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アモルファス  作者: 霧音
第三部 ドロワ・弐
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二十五ノ四、その甘さゆえ

「あのう……宜しいかな?」

 苦々しい空気の室内に、少し調子の違う声で手を上げたのはレイムントである。


「腹の探りあいはごもっともですが……私は竜族の訓練士として、ライオネル側の申し出の意味がわかる気がしております」

「レイムント……?」

 普段は無駄口がなく物静かとも評されているだけに、珍しい行動だった。


「彼らにとっても明らかにしたい一件なのです。竜族の月魔化など、前代未聞ですから」

「……みすみすスパイを入れるとわかっていて?」とフェディナント。

「まぁ、そこはそれ……。私が疑問に思うのはライオネルのこの反応の早さと焦りです」

「焦り?」

「えぇ。わたし……前回、そして今回の事件を通して、初めてライオネルの感情というものに触れた気がします」

「?」


 皆が注目し、レイムントは改めて説明する。

「訓練士の端くれとして今回の事件を見た場合、六肢竜族の存在がある」

 事件の当日。

 まず起こったことは、全ての竜馬が行動不能になったことだ。

「わたしは最初。ドヴァン砦からの、六肢竜族を狙った攻撃を疑いました」

 あの時、セルピコらも即座に同じ疑いを持ち、口にしている。


「でもどうやらそうではないらしい、むしろ何が起こったのかを知りたがっている」

 そこにライオネルの隙があるとレイムントは言う。

「恐らく、ドヴァン砦の竜族にも同じ現象が起こったのでしょう」


 竜族は個体それぞれが自立して見えるが、本質は超個体であるという。

 ある程度の知覚や感情を共有しており、それを感覚共有と呼ぶ。その範囲は思うより広く、個々の体をアンテナとして大きなコロニーを形成している。


 事件の時、騎士団の竜馬のほかに、一般に飼育されいた竜族にも似た症状が広範囲で報告されており、それらは同じ群であると思われる。

 ドロワからそう遠くないドヴァン砦もその範囲内に入っていて、となれば砦の竜族も一斉に卒倒し、人の言葉を受け付けなくなっていたはず――そうレイムントたち訓練士は予想していた。


「原因は、恐らくあの竜族の月魔化ではないでしょうか。想像以上の苦痛や衝撃が伝播したからではないか、というのが訓練士一同で見立てた意見です」

「たしかに……」

 ジエルトの月魔化を目の前で見てしまった自警団員には、共感と共に理解出来る話だった。


 その後、魔法陣ホロウ・カラムで月魔竜が消滅すると、竜馬たちは回復している。確とした証拠はないが、感情的には納得できた。


「そして。この仮説が正しいとして、以前から指摘されているライオネルと竜族の関係を論じたい」

「それは……ライオネルは六肢竜族から情報を得、かつ統率出来るのでは、いうあれですかな」

 それです、とレイムントは指を立てる。

「ライオネルは竜族の言葉も理解出来る言語の研究者、でしたよね」


「人族と六肢竜族は確かに相互に理解し共生出来る。龍人族であるライオネルと、六肢竜族には共通の言語がある。――ですが、たった一人の龍人がそれだけで竜族の群れを完全に制御するなど不可能。とても信じられません」

 レイムントは慎重に本題を口にする。


「ギミックでもそんな真似は出来ません。もし本当にライオネルが六肢竜族から情報を得たり、群れを自在に操ることが出来るとしたら……それは竜族のリーダーとも言える存在を手元に置いているからでは? ――それが我々訓練士の、以前からの推測なのです」


 言葉にしてしまえば、これ以上無いほど単純なことである。

「群れのリーダー……核となる個体、か」

 思い当たる。

 竜族はより上位の竜族には逆らわないという原則を。


「あくまで推測の段階ですが……今回被害を受けた竜族の中にその個体が居たとしたら?」

 ライオネルならずとも、焦る状況だろうと納得する。

 この地域一帯の竜族の掌握、得られる情報等の様々な優位性、それが今回のような別角度からの横槍で容易く崩れてしまうのなら――。


「ライオネルの謎の一つを、この一件で崩せるかもしれません」

 ネヒストがふと思い出す。

「そういえば……あの巡礼の男が言っていた。ライオネルの如きもの、六肢竜族と戯れているのが似合いだと」

 フェルディナントも気付いた。

「そうだ、そもそも調査と称して人を寄こさねばならない時点で、情報の空白がある証拠じゃないか」


 かつて、テレパシストのアイス・ペルサンをして、彼女にも特定できない特殊な情報網を持つと言わしめたライオネルである。その完璧なはずの網が、今回は完璧でないのなら。


「迂闊よのぅ……」

 セルピコが苦笑し、カミュは記憶を振り返る。

「二度の月魔発生の最中、ライオネルは二度とも使者を送ってきている。一度目は思い通りにドロワを孤立させた。だが今回は――」

 なんの成果もない。

 蛇足とも取れる行動から覗えるものは、ライオネルの焦りなのか。


 オルドランが駄目押しのように言う。

「存外、突発的な異変には弱いのでしょうな。自分や、他人が思っているよりも」

 オルドランはドヴァン砦で拘束されていた時に直接ライオネルと対峙し、尋問等も受けている。その率直な人物評でもある。

「……彼は、甘い」

 相変わらずの無表情さで、そう呟いた。


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