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アモルファス  作者: 霧音
第一部 ドロワ
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三ノ三、ライオネル

 攻撃の先手を取ったのは、その小隊の方だった。

 リーダーが手振りで合図したのと同時に、投石のような何かがバーツたち遊撃隊に正射された。

 バーツはこれを防ごうと、咄嗟に掌を差し出した。


 敵の放った一弾はバーツの目の前で炎の塊と化す。

「――っ?」

 アーカンスらは思わず顔を伏せ、バーツは両手をもってこれを支え、上空へとその力を逃がした。周囲を焦がす匂いが立ちこめる。


 バーツが隙を突かれている間に、門の前の兵士は、数人ずつニ列になって交代した。

 今撃った者らは半歩下がり、銃に弾を込めるかのように筒を操作した。


 その間に、前列から次の一弾が放たれる。

 先ほどよりも眩しい光線を放ちながら、束になった雷球がバーツを真正面から襲った。バーツが両手で支えてもなお、縮れる雷光がその視界を奪う。


 嫌な感触だった。

 雷光槍に似ているが、異質なもの。

「魔弾の性質が変わった――? 竜筒で出来る芸当じゃねぇ!」


 竜筒とは、魔石ジェムを媒体にした騎乗用兵器のことだ。

 ジェム・ギミックの一種で、小型で精密、その使用には訓練を要する。そして竜に騎乗していることが条件として発動する魔術兵器である。


 しかし目の前の光景は、機械的な動作こそ竜筒に似ているが竜筒ではない。

 ジェム・ギミックの類であろうことは予測できたが、その作用は予想の外だ。わかるのは敵の技術力が自分たちより遥かに高いということだ。


 バーツは忌々しげに舌打ちする。

 そういった情報が、錯綜の末に自分たちのもとに届いていなかったことに。



 魔弾の攻撃が切れると、間髪をいれず城壁からの矢が降り注いだ。

 バーツの掌から光が溢れる。それを上空に投げるように掲げると、巨大な球状が空中に広がり、弓矢を防いだ。先ほどレアム・レアドが見せた光の幕に似ている。


「隊長!」

 アーカンスが後方から叫んだ。

 敵の攻撃が不可解すぎて、援護しようにも勝手がつかめない。

「正面から来るぞ! 構えてろ!」

 バーツもそう叫ぶしかない。

 アーカンスたちは弓を番え、門の前にいる小隊に狙いを定めた。


 バーツの両の掌が光る。

 光の中で、槍の形が作られていく。バーツは両手を開き、弓を射るような姿勢になった。光る槍を、弓矢のように番えるバーツの後ろで、遊撃隊も敵の威嚇のために構えている。


 バーツが光の槍を射る。

 稲妻が真横に奔るように、一瞬で橋を越え門に直撃した。

 轟音と、僅かに遅れて爆音が響き、南の門は煙と砂埃に包まれる。


「――直撃した!」

 アーカンスが、矢を番えた姿勢のまま声を高くする。

 周囲にいた中隊の兵士からどよめきがあがる。

「なんという」

 彼らはバーツの術を初めて目にし、狼狽した。


「……」

 バーツは表情を歪めた。

 破壊したという手応えがなく、嫌な気配が強さを増したからだ。

 砂煙が薄くなると、目の前にそれまでになかった物が現れた。


 城壁の高さに匹敵する、魔方陣のような文様が空中にあった。

 一筋一筋が、稲光を編みこんだように輝き、幾何学的に組み合わされている。

「なん、だ……これは?」

 驚いたことに、魔方陣の後ろで門は無傷だった。そればかりか先ほどの敵小隊も、平然とそこにいた。


「……止められた、のか?」

 バーツは、信じ難い、と表情を露にする。


 徐々に晴れていく煙の中で、敵小隊のリーダーは、バーツを見ていた。

 そして冷笑する。

「これはまた……出来の悪い弟弟子だ。シオンもさぞ嘆くだろうな」

 そして指先で合図をすると、前列の部下が筒を構えた。


「バーツ・テイグラート……か」

 リーダーはその指で眼鏡の弦を押し上げた。その眼鏡1つ取っても、ノルド・ブロスの技術力が、サドル・ムレスのそれをはるかに凌駕していることがわかる。

 男は呟いた。

「まさか本当にガーディアンが出てくるとはな……兄上の情報網は大したものだ」


「だが」

 さっと掌を返す。

 それを合図に部下が筒を放った。


「――っ!」

 それはたった今、バーツが放った稲妻をそっくり返したかのようだった。


 魔法陣が光ったかと思うと、そこから現れた雷を纏った光の槍がバーツの体を掠めるように突き抜ける。

 遊撃隊も左右に逃げてこれをかわしたが、雷光は背後の森の木々に直撃し、これを薙ぎ倒しながら突き抜けていった。


 アーカンスらは回避は出来ても、轟音で耳を、そして全身に苦痛を感じてすぐには起き上がれなかった。バーツが後ろを振り向くと、雷の通り道は土はめくれ上がり、木々は焦げ、枝は炎を上げていて、森の奥に続いていた。


「く……っ」

 バーツは向き直ると、再び雷光槍を構えた。

 そして魔方陣に向かって放つ。

 雷は吸い込まれるように魔方陣に激突し、魔方陣は雲の中の稲妻のように千地に乱れた。そして水面の波紋が鎮まるように、元通りになる。


 眼鏡の男は、その様子を平然と見ていた。

 そしてバーツを見、聞こえはいないだろう弟弟子に向かって話しかける

「挨拶はこれで終りだ。我がアルヘイト家の家紋の意味、その身に刻んでやろう。バーツ・テイグラート」


「この私、ライオネル・アルヘイトが直々に相手をしてやる」


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