代龍である。タナトスの生存を知ってか、訓練士らの手元から逃げ出して来たらしい。

「……戻ろうか。レヒトに」


 タナトスは時折見せる優しい笑みを幼龍に向けると、彼らを伴ってその場を離れた。

 行く先は、炎羅宮レヒトである。


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