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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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三十四ノ五、正しき言葉

「しっかし……なるほど、テルグムのノア族だからトール=ノアか。ラパン王家がノアを名乗る理由が少しわかったぜ」

 砂船が白い川を進みだすと、バーツも落ち着いたのかノア族としての感想を口にする。三人はそれぞれに背景はまったく違うが、同じノア族である。


 ヴィダルカも最初の印象とは違い、気さくな男らしく会話は饒舌である。

「ふ……ここではタイレス族もノア族もない。どちらもラパンであり、同じものを守っている……違いがあるとすれば、オレは王族じゃない。それだけだ」


 二つの家系はそれぞれに初代兎王の称号を継承しながら、互いの血脈と役割を守っている。

 タイレス族のラパンは聖殿と街を守り、ノア族のラパンはそれを守護しながら伝承を語り継ぐ。


「初代兎王って人は、プレ・ノア族だったの?」

 イシュマイルも、トール・ノア族の伝承を見聞きするのは初めてである。

「……プレ・ノア族?」

 ヴィダルカはその問いに首を傾げて見せた。

「――あぁ、プレ・ノア族が石舟で大陸に流れ着き、ノア族が各地に散り、そこからタイレス族が派生したとかいう……あれか」


「? 何か変?」

 ヴィダルカは即答はしないが、頷いている。

 片手で器用に櫂を使い、船の向きを小刻みに変えている。


 ゴンドラ程度の大きさの砂船である。

 ギミックのエンジンでもって緩やかに砂の川を進むことが出来、手で漕ぐ必要は殆どない。けれど白砂の中は船からは見えない大岩があり、ゴロゴロと日々その位置を変えている。

 ヴィダルカたち船頭にはこの岩が見えるようで、彼らでなければこの川を無事には渡れない。


「その話……『はじまりのうた』に当て嵌めると矛盾があるって、気付かないか?」

 言われたイシュマイルは不思議そうにしている。

「……矛盾?」

「簡単なことだ。『はじまりのうた』で石の舟で現れるのは『始まりの人』とある。この『始まりの人』は太陽と月に住み、龍と言葉を交わした人だという――これはエルシオンの民のことだとわかる。……だろ?」

「……たしかに」


「ウエス・トールの地形を見てもわかる」

 ヴィダルカは続ける。

「石の舟がどんなであれ、ウエス・トールの海側は飛竜すら超えて来ない断崖絶壁……大昔の人は、どうやって上陸した?」

「どうって……どうだったの?」

「ラパンの一族が伝えてる。『始まりの人』は流れ着いたのではなく『降りて来た』……と」

 ヴィダルカは、片手で空を指さした。


『始まりの人 石の舟に乗り かの地へ 現れる

――満天の星と 漆黒の海の闇より 現れる』


「魔人の言い伝えにしてもそうだ。魔人はいつも空から降って来る。他所の大陸からじゃない」

 言われてみれば、アシュレーに聞いた魔人やハサスラの話も天から人が降りてくるところから始まっている。

 技術的にも能力的にも、プレ・ノア族に同じことが出来たとは思えなかった。


「ずいぶんと『はじまりのうた』にこだわるんだな」

 バーツもイシュマイルとそう感覚は変わらない。ガーディアンとしての知識の研鑽はまだ実戦ほどには追い付いていない。

 ヴィダルカは気を悪くする風でもなく、砂船の客とのいつもの会話を続けている。

「そうさ……聖碑文には本当のことしか書かれていない。ただその言葉が少なすぎて、正しく受け取れないだけさ」


「もう一つ。『はじまりのうた』には『始まりの人』以外の存在も描かれている」

 ヴィダルカはもう少し丁寧に説明する。

「この大陸に生まれた者たち、つまり『最初のもの』と『最初の人』、『大地の人』に『新たなる人々』――」

 はじまりのうた、八行全てに登場する名前である。


「このうち『最初の人』は『大地の人』と成ったとあるから同じ存在だ。そして『最初のもの』とは伝説上の生物、キメラだとされている」

「キメラ?」

 これは例えば、ドロワ市でレイムントらが聖殿の奥で見たレリーフ『キメラの行進』などがそれである。またアーカンスも上司サイラスとの会話の中で、回転する大地の上でキメラが滅んだという話を聞いている。


「そして残る『新たなる人々』だが……彼の者だけが複数形だ。これは三つの種族だとハッキリ書かれているから――」

「……じゃあそれが今のノア族、タイレス族、龍人族か」

 バーツの相槌に、ヴィダルカは含むように笑って頭を振る。

「そう、言われてはいるがな……」


「ウエス・トール、特にラパンの者はそうは考えない」

 ラバンにのみ伝わる、貴重なエルシオンの逸話でもある。


「――三賢龍のお供として旅立ったのは巨大な龍人、龍頭亜人だと伝えている」

「龍頭、亜人……?」

 イシュマイルの脳裏に、以前見た龍頭亜人の意匠が思い出させる。ロナウズが持っていた双剣に施されていた線刻画は頭部が鰐のような人だった。


「実在……したの?」

「あぁ。だが外の環境に馴染めず、帝国以外の龍頭亜人は絶えてしまった。後に残ったのは……住む者の居なくなった巨人建築だけってわけさ」

「へぇ」

 納得の声で頷いたのはバーツである。

 師であるシオンに連れられてドロワ聖殿の地下に降りた時、そこで見たのは巨人建築の見事さと技術力の高さだった。


 あれがプレ・ノア族の造ったものではなく、古の龍族と龍人のものだと言われれば納得も出来ると今なら思う。

「なら、帝国に残った龍頭亜人は今は?」

「さぁなぁ。炎羅宮に住む龍王炎羅に仕える眷属だって話だが」

「龍王……炎羅……」

 イシュマイルにとっては、新鮮な単語ばかりだ。

 炎羅宮という言葉はしばしば耳にしていたが、それが実在する龍王とやらの住処とだと言われても想像もつかない。


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