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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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二十九ノ九、刻まれたもの

 アーカンスは、プレートに浮かぶ白い紋章――ガーディアン刻印をじっと見ている。

 そしてふと、その下にある紋章の違いに気付いた。

「二枚目の輪……レアムの物とシオン殿ではその、色が違って見えますね」


 白いガーディアン刻印に重なってわかりずらいが、斜めから見ると覗える。

 レアムの物は赤く見え、シオンの者は金色に見える。


「恐らくですが……レアム・レアドの物は、龍人族の刻印であると思われます」

「龍……人族」

 下にある輪もまた、刻印であるとサイラスは言う。


「そしてシオン殿や他の方々には、タイレス族の刻印。つまりは上の紋章はガーディアン刻印を、下の紋章は種族を示す刻印ですな」

「タイレス族にも、刻印が……?」


 サイラスは問いには答えず、少し肩を落として言う。

「わたしにはそういった見分けは付きません。輝いているのはわかるのですが」

 こんなにはっきり見えるのに?――とアーカンスは疑問に思う。


「ほとんどの人にはただの壁とプレートに見えると思います。聖殿騎士であるわたしは辛うじて、光を感じることが出来ますが」

 ただの光ではないのである。

 多くの人々、過去にここを訪れたであろう巡礼者たちの目には、ここは名前が並ぶだけの薄暗い部屋でしかない。


「貴方を此処に連れてきたのは、貴方なら見えるだろうと予測していたから……」

 サイラスは、色々な場面でアーカンスを試している。

「ちなみに、アレイス殿にはかなり克明に判別が可能だそうです。エリファスなどもね」

「エリファスも……?」


 サイラスは話を戻して、刻印についてアーカンスに教える。

「あまり知られていませんが、全ての人族、全ての動物、全ての植物にそれぞれの刻印があるとか。これがないと、我等は元の塵芥として化してしまうそうです」


「月魔が、肉体を破壊されると灰に戻るのと同じです」

「灰に……」

 サイラスはある程度の想像を交えて説明している。

 確かな仕組みなどは、地上に暮らす者には計りえない。

「では刻印とは――」

「加護です。全ての生き物が、己の命と『形』を保つためのもの。エルシオンと繋がっている証」


 アーカンスは理解しようと考え、ふと思いついて問う。

「待って下さい、なぜ龍人族にもエルシオンの加護が?」

「何故も何も、石舟伝承に名の出てくる者は全てエルシオンの者。例外は、四肢龍族と六肢竜族だけです」


 現在ではエルシオンに関わっていないとされている龍人族にも、エルシオンの加護がある――そうサイラスは言う。


「こういった天界の写し鏡は大陸各地にあるのです。――それが、ライブラリー」

 サイラスは改めて室内を見回しつつ言う。

「これらの情報は、とても地上には収めきれません。なので聖殿とライブラリーに分けて収められており、それぞれに守られています」


「では、他の十二聖殿すべてに」

「えぇ」

 各地に十二セット有ったという神殿とライブラリー。 

「それを一つずつ見て回って学ぶのが、巡礼の正しい形――」


 十二神殿と十二のライブラリーを全て見て回ることで、エルシオンにある知識に触れ、真実と現実を識るのである。

 古い時代には、それが正しい巡礼の形として行われていた。


「……何故、その巡礼の形が崩れたんでしょう」

 アーカンスは輝きを失ったプレートを眺め見て言う。

「たとえ名の知らぬ誰かであっても、その名を目にするだけで報われるというのに」

 死したガーディアンが、と言葉にはしない。


 サイラスも、アーカンスの言葉の裏側にある感情には言及しない。

「一つには各地の神殿が消滅したり、移設される過程で失われるなどしたのではないでしょうか。聖殿となってからは特に閉鎖的になりました。近年では国境越えが難しくなるなどして簡略化されていますから」


「聖レミオール市国の大聖殿、あとはレヒト・ライブラリーなどは素晴らしいものだと絶賛されたそうです」

「レヒト……しかしレヒト聖殿のものは百年前に」

「レヒトの、大災厄……ですね」

 百年前、帝国内で起こった大崩落により、レヒト聖殿は消滅したと言われている。


「まぁ、それはそれ。今わたしが見せたいのはそれではない」

 サイラスは感傷的な会話はここまでとし、広間の中を歩いて移動する。


 ドームの中は外から見たよりも広い。

 もしかしたら実際の建物とは大きさが違っているのかも知れないが、それは室内にいる者にはわからない。

 気付くとしたら、相当に能力の高い適合者くらいであろう。


「見てください、あそこにあるのがガーディアン・バーツの刻印」

 サイラスは、歩きながらある方向を指差した。

 サイラスの指の先に、縦の列が途切れたプレート群がある。

「一番最後の?」

「碑銘の並びは、ガーディアンと成った順。生まれの年ではないので前後することもあるのでしょう」


 もっとも最近ガーディアンになったといわれるバーツのプレートは、この室内全てのプレートの最後にある。


「……色が、他と違う……?」

「彼が、ノア族のガーディアンだからです」

 はっと顔色を変え、アーカンスはプレートを注意深く観察する。

 バーツの名らしき文字、浮かぶ丸い紋章は緑がかった光を放っている。


「ノア族の刻印……」

 ガーディアン刻印の下に、他とは違う色の種族紋章が見える。


 アーカンスは周囲のプレートを見回している。

 ざっと見える範囲にも、バーツと同じ色の種族刻印は見えず、プレート群の一番最後に、まったく異質な色合いの名前がある。


「……貴方がたがバーツを危険視するのは、これのせい?」

「それも、理由の一つですね」

 サイラスは両手を開いて、大仰な動作で広間を見回して言う。


「見てください、ほとんどのガーディアンの刻印はタイレス刻印。例外として存在するのが、レアムやアウローラ、バーツなど。いずれも問題のあるガーディアンです」

「……そうでしょうか」

 アーカンスは反論する。


「私には、タイレス刻印も一色には見えませんが」

 アーカンスの目には、タイレス刻印の色は少しずつではあるが様々な色に散らばって見える。暗色の壁に映るそれらは、夜空の星々のように瞬く。


「それは、タイレス族が揺らぎ易い種族だからです」

 サイラスはその点にも用意がある。

「……揺らぎ?」


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