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アモルファス  作者: 霧音
第一部 ドロワ
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四ノ一、古い夢

第一部 ドロワ

四、邂逅

 ライオネルは、両手を肩ほどに挙げた格好のままで、まずは言う。

「私の首に価値はなかろう? 望みはなんだ?」


 レアム・レアドがようやく口を開いた。

「……治療を」

 静かに呟いただけの声が、なぜかその場にいる者の耳にははっきりと聞こえる。ライオネルは不審そうに眉を寄せた。では今見た治癒の術はなんなのか、と。


 レアム・レアドは答えるように続けた。

「体力の消耗が激しい。すぐに適切な処置をしろ」

 その口調に気の荒い兵士が反応し「なんだと!」と声を荒げたが、ライオネルはこれも一声で制止させた。


「……命令口調か。まぁいい。承知した。だからこれを下ろせ」

 ライオネルは雷光槍を指差しつつ言ったが、レアムは微動だにしない。

「……」

 両者はしばし睨み合ったが、ライオネルの方から折れる。


「わかった、わかったから……。なら、アイス・ペルサンを呼ぶことにしよう。彼女なら文句はあるまい?」

 そしてライオネルはレアム・レアドの返答を待たずに、背後の兵士に呼びかける。

「アイス・ペルサンに連絡を。それから、この少年を私の部屋へ」

「し、しかしっ」

「――いいから、やれ!」


 ライオネルが前に向き直ると、レアム・レアドはまだ不審の目でライオネルを睨んでいたが、不意に興味を失くしたかのように視線を逸らした。

 途端に、雷光槍がライオネルの首元から消えた。


「……ふぅ」

 ライオネルは大げさにため息をついて、首に手をやる。

「た、隊長殿」

「あぁ、いいから。今は従え」

 未だどう動いていいものかと迷う兵士に、ライオネルはぼそりと呟く。

「ガーディアンを暴発させたら……私の首どころか、この砦が更地になるぞ?」

「……っ!」

 兵士たちは一様に張り詰めた顔になる。


 二人ほどがぎこちない動作で牢内に入ってきてレアムからイシュマイルを預かり、もう一人の背にイシュマイルをおぶらせた。二人はライオネルとレアムの横を抜けて、そそくさと牢から出て行く。

 それを確認して、レアム・レアドも立ち上がった。


「待て。レアム、まだ話しは終わってない」

 ライオネルが声音を変えて、レアム・レアドの行く手を阻んだ。

「……」

 レアムは無気力そうな目でライオネルを見る。

「取引だろう? 今度はこちらの話を聞いて貰う」


 レアムは特に逆らおうとはしない。

「何だ」とのみ答える。

 ライオネルは作り笑みに戻ってレアムに話を始めた。



 イシュマイルは、昏々と眠っていた。

 牢に居る間、そして運ばれてるいる間も目を覚まさなかったが、その間にまた過去の夢を見ていた。気を失っていてもレアム・レアドの声が聞こえていたのだろう、その内容は何度も見ている子供の頃の記憶だ。


 その夢の始まりは、いつも幼いイシュが森の中を走っているところから始まる。

 その日、イシュはレムを探して森の中を走り、いつしか子供の足では辿り着けないような場所にたどり着いていた。


 突如、密集した樹木の隙間から黒黒とした大岩が現れた。


 岩にはかなりの年月が経っているらしく草木に覆われていたが、その全体像はどこか人工的な形状を彷彿とさせるものだった。

(怖い……)

 幼いイシュはそう感じたが、その大岩の裾にレムがいるのを見つけ、後を追う。


 果たして、レムは岩の割れ目のような入り口から、中へと入っていった。

 それは森の洞窟に似て様々な植物が垂れ下がり、崩れた土で道は狭くなっていた。昼間であったが、中は外の明るさのせいで真っ暗にしか見えない。


 けれどイシュは、中へと入った。

 内部は一瞬、洞窟の冷やかさと湿度を感じたが数歩といかぬうちにそれは消えた。春のように心地の良い空気が、どこからか流れてくる。


 目が慣れてくると、ところどころがぼんやりと光って見える。

 ひかり苔のような淡い色が一定間隔で並んでいる。不自然に思える光景だったが、子供のイシュはそこまで見ている余裕はなかった。

 とにかく、レムを追う。


 洞窟の中にはかなり入り組んで分かれ道があったのだが、イシュには真っ直ぐな一本道に感じられてただ前へと進んだ。

 壁面は冷たく妙に手触りのつるりとした感触、足元は小石一つない平坦で整った道。イシュの足音すら響かない異様な通路だった。


 不意に、目の前の岩が音もなく開いた。

 イシュは驚いたが、果たしてレムはそこにいた。


 岩の扉の向こうは広い部屋になっていた。

 中ほどに大きな机のようなものがあり、その上には壁のような何かがあって周囲がぼんやりと明るい。


 レムは、その机のような壁のような巨大な物体の前で何かを見ていた。イシュの目には、壁で何かがちらちらと光っては動いているように見えた。


 不意に、レムが振り向く。

「……イシュ?」


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