表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アモルファス  作者: 霧音
第四部 諸国巡り・弐
260/379

二十六ノ九、リフター塔遺跡

「おっと……見過ごすところだった」

 まだ続きを知りたい顔のイシュマイルをよそに、ローゼライトは背を向けると湖面を見ようとしてか船縁に寄る。


 薄暗くけぶる遠い空は天候が崩れていて、幾つかの重い灰色をした雨雲からは雨が滝のように落ちている様が覗える。

 広大な湖の上だからこそ見える雄大な眺望、距離や雨雲の大きさなどは慣れない者には測れない景色。バーツとイシュマイルも、つられるようにローゼライトの横に並んでその景色を眺める。


「みたまえ。『あれ』の為に乗客も乗組員も船室に閉じ込めたのだ。だが君たちはあれを見ても良い。あれに呼ばれたのだから」

 ローゼライトの指差す彼方に、白い柱が立ち昇っているのが見える。

「……竜巻、か?」


 水上の巨大な水竜巻を見るのも初めてであるが、それが随分高く空まで延びている光景からはどこか不自然さを感じてもいる。

「なんだ……? 竜巻の中心に、えらくはっきりとした線がみえるが」

 水面を見、視線をあげていくとその一筋の線も、空の遥か上まで続いている。


「なんなの? 紐が空まで伸びてるみたいな」

 イシュマイルはいつもの無警戒な口調でローゼライトを見上げて問う。

「……あれはこの大陸を吊るしている一本の糸だと言ったら、信じるかね?」

「えぇっ? どういうこと?」

「……嘘だよ」

「……っ」

「あれは天空を支える柱だ」

「本当に?」

「いいや?」

「……」

 たて続けに二度も冗談を掴まされて、イシュマイルも黙る。

 ローゼライトはようやく正解を口にする。


「この距離だから細長く見えるだけだ。れっきとした建造物、その集合体だ」

 二人のやりとりを見ていたバーツも、改めてその線状の何かを見る。

「といっても、私もこの目で実際にみるのは初めてだがね」


「うっかり近付いて、あの嵐に巻き込まれたら……ノルド・ブロスの船でも耐えられん」

 アリステラの商船とノルド・ブロスの武装商船団は、その不思議な景色を横目に見ながらゆっくりと進んでいく。

 白い水柱が遠い湖面で明るく見えている。


 確かに強い力で引き寄せられているのを感じるが、ノルド・ブロスの船はそういったものにも抵抗出来る様造られていて、力強く前に進んでいく。


「――カーディアン」

 不意にローゼライトに注意を促され、バーツは自分が魔力に魅入られていたと気付いた。ローゼライトに視線を戻すと、ローゼライトは周囲には聞こえぬよう注意深く問うた。

「君は聖殿やその他の場所で、リフターやゲートを使ったことはあるかね?」

「……っ」

 イシュマイルの前でもあり、バーツは言葉に詰まる。


「な、なくはないけどよ」

 ドロワ市で一度、師であるシオンにいざなわれてリフターを使用したことがあるが、厳密にはこれは聖殿での規則違反でもある。

 ましてまだガーディアンではないイシュマイルには、その存在すら知られてはいけないものだ。


 だが事情など知らぬ顔で、ローゼライトは説明する。

「ならば仕組みはわかるだろう。あれは、古代のリフター塔だよ」

「え……?」

 言葉の意味はわからないが、ドロワでの装置を思い出すと想像は出来る。

「正確にいうなら、リフターの周りに古代人は住処を造って住んでいた……その集合体があれ。リフター塔遺跡だ」


 イシュマイルは目を凝らすようにして、遠くに見える建造物を見た。

 距離を考えれば見えるはずもないのだが、不思議とイシュマイルの目にはすらりと伸びて天まで続く塔と、その周囲に張り付くでこぼことした塊が認識出来た。


「――古代人は愚かだった。リフターの放つ無限の力と防御陣の効果を頼み、リフターの周囲に住み着いたがその過程でリフター自体を壊してしまったのだ」

 ローゼライトによれば、塔に張り付いているのは人々が住んでいたブロック状の建造物群だという。それらはまったく無秩序に積み重なって、塔の下部に行くほど厚くなっていた。


「今やリフターは階層ごとに分断されてしまっている。無制限に魔力を放出する渦の中心と化した」

「……おっかねぇ話だな?」

「あぁ。アール湖の中央付近に厳しい不可侵水域があるのは、そのためだよ。人の戦の都合などは二の次だ」


 ローゼライトはこうも言った。

「今日君たちの船がこうも引き寄せられたのは、おそらくは君たちのせいだろう」

 バーツは無言のまま、ローゼライトの顔を見る。

 老人は恍惚の表情で、ただ己の言葉のみを続けている。

「リフターの塔が君たちを呼んだ……君たちにその姿を見せるためにね」

「……」


「何故、そう思う」

 バーツは不信を込めた低い声で、ローゼライトを睨んでいる。

 ローゼライトはまた元の事務的な口調に戻って言う。

「私が自分の船室を出て、この船に来た理由と同じだよ」

 ローゼライトがわざわざタラップを降りてきたのは、このアリステラ船から感じる何者かの存在に惹かれたからだ。


「君たちの強い気配を感じたからだ。私の探し人である、金の再生相の気配をな」

「金の……?」

「私の今回の旅の目的の一つ、人探しだよ。君たちがそうなのかと思った」

 ローゼライトは体ごと向き直って、リフター遺跡からバーツたちへと視線をやる。


 目の前には、ガーディアン・バーツとノア族の衣装の少年イシュマイルがいる。

「……」

 ローゼライトはしばし二人の顔と佇まいを交互に見て観察している。


 そして、結論を口にした。

「だが、違った」

 探していた金の再生相の者では、ない。

 二人とも。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ