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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
330/379

三十三ノ九、火と煙と

――アリステラ市。

 水の宮とも呼ばれる港湾都市であり、各地から船が乗り入れる交易と観光の拠点である。


 この日、ノルド・ブロス帝国からの定期商船が三隻、アリステラ港に入港した。

 アレイスター商会の定期船ライナーアハルテケと、その護衛の武装商船である。


 イシュマイルたちの船を拿捕した武装船団だったが、アリステラ側が確認したのは鉱石を積んだ貨物船二隻とそれを護る武装商船が一隻のみ――。

 数隻の武装船が、その姿をくらましていた。


 同じ頃。

 港からややおかに入った旧街道沿い、バスク=カッド邸では赤髪の龍人族レニが運び込まれて治療を受けていた。

 レニは四辻で怪異に襲われて全身に怪我を負い、ロナウズ・バスク=カッドの妻であるラナドールの治療術を受けている。


「龍人というのは、タイレス族より治りが早いと聞いていましたが……」

 バスク=カッド家の執事であるエミルは、ラナドールの術の効きが悪いことに驚いている。

「ともかく、このまま眠らせておきましょう。……エミル、ロナウズはどう?」

「旦那様でしたら、さきほど部屋でお着替えに――」


 レニを抱えて戻ってきたロナウズは、ひとまず血の着いた衣服を着替えていた。

 ラナドールやエミルに事のあらましは説明したが、いくつかの隠し事はしている。

(――レコーダー……)

 四辻で龍脈の中からレニを助けたのは魔人、通称レコーダーである。


 そのレコーダーを四辻まで連れて行ったのはロナウズであるが、レニはもちろんラナドールもエミルも、レコーダーの存在は知らない。

 そればかりか、昔からバスク=カッド家でレコーダーを見知っているのはロナウズだけだった。


(今になってまた急に現れるなど……レコーダー本人に直接質たださねば)

 ロナウズは、自前のそろいの剣を手に取る。

 アリステラ騎士団長としては謹慎中であるため、本来は自宅を出ることも帯剣することも許されていない。


「……ロナウズ。どこにいくの?」

 いつの間に来たのか、ラナドールが武装のロナウズを見咎める。

「ラナか」

 ロナウズは、自邸ではあまり見せない固い表情でいる。

 返事もそこそこにラナドールに問う。

「レニの様子は?」


「……深く眠らせているわ。あの傷は、珍しい系統の術でつけられた物のようなの」

「君でもわからない術、か……ふむ」

 ラナドールは、オヴェス・ノア族の前族長の孫娘である。

 ノア族の中でも魔術に長けていて、騎士団長でガーディアン適合者でもあるロナウズを公私に渡って援けてきた。


「どこに行くつもり?」

 ラナドールはもう一度訊ねる。

「四辻だ。レニを助けた男のところに戻――」

 ロナウズは今度は正直に答えたが、言葉を続ける前に二人とも何かを察して窓の外を見る。


 僅かだが、空気が揺れた気がした。

「今の音」

「音? 何かしら」


 再び、今度ははっきりと聞こえた。

「……砲撃、か?」

 ラナドールも気付いて表情を変える。

「港の方向だわ」


 ロナウズは反射的に出口に向かう。

「ロナウズ!」

 ラナドールの呼びかけに、ロナウズは一度は足を止めて手短に言う。

「ラナ。館は頼んだぞ、私は港に向かう。絶対に誰も外には出るな、レニもだ。いいな」

「えぇ。それは任せて――でも」


 ラナドールは扉の前でロナウズに追いつくと、首から掛けていたアミュレットをロナウズに手渡した。ノア族のお守りはジェム・ギミックとは違い、ロナウズの不安定な力を精神面から静めてくれる。

「あまり『力』を使い過ぎないで。流れが乱れているわ」

「……」

 ロナウズは返事の代わりに、僅かに自嘲の笑みを見せる。

「……コントロール出来るものなら、とうにしてるさ」

 ロナウズはその場でアミュレットを首に掛けると、ラナドールに向かって頷き、外へと出て行った。


「奥様――」

 扉の音を聞きつけたエミルが降りてきた時には、ロナウズの姿はすでにない。

「旦那様は、今……謹慎中で」

「わかっているわ」

 ラナドールは毅然とした声で言い、エミルに振り返る。

「それよりも、固く扉を閉めて。ロナウズの留守を守るのよ」

「はい」

 エミルは言いたいことはさておき、今は指示通りに動くのみである。



――アリステラ港。

 アリステラ市自警団の団長であるシンシアン・サグレスは、事故の報告を受けて詰所から出てきたところだった。


 いつもは賑やかな港町が、今は別種の混乱で騒々しさを増す。

 アリステラ自警団は街中の警邏に出払っていたが、彼らが戻って来るそばから次々と負傷者が船から救出されて石畳の埠頭に運ばれてくる。


 その中にはタイレス族だけでなく、赤い髪の龍人族の船員もいる。

 彼ら労働階級の龍人族は、大本である龍族の特徴を強く引いていて、角や鱗肌などがよく目立つ。タイレス族よりも大柄で頑丈、魔素や魔力への耐性もある。


 そんな彼らをしても傷の具合は様々で多くが横たわったままでいる。普段から姿を見せず船内で活動していたのが仇となり、負傷者が増えてしまっていた。


「姐さん。どうやらノルド・ブロス帝国からの鉱石船らしいっす。今は港湾の翡翠水軍ジェイドが出張ってますけど、爆発事故らしいっすね」

「爆発? 嫌ね、なんだか」

 サグレスは、この報告を違和感を持って聞いている。


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