三十二ノ八、ステラ(星)
サイラスは古地図にある十二の神殿の印を指で追う。
十二の点から成る真円の形だ。
「十二の神殿は大地に打たれた十二の杭です。そして、ステラ・シートの真円を区切るこの線も、この杭の位置を基点に描かれています」
二枚を重ねた時、神殿の位置と円図形の十二本の線は重なるのが正しい。
「ですが――見てください。各ハウスを区切る線が、神殿と神殿の中間を通っているでしょう?」
「……たしかに」
真円を重なるように二枚を置くと、神殿と境界線が交互に整然と並んでいる。
「ちょうど十五度、古地図とステラ・シートの図形はずれているのですよ」
三百六十度の十二等分、それぞれの宮は三十度ずつの角度を持つ。
その三十度の半分、十五度である。
「星読みでは、これを各宮の昼と夜として解釈します」
一つのハウスに昼夜の概念を作ることで、地勢や運気の上昇下降などの変化を読み取る幅が生まれる。
「……ですがね、わたしはこの十五度という角度が気に掛かるのですよ」
サイラスはそう言うと、上になっているステラ・シートの端をそっと掴み、ゆっくりと十五度分ステラ・シートを回した。
「こうすると……ハウスの境目と神殿の位置が重なりました」
上になっているステラ・シートは、十五度分傾いている。
そして、アーカンスはその形に覚えがあった。
「これは……シルファ・ライブラリーにあった、傾いた正菱形?」
そうです、とサイラスは指を立てる。
「あの形状がステラ・シートに似ているとは思っていましたが、よもやシートそのものとは予想外でした。そもそもステラ・シートはデュオデキム天体配置図を簡略化したものなのですから、当然といえば当然かもしれません」
「では……?」
「シルファ・ライブラリーのマークは、この十五度の傾きを我々に教えているでは?」
謎解きへの入り口である。
「これを『ガイド・ダイヤ』といいます」
アーカンスは、その言葉に覚えがある。
バーツやジグラッドが口にしていた気もするが、それきり立ち消えになったために忘れていた。
「ステラ・シートを十五度傾けるとガイド・ダイヤになる……?」
ぼんやりとした口調のアーカンスに対し、サイラスはもう一度ステラ・シートだけを見せる。
「いいですか。真円の周囲に正菱形がありますね。これは四つの角が方角――東西南北を表すのです」
四方位は、古代龍族を象徴する。
つまり正方形と正菱形は、同じ意味なのである。
サイラスはもう一度、古地図とシートを重ねて透過させる。
シートは十五度傾いた状態だ。
「そして、です。正菱形の右側の角。これは東を表し、ここに重なるのが『炎羅宮レヒト』です」
正菱形の一角をサイラスの指が示す。
ノルド・ブロス帝国にある龍族の館、炎羅宮。
現在は炎羅宮レヒトと呼ばれており、皇帝アウローラ・アルヘイトによって帝都とされた。
「炎羅宮は『東』を司るといいます。龍族は四方位を神聖視していますから、残り三つの角もそれぞれの方位を司るとしたら――」
サイラスの指が、まっすぐ左に動いて西を示す角で止まる。
その位置は、ファーナム。
まさに風炎山にある祠を示す印と重なっている。
「……これは」
アーカンスは残りの二つの角にも目をやり確認する。
北を示す印は、オヴェスとテルグムの間を抜けてさらに北にある何かを示している。
それが何かはこの地図ではわからない。
では南側は。
南を示す下の角には――サドル・ノア族の里がある。
正確にはノア族の村のさらに南側、イーステンの森を示している。
此処は以前、レアム・レアドとライオネルが探索した遺跡が在るのだが、アーカンスやサイラスはその事実を知らない。
ただアーカンスにとって、その位置がノア族の里であることが衝撃だった。
「もしや――風炎山に祀られる風の神とは」
「これが炎羅宮と同じく龍族の宮殿であるのなら、四大龍王の一柱が『風の神』の正体……かも知れませんね」
西の方位を司る龍王である。
四柱の龍王が年月をかけて順繰りに玉座に着き、一巡すると長い節が一つ終る――それが龍族の長期暦である。
アーカンスはすぐには納得できずにいる。
「四大龍王……。龍族の暦については書物で読んだ程度ですが……宮殿は全部、帝国内にあるものだとばかり」
「わたしもです」
この考えは、まず古地図を入手しステラ・シートを重ねるという発想が必要である。
そしてガイド・ダイヤに従い、シートだけを十五度傾けなければならない。シートをただ重ねただけでは、乱雑な地図上のポイントに法則性は見出せない。
「この大陸は元々龍族のものだったわけですし、風炎山の風の神の正体が四大龍王の一柱だとすれば、その後タイレス族が住むようになって龍神信仰が廃れた、と考えることが出来るでしょう」
アーカンスは改めて東西南北を示す四つの角を見る。
その形は大陸全土に跨る歪みのない正菱形である。
巨大な正菱形の中に、十二神殿からなる真円がある。二つの図形は四つの交点で重なっており、この四つを結ぶと真円に収まる正方形となる。
美しい形である。
四つの点に該当する四つの神殿は――現存していない。