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アモルファス  作者: 霧音
第一部 ドロワ
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三ノ六、竜筒(ドラゴン・ブレス)

 ライオネルの隊は、三列二種の態勢で連射した。

 雷弾と火球が次々と橋を越え、倒れた井欄の向こう側へと着弾する。


 通常の竜筒の連射速度に勝るこのスピードだけでも脅威的であるのに、襲い掛かってくるのは雷光槍に似た破壊力を持った魔弾だ。

 ファーナム側の陣は煙幕でも張られたかのように視界が効かなくなる。


「くっそォ! なん……って火力だ。ありかよ、それ!」

 バーツは三度防御の術を張る。

 バーツの作り出した斜傾の壁は、ライオネル隊の魔弾を弾き流すことに徹した。真正面から全てのエネルギーを受け止める技量は今のバーツにはない。


 大きく後方に飛ばされた魔弾は、弧を描いて陣の奥へと着弾していく。ときおり森に届いた雷球が樹木に直撃し、轟音と共に幹を裂き、焼いた。


「……隊長」

 アーカンスはこれ以上の戦闘継続は無理だと考え、厳しい表情でバーツに言う。

「団長と合流しましょう。幸い、敵の攻撃は出鱈目です。今のうちに」

「あぁ? 俺が動いたら、誰が攻撃を防ぐんだよ。お前らは下がれ!」

「バーツ隊長!」

 アーカンスが声を張り上げた時、背後の木々の間から聞き慣れた声がした。


「バーツ! 無事か」

「! ジグラッドか?」

 バーツは煙の中、音だけを頼りに背後に叫ぶ。

「……北側の、ドロワ騎士団は壊滅だ。この上は……敵の総力が、こちらにくるぞ」

 ジグラッドは負傷しているのか、いつもの大声は出せずにいた。


 ジグラッドの言葉は現実になりつつあったが、この混乱でファーナム騎士団は進退すらままならない状態だった。味方同士が互いの位置さえ掴めなくなっていた。


 アーカンスはジグラッドに駆け寄り、肩を貸しつつ言う。

「団長、撤退してください! 視界のきかない今ならば敵の追撃を避けて下がれます!」

「アーカンス! てめぇ、そしたらイシュマイルはどうなる!」


 アーカンスはバーツに叫び返した。

「イシュマイル君はおそらく橋の上です! 敵の攻撃は橋よりこちらに集中してます! 無事を祈りましょう!」

「てめ……っ」

「敵の今の攻撃目標は貴方と、そして我々でしょうっ? 我々が下手に橋に近寄るべきでない!」


「それなら門はどうなる! 諦めんのか!」

「その通りです! この作戦は失敗です! バーツ! 貴方も下がりなさい!」

「……っ」

 アーカンスは、ジグラッドに肩を貸したままバーツに怒鳴る。

 その間にも遊撃隊の兵士とジグラッド付きの補佐官が、アーカンスからジグラッドを引き受けて運ぼうと手を貸した。


 だがこれらの様子は、城壁の上にいるレアム・レアドには一望の下に確認できた。


 すでに南側は重機が使用不可能になり、陣容もバラバラになって壊滅状態だった。レアム・レアドは城壁の上から、戦場から脱落していく敵兵士の姿をただ見下ろしている。


 レアムの目に、敵の司令官ジグラッド・コルネスとガーディアン、バーツ・テイグラートの姿が映る。ジグラッドは負傷した身体を部下に引き摺られるようにして後退を始めており、バーツ・テイグラートはまだ雷光をもって、ライオネル隊の攻撃を防いでいた。


 レアム・レアドは、静かにバーツを指差した。

 暗雲が一段と低く轟き、バーツたちは今度こそ攻撃が来るのを察した。バーツが結界を張るより早く、雷の柱が真上から落ちてきた。


(重い……!)

 それは天然の雷と違い、物理的な重さを伴ってバーツたちを圧迫する。

 ジグラッドは傷の痛みに悶絶し、アーカンスは呼吸が妨げられるように感じた。胸が潰れるかのようだった。


 長くは耐えられなかった。

 バーツの術が破られ、雷光が地面に到達するや、その場に居た者は皆衝撃に吹き飛ばされ、しばし身体の自由を失う。


 特に直撃に近かったバーツは起き上がることも出来ない。

 なんとか動く右手を宙に挙げて、まだ術を使おうとした。

 レアムの雷は止んでも、すぐ目の前にはライオネル隊がいる。


 レアム・レアドの一撃が去ったのを見て、ライオネルは合図を出した。

 ライオネル隊の筒が、光った気がした。

 

――その時だ。

 バーツの耳に、何かが空を切る音が聞こえた。


 ドヴァン砦の城壁が突如土煙を上げた。

 砦の南門はいまだ魔方陣によって守られていたが、陣の及ばない部分――特に南の塔側に集中して、何かが激突し石壁を破壊した。


「……っ何!」

 ライオネルは破片を避け、腕をかざして南側を見た。

「!」

 レアム・レアドも手を下ろし、視線を南側に向ける。


 ファーナム陣の後方に、見慣れない竜騎兵が整列していた。

 彼らは竜筒を放ち、着弾したのを見ると不意に向きを変えて退却を始める。

「何事だっ? 何者だ!」

 叫んだのはファーナム側の兵士も同じであった。


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