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アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
270/379

二十七ノ九、怪しい老人

――ファーナム聖殿。

 聖殿とそれにに関わる様々な施設は、ファーナム市内からは少し外れた斜面に点在しており、常駐する第四騎士団の本拠地もそこにある。


 ファーナム市内は摩天楼のような密度のある魔都だと言われるが、その外側の風景というのは、延々と続く山脈と天然の緑の濃い山間の景色である。


 第四騎士団の本拠地も、そんな木々の合間にある。

 以前にあった寄宿舎をそのまま模して再建されたもので、クラシックな造りはドロワ市にあった貴族屋敷にも似て品がある。

 一部の部屋は執務室としても使われている。


 二階にある広めの部屋が、サイラス・シュドラの執務室である。

 すぐ近くに事務方の詰所があり、団長ベルセウス・アレイスの応接室もあって、サイラスは一日のうち何度となくこの三箇所を行き来して仕事をしていた。


「アーカンス・ルトワの様子はどんな風だ?」

 団長ベルセウス・アレイスが、傍らのサイラスに問うている。

 アレイスはサイラスの部屋に居て定例評議会の開始時刻を待ちがてら、ペーパーワークのチェックをしている。

 次々と書き上がって来る書類に目を通していたが、単調な作業だけにふと口が緩んだ。


 サイラスはいつものように机に向かって書き物をしている。

 達筆な上に尋常でない速度が特技で、書記官に任せるより自分で仕上げた方が早いため、よくデスクワークをしている。


 サイラスは書類から目を離さず、答える。

「今の所は凡庸、といった所ですかな。以前わたしが作成した報告書の通り……けっきょく見立てとしては正しかった」

「見立てとしては? その割には残念そうにしておるが」


「それは、まぁ。……少しは骨のある若者が手に入ったかと思ったのですが」

 サイラスの声はまるで物足りない、と言いたげである。

「あの者をずいぶんを買っておるようだな」


「わたしが刮目するのは、あくまで手駒として……。個人的なことには興味ありません。ルトワの一族には注視いたしますがね」

 素直でない、とアレイスは口にはせずに笑みを作る。

 サイラスが部下を気に入ることは滅多にない。いつも淡々と査定し、使うのみだ。


「しかし……わたしはともかく、エリファスめはどうでしょうな」

 サイラスは手を止め、インク壺に丁寧に蓋をする。

 エリファス・ラグレーは第四騎士団の幹部であり、団長アレイスの護衛役でもある。


「エリファスがどうかしたか」

「例の一戦で引き分けて以来、どうも妙な興味を持ってしまったようで」

 アーカンスとの『面接』での一戦のことである。

 アーカンスの思わぬ反撃を受けて引き分けたが、エリファスとしては納得のいかない敗北の記憶となっている。


「例のクセが出なければ良いのですが」

 サイラスは、エリファスの持つ暴力的な面を案じている。

「案ずるな」


「身内には手出しはせん。そう飼い慣らしてある」

「身内……アーカンス・ルトワに『犬』の可能性はないと?」

 サイラスは、アカルテル・ハル・ルトワの企みを憂慮している。


「ならば犬と狂犬を食い合わせるか? だが、いずれかの間諜であろうと、例えそれが敵の回し者であったとしても、私には些事だ」

「豪胆であられますな」


「しかし……たしかにアレイス殿の仰る通り。あれは飼い主さえおれば従順そのものだ。貴方の命令の範疇ならばアーカンス・ルトワに危害は及びますまい」

 サイラスは言外に含みを持たせた。


 同じ第四騎士団の同志ならば、エリファスはアレイスの許可がない限り攻撃はしない。評議員クライサーなどの要人もだ。

 だがアレイスの命じた範囲の外は?

――例えば、カリンなどである。

 この場には関係のないことであり口にはしなかったが、サイラスには気掛かりである。



 その頃。

 アーカンスは、部下と共に巡回から戻って来たところだった。

 第四騎士団の警備範囲はファーナム聖殿に関する場所、礼拝堂や巡礼路などが主となり、他の騎士団よりは単調な見回りとなる。


 どちらかと言えば信徒の道案内であったり、会話に応じたりといった活動が多く、常に人目を意識しつつも穏やかに繕っていなければならない。

 アーカンスには無難にこなせる役目だが、この日はいつもとは違っていた。


 最後に聖殿前まで戻ってきたところで、なにやら騒ぎが起こっていることに気付いた。

「待て! 待て待て待て、話を聞け!」

 やたらと声の大きい老人が騒いでいる。

 老人は聖殿警備についていた小隊の騎士に取り押さえられていた。


 アーカンスには、その声に聞き覚えがある。

 立ち止まったアーカンスに、部下が怪訝そうに訊ねる。

「ルトワ隊長、いかがなされた?」

「あの老人、まさか――」

 アーカンスが人の輪に割って入ると、やはりそこに居たのはギムトロスである。


 サドル・ノア族のレンジャーであり、イシュマイルの師匠でもある。イシュマイルたちのフォローをすべくタイレス族に変装して村の外に出て、今はファーナム市に潜入したばかりである。


 ギムトロスはまだ騒いでいる。

「話せばわかる! 儂はジグラッド・コルネス殿に用があるだけだ、聖殿騎士ってのは聖殿にいるんだろう?」

 ギムトロスは、ジグラッドに直接会ったことはない。

 第三騎士団は拝殿聖殿居ないことや、その第三騎士団が今どんな状況にあるのか知らなかった。


(……まずいな)

 アーカンスは焦りを隠して考えている。


 ファーナムでは、ノア族への印象と対応は良くは無い。

 ましてギムトロスは只のノア族でなくタイレス族に変装しており、サドル・ノア族だとわかれば第四騎士団の連中がどう捉えるかは想像に難くない。


 ジグラッドの名前を出してしまってもいて、その関わりを釈明するのも危ういとアーカンスは思案している。


 だがギムトロスの方は、ファーナムのそんな実情をまだ理解してはいない。

 自分を取り囲む聖殿騎士達の中に、覚えのある顔を見つける。

「あれ……? あんた、もしかして遊撃隊の?」

 ジグラッドやファーナムのことには疎いが、アーカンスには会って話をしたことがある。


 服装や雰囲気がまるで違っていたのでギムトロスも迷ったが、すぐにアーカンス本人だと思い直した。

 目の前に現れたアーカンスを見て喜色を浮かべる。

「おお、あんたか! 助かった。説明してやってくれ、こいつらに!」

「……」

 アーカンスは内心面食らっていたが、沈黙を保っている。


「?……? 儂だ、儂だよホラ!」

「ルトワ殿、この男をご存知か?」

 ギムトロスを取り押さえている小隊長が、手に余る様子でルトワに詳細を求めた。

「あぁ、知っている」

 アーカンスは考えを巡らせた末、嘘をつく。


「こいつは、ドロワ市でノア族と偽って品物を売りつけていた男だ」

 アーカンスは、高圧的な態度でギムトロスを指差してそう言った。

「ドロワでも捕まって放り出されていた。送り返してやればいい」

「……」

 ギムトロスも、アーカンスの態度と言葉の裏に気付き、咄嗟に芝居を打った。

「ま、まてまて、そ、それは困る! 俺はスドウから来たんだ。今ドロワなんかに送られたら、国境を越えられなくなる! 頼む!」


 そして大袈裟な仕草で、スドウの通行証を取り出した。

 それはスドウの町で、シオンが用意したものである。


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