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アモルファス  作者: 霧音
第一部 ドロワ
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三ノ十、素顔

 地下牢獄に続く長い階段の出入り口には、それぞれ見張りの兵が立っていた。

 砦は戦闘後の処理で慌しく人が行き来しており、特に地下牢獄には捕虜などが身柄を移されたために出入りのチェックが厳しい。


 そこへ、突然にレアム・レアドが現れた。

「止まれ!」

 若い兵士らは咄嗟に声を上げ、相手がレアム・レアドとわかると途端に萎縮する。

「あ、これは……」

「レアム様。い、いかがなさいましたか」

「……」


 レアム・レアドは答えない。

 平素から恐ろしく口数が少ないことでも知られていたが、今日は様子が違うのが見て解る。

 

 相手が誰であれ役目として警告せねばならず、リーダー格の年配の兵はレアムの前に立ちふさがった。

「お、お待ちを! たとえ貴方様でも、この先は――」

 両手を広げて道を塞いだが、レアムがいつになく怒りを溜めいてるのを目の当たりにすると恐怖に頬が引き攣った。


 抑揚を落とした声でレアム・レアドがひそりと尋ねる。

「……捕虜はこの先だな?」


「ノア族の子供がいたそうだな?」

 レアムはその紫色の瞳で、間近の男を見透かすように見る。

「……っ」

 立ち塞がった姿勢のまま、息を詰まらせるように兵士は答える。

「……お、奥です。北側の……一番、奥……」


 レアム・レアドは瞬き一つで視線を逸らすと、その横をすり抜けて階段を降りていってしまった。

 一同はまだ張り詰めたまま動けずにいる。

 ようやっとで年配の兵士が声を発した。

「た、隊長に報告!」

「はいっ」


 地下には鉄格子のはめられた個室が両側にずらりと並んでいた。

 ドヴァン砦が河川を跨いで建てられているだけに、地下は分厚い石壁に囲まれた長い回廊になっている。暗闇と湿気に包まれた環境は劣悪だ。


 廊下の中央辺りにも見張りの兵士がいたが、無断で降りてきた人物に気付き大声をもって制止しようとした。巨漢の力自慢である。

――が。

「……どけ」

 レアム・レアドが短く言うと、見張りの兵士はその巨体が何かに押されるように感じて脇に避けた。空気の壁のような、けれど抵抗できない何かだ。

 その横を、レアム・レアドが通り抜ける。


 レアムの感覚はすでにイシュマイルを捉えていて、それが普通の健康状態でないことに気付き、足を速めた。

 歩きながら、レアム・レアドが鉄格子を指差す。

 かなりの距離があるのに鉄格子の錠前が火花を上げ、重い扉がゆっくり開いた。


 レアム・レアドは扉の前に辿り着き、中を見て一瞬立ち尽くす。

 個室の中ではノア族の衣装姿の少年が、気を失ったまま石の床に転がされていた。薄暗い地下牢の中でも腰に巻いた紅い布が見て取れた。

「……イシュ」

 一言呟いて、レアムは足を踏み入れた。


 その頃、上の回廊にライオネルが到着していた。

 戦が終わっても、なおライオネルは右に左にと忙しい。殆どのことは部下に任せていたが、ことがレアム・レアド絡みとなるとそうはいかない。

 最優先で駆け付けた。


 見張りの兵たちは今や遅しと待っていて、ライオネルの姿を見るなり駆け寄った。

「た、隊長殿! 申し訳もございません。今……」

「わかってる。レアムだろ? どこだ」

 そして階段を駆け下りる。

 見張りの兵士らがそれに続いた。


 ライオネルたちが階段を下り、地下牢獄の廊下に着いた時、その奥から白い光が溢れていることにに驚愕した。イシュマイルの収監されている個室からであることは予想できた。

 ライオネルは駆け出す。


 レアム・レアドは床に膝を付いてイシュマイルを片手で抱え起こし、もう片方の光る手をイシュマイルにかざしていた。


 ライオネルはその様子を鉄格子越しに見た。

 レアム・レアドが放った治癒術の光はバーツの時よりも強く、視界が白く染まるほどだった。

(……これは……)

 ライオネルはこれほどの輝きを久しぶりに見た。


 徐々に光が収まり周囲が暗くなっていく中、ライオネルもそっと牢に入る。そして見張りの兵士に、鉄格子の扉を閉じるように手で合図する。


 レアム・レアドは光の消えたその手を、力なく下ろした。

 相変わらず、その背中からは感情が読めない。


 ライオネルはとりあえず、と声をかける。

「もしやと思って手を止めたが……正解だったようだな?」

 その場で口からでた嘘ではあるが、レアムは無言で視線を向けた。

「……そう睨むなよ。我々は味方だろう?」

 だがレアム・レアドは答えず、ライオネルも固い笑みで返すしかない。

「知った顔のようだな? 感謝して貰わないとな。あのままバーツもろとも殺すところだった」


 挑発気味に言ったライオネルの喉元に、雷光槍が突き付けられた。


 互いの距離は二メートルは越えていたが、一瞬にして白い光がライオネルの首の右側に現れた。ライオネルの灰色がかった髪が僅かに焼け切れたか、焦げた匂いがする。

(速い……!)

 ライオネルは自身に向けられた雷光槍の威力を見、肝を冷やす。


 そして雷光槍を少し避けるようにして、背後にいる鉄格子越しの部下を制す。

「動くな」とだけ命じ、自身は両手を軽く挙げて抵抗しないといった仕草をしてみせる。

「こいつはまた、穏やかじゃないな」

 ライオネルはまずは落ち着くと、彼本来の軽妙な表情に戻って、レアム・レアドに作り物の笑みを向けた。


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