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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
315/379

三十二ノ四、ハノーブ

 ファーナム市。

 第四騎士団の拠点となっている館の執務室。


 アーカンス・ルトワは、部屋中にある書物の整頓を手伝っていた。

 上司であるサイラス・シュドラの個室であり、ほとんどが個人的な蔵書で騎士団の活動外の品物も多い。


 最近のサイラスはこういった個人的な用件でアーカンスを呼びつけることがよくある。

 そこに、退屈半分のエリファス・ラグレーが訪れた。

「やはりここか。例のアレを見せたか」

 エリファスは団長ベルセウス・アレイスの護衛役ではあるが、その役目がない時はこうして一人で館内をぶらついている。


 サイラスがアーカンスを連れて大図書館に行った日――。

 エリファスは団長アレイスに付き添って定例評議会に出向いた後、一足先に詰所に戻っていたのだが、サイラスとアーカンスが揃って不在なのを見て、察したのである。

 サイラスがアーカンスをロタンダに入れたこと、そこで何を見せたのかを。


「――で、見えたのか?」

 エリファスも同じように『刻印の間』に入ったことがある。

 アーカンスと違い第四騎士団の幹部であるので、団長アレイスに随行する形でだ。


 アーカンスは書物を運ぶ手を止めた。

「……君と同じものかはわからないが」

 アーカンスはエリファスの問いに曖昧に答える。

 サイラスによれば、エリファスにもプレートの二重刻印は見えるらしい。


「それは良かった。おめでとう? これで正式に第四騎士団に必要とされる人材となったわけだ」

 エリファスは嫌みたっぷりにそう言ったが、アーカンスは別のことを考えている。


――エリファスは、ガーディアン適合者なのでは?

 根拠はないが、アーカンスはふとそう思ったのである。


 本人に自覚があるようには見えないが、エリファスはいつもの調子でいる。

「しかしだ。ただの名前が並んでるだけのライブラリーを、御大層に隠す意味ってあるのか? エルシオンはあれを俺たちに見せてどうしようって言うんだ」


 それまでエリファスを半ば無視していたサイラスが口を挟む。

「……皆がみな、貴方のように土性骨があるわけではないのですよ」

 サイラスの罵倒はひねくれた褒め言葉でもある。

 端正な見た目にそぐわないエリファスの粗雑さは目に余るが、その胆力と剣の腕は頼りになる。


「一応念押ししておきますが、このことは――」

「アレイスには言うな、だろ。興味ないね」

 エリファスは悪ぶった物言いはするが、そういったことに労力を使うタイプではない。


 いかにも暇を持て余して見えるエリファスに、サイラスが問う。

「ライブラリーといえば」

 サイラスは敢えて単語を口にする。

「エリファス、貴方の生まれは?」

 エリファス、そしてアーカンスが怪訝な顔をする。


「……ハノーブ地区だけど」

 エリファスは、ひとまずは素直に答えている。

「はい。その名前の由来は?」

「――あのな、神学校に入りたての子供じゃないんだよ。ハノーブ神殿のハノーブだろうが」


 現在のファーナム聖殿は、かつてのハノーブ神殿を移設したものだ。

 元からファーナムにあった『風の神の神殿』と合祀されたが、この風神を祀っていた者たちは、もう此処には居ない。


「わたしはその説に異論がありましてね」

 こういう口調で話を続ける時のサイラスは、大抵そのあとに長い話が続くとエリファスは知っている。やっぱりな、と表情に出したが手持ち無沙汰なこともあって大人しく聞いている。


「そもそも山の聖地だったこの地が、大都ファーナムと呼ばれるまでに発展した理由は?」

 サイラスは今度はアーカンスに問いを振った。

「……ジェム、鉱山?」

 ぎこちなく答えるアーカンスに「そうです」とサイラスは間を取り、彼なりの考えを言う。


「ハノーブ地区の名はハノーブ神殿ではなく、ハノーブ・ライブラリーに由来するものだとしたら、どうでしょう?」

「ハノーブ・ライブラリー?」

 講釈を聞かされている二人は、ほぼ同時に問い返した。


 かつてハノーブ神殿のあったハノーブは、今も小さな町として存在する。

 十二神殿の十番目であり、アリステラ市より北にある。


「ハノーブ神殿は移設され、現在のファーナム聖殿になりましたが……その当時すでにファーナムにもライブラリーはありました。それが先日のシルファ・ライブラリー」

「はい」

「と、いうことはですね」


「ハノーブの町に、ハノーブ・ライブラリーは今も残っている、ということです」

 サイラスは結論から言う。

「ファーナム市内にあるハノーブ地区、その成り立ちに我等が第四騎士団が大きく関わった……故に我等が第四騎士団は、他の三団とは大きくかけ離れているのです」


「……少し、わかりかねますが」

 アーカンスはいくつか頭の中で引っ掛かりを感じながらも、サイラスの話の要点が掴めずにいる。

「まずはですね」


「他の三つの団がファーナム聖殿と共に創設されたのに対し、第四騎士団はハノーブの町を守護する為に作られた……そこまでは知っていますね?」

 サイラスは昔語りをする。


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