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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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三十一ノ四、女王なるもの

 バーツは、揉め事の元から正そうとテッラに問う。

「俺たちが原因ってことか。 ガーディアンに引き寄せられて奴らは来るのか? 砂虫共々、またこのオアシスに奴らが来ると?」


 テッラはバーツを見上げ、もう一度首を横に振る。

「……来ない。彼らは不必要な争いは好まない」

 テッラは、砂虫にも砂漠の魔物にも悪意はないと繰り返した。

「女王は、ガーディアンに似た何者か。ただし、ガーディアンより高みに居る者、だから彼らはかしずくのだ」


(……高みに?)

 バーツは訝し気に眉を寄せる。

 砂漠の魔物はバーツではなく、イシュマイルだけを指差した。


「ガーディアンに似た、気配か……。その女王、魔人だな?」

 バーツの問いに、テッラは深く頷いて言う。

「古くは魔人ハサスラ。彼女を失った後にも、次の女王は来た……その後も。彼らはずっと主の帰りを待ち、いまも女王不在の宮殿を守っている。だから、あの人型を作った……姿を似せただけの、人形を」


 イシュマイルだけが、その言葉の意味を理解した。

 あの金属の肌の女性は、砂漠の魔人たちが作り上げた仮の女王なのかも知れない。


 一通り言葉を交わした後。

 赤岩の一族の母――テッラは、ガーディアンであるバーツ、イシュマイルと話がしたいと申し出た。

 珍しいことである。


「もとより、断る理由は無い。こっちも訊きたいことはあるしな」

 バーツはいつもの口調でいるが、警戒は解いていない。

 テッラは、そんなバーツたちを赤岩一族の暮らす岩窟住居に連れて行くという。

「……わたしに問うよりも、その両のまなこに訊くが良い」


 テッラは、今度はバーツの横にいたアシュレーを指差した。

「お前、我らの言葉で彼らが知らないことがあれば、教えてやりなさい。ルトワの者なら答えられるはず」

「……通訳ってことかい」

 指を差されたアシュレーは憮然としつつもこれに応じる。

 アシュレーからしても、自分の客人であるバーツたちだけを行かせるわけには行かない。付いて行くつもりではあったが――。


 ひとまず、テッラやオアシスの長と連れ立って街へと戻ることになる。

 護衛役以外の砂船乗りたちは高速艇ハサスラに留まり、アシュレーたちの帰還を待つことにする。


(考えようによっては……助かったな)

 バーツは言葉にはしないが安堵している。

 先ほどまではオアシス民や赤岩一族からの視線が剣呑だった。

(少なくとも……テッラと敵対しない限りは大丈夫そうだな)

 オアシスの長の態度からも、テッラの影響力の大きさが覗える。


「参ったね……」 

 横を歩くアシュレーが心底困った、と声音に滲ませた。

「悪ぃな、巻き込んじまって」

 バーツが謝るも、アシュレーは苦笑いで返すだけだ。

「あと届ける荷物はあんたたちだけだから……そっちはいいんだけどさ」

 そう答えるアシュレーは、少しの居心地の悪さを感じている。客の前で、特にファーナム人の前で実家の姓を口にされたくはない。


「――で、さっきの続きっちゃあなんだが」

 バーツがそのアシュレーに問うた。

「ハサスラのマストにくっ付いてた像、あれは?」

「え?」

 予想外の質問に、アシュレーの方が怪訝な顔をする。

 てっきり実家のことを訊かれるかと構えていた。今この状況でその質問をしてくるバーツの感覚が掴めずにいる。

「あれはアウル――フクロウだよ」

 手短に答える。


「フクロウ……」

 大きな光る眼の生き物――。


「魔人ハサスラは、金属製の鳥アウルを連れてたんだ。アウルは常にハサスラの傍らにあって彼女を補佐し、時にアウル単独でも人族を助けたりしたそうだ」

「金属製?」

 バーツはその一点に反応する。

「あぁ。金属の体に宝玉の瞳。疲れもせずに大砂漠の空を飛び回り、人の言葉を話し、砂漠の魔物すら狩る……それがアウルだ」


 バーツは、先頭を歩いている老婆の背を見る。

 赤い衣、背中側にも鏡の装身具があり、特に大きな二つの鏡がフクロウの目のように見えた。

「……アシュレー。アウルってのも、砂虫と同じ金属の生き物だったのか?」

 バーツは気に掛かることがあり、話を続けた。

「どうだかな」

 そう答えるアシュレーも、バーツと同じ考えではある。


「伝承によるとアウルは最初、ハサスラの背中に付いていた翼だったって話だ。だから生き物というよりジェム・ギミックのような物かも知れないと、俺は思ってる」

「背中に?」

「あぁ」

 アシュレーは魔人ハサスラの伝承を、適度に割愛しつつバーツに話す。

「魔人伝承の多くは、まず魔人が空から落ちてくる所から始まるんだ。たいていは轟音とともに大岩が降ってきて大地に大穴を開ける」

 大岩は周囲の地形を破壊あるいは汚染し、その中から超人的な能力の魔人が現れるという。


「――だがハサスラはその身一つで降りてきた」

 ハサスラは薄衣を纏った女性の姿で語られる。

 その背には小さな翼があったが、これを羽ばたかせることもなくゆっくりと降りてきたという。ハサスラ伝承の中でも特に美しいシーンである。


「地上に着いた後、ハサスラの翼は体から離れて金属製の鳥の姿になった。ハサスラはこの鳥を失った時に、天の力を失って魔人になったそうだ」

「失った?」

 バーツは伝承そのものに興味を持ったが、アシュレーにとっては飽きるほどに聞いた物語である。

「恐らくだが、空を飛ぶことが出来る可変型のジェム・ギミック――だったのかもな」


 ハサスラ伝承に見られるアウルの描写はとても生き物とは思えないが、ギミックの知識が浸透する以前には神話的表現だと見過ごされてきたのだろう。

 姿かたちを変え、自我を持った生き物のように振舞う金属製の鳥――飛行ギミックに関しては現状存在していないし、記録にもない。形が変わるというのも超常的である。


「究極のギミック、か……」

 そんなものは文字通り、物語の中でしか存在しない。


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