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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
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二十八ノ三、預言

 大図書館の門をくぐり整えられた庭を歩きながら、アーカンスは気になる様子で訊ねる。

「あの、アレイス殿は今は……」

「定例の評議会に出席しておられます。数時間はかかるでしょう」


「ぇえ? 定例会議にしては、随分とかかるのですね」

「さすがルトワの一族、詳しいですね」

アルウィスが、話してくれますから……」

「なるほど」

 サイラスはルトワ一族の話に納得し、アーカンスの問いに改めて答える。

「定例会議のあと、秘密裏に会合があります。アレイス殿の本命はそちら」


「ファーナムがいつ……ドヴァン砦の奪還を再開するか、それが話し合われるのです」

「それは……っ」

 今更のようにアーカンスは驚く。


 だがサイラスは、アーカンスほど危機感は抱いていない。

 直接戦闘に参加していないこともあるが、もっと明確な理由もある。

「『今はライオネル・アルヘイトとの休戦の取り決めがある』……でしたかな」

「えぇ」

「――ですがね。ライオネル・アルヘイトとの休戦協定は、すでに三回目なのですよ。つまり過去に二度、破られている」

 事実である。

 そして第三騎士団と遊撃隊が参戦したのは、三回目の時だ。


 三回目の協定破りがあるということか?

「……」

 アーカンスの胸に、あの敗戦の記憶が苦いものとして甦る。

「……無理です。あの砦は……落ちない」

 感情論だけでなくそう言った。

「えぇ」

 サイラスはなんら労わるでもなく、淡々と言う。


「ご安心を。アレイス殿が会合に出席されている限り、休戦は破られません」

「……どういう意味です?」

「簡単なこと。アレイス殿は『預言者』です。そして休戦が三度敷かれることは預言されていた。……当時は信じる者は居なかったが、今はそうではない」

「……」

 アーカンスは黙り込む。

 預言にある休戦は、この三回目が最後として守られ続けるのか?


 アーカンスには、現実味のない話だと感じられた。

「では……再びアレイス殿に預言が下るまでは、再戦はない――と?」

 信じ難い。

 聖レミオール市国をあのまま帝国領にしておくなど、都市連合が容認するはずがない。


 その点はアレイスもサイラスも同じ感情である。

 だがサイラスたちには現状を甘んじて受け入れられる根拠がある。


「――いえ、もう預言はあったのですよ。あとはその内容が成就されるのを待つだけ」

 その待っている時間が、今だと言う。

「……内容を、お聞きしても?」

「えぇ」

 サイラスは立ち止まり、三本立てた指を見せながら言う。

「三、です」

「三?」

「ある者が……三つに裂かれて死にます。その者の死は、誰にも知られず気付かれることはありません」


「ですがそののち。その者が持っていた物も、三つに裂けます。それはとてもはっきりしているもので、誰の目にも明らかです。そして――これが兆しです」

「兆し……」


「それは、奪還は成るという意味の、ですか」

「……」

 サイラスは、少し慎重になり言葉を繋ぐ。

「その後の預言はまだです。先の『三』の預言が成就されるまで、次の預言はくだされない……」


「それは……」

 アーカンスは一度はその意味を理解したが、すぐに別の視点からの疑問を抱く。

「見ているということですか……エルシオンが、我々の行動を」


「その兆しを、勝利の兆しとするための行動を……我々が取るのかどうかを、見極めている?」

「……冒涜的ですねぇ。相変わらず」

 サイラスは、アーカンスの理解力に満足すると同時に、その歯に布着せぬ表現には困り果てたように薄い笑みを浮かべるだけだ。

「わたしの口からは、それは言えませんとだけ言っておきます」


「……話が逸れました。早く大図書館ライブラリーの中を案内しましょう」

 サイラスは先に立って、ライブラリーの中へと入っていく。



――さて。

 大陸南部、とくにノルド・ブロス側に視点を移すが、その前に地名と天球図について記す。


 天球図にある座のうち目印となるものが十二ある。

 エルシオンの十二宮、と呼ばれる。

 十二の座を天の暦とし、円形に描いた図を『デュオデキム天体配置図』と言う。


 デュオデキムとは十二という意味で、ホロスコープの円形図に似ている。

 その並びはちょうどアナログ時計盤の十二数字の位置になる。


 円形図を地上に写し取ったのが十二の塔であり十二神殿であり、『はじまりのうた』の十二の杭だと言われる。


 デュオデキム天体配置図は星読みにも使われ、十二座が象徴する性質からその人の星を読むのは、占星術と似ている。また地勢――街の名にもそれが受け継がれるとして、生まれ故郷の特性が人の運命に影響を与えるとも言われる。


 十二の宮を今の勢力図に重ねると例えば、六時の位置にあるのが聖レミオール市国、という具合である。

 この位置は、天では『六』のハウスとなりカルバスス座が当てはまる。

 地上では四つの塔に囲まれた大塔が存在し、一纏めにレミオール大拝殿と呼ばれる。


 続く『七』の宮から時計回りにサドル・ムレス都市連合。

 七のドロワ、ヴェイル、アリステラ、ハノーブ、フロントの五つのハウスがある。

 五つの神殿――のちの聖殿となったが、現存するのはドロワ聖殿、フロント聖殿のみである。

 アリステラ聖殿は移設されたものであり、ファーナム聖殿もハノーブにあった神殿が移され合祀されたものだという。


 ウエス・トール王国には、十二番目のハウスであるオヴェスと、最初に戻って一の宮であるテルグムがあてはまる。

 オヴェス神殿、テルグム神殿ともに現存しており、呼称のみ聖殿となる。


 そして、ノルド・ブロス帝国には『二』の宮にあたるシルファに始まり、レヒト、アウトゥーダ、ボレアーの四つのハウスがある。

 神殿が残っているのはボレアーのみで、ボレアー聖殿と呼ばれる。

 レヒトとアウトゥーダは百年前に崩落し、現在は炎羅宮レヒトに移設する形で聖殿が再建されている。


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