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アモルファス  作者: 霧音
第三部 ドロワ・弐
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二十四ノ六、赤い印

「これは……」

 自警団員が展開していた旧修道院の庭園は、異様な空気に包まれている。自警団員らは白騎士団の到着を見て安心したのか、座り込む者もいた。

 ネヒストは彼らの疲弊の顔色を見、只事でないと感じてカルードの姿を探す。


「ルネー殿!」

 ネヒストは、カルードをその名で呼んだ。

 カルードはその声にびくりと反応は示したが、顔を伏せたままだ。

 フェルディナントは上官の背を支えるようにして諭していたが、手に持っていた聖布をもう一度確かめるように見る。


 ネヒストは駆け寄っては来たが、屈みこんだままの自警団長と副団長、その手前で足を止めた。

「――いかがされたか」

 声音には焦燥が表れる。

 フェルディナントが代わって応える。

「いえ、テラーボイスによる恐慌と麻痺です。それよりもネヒスト殿、貴方にお頼みしたいことが」


 フェルディナントは持っていた聖布を突き出すように手を伸ばした。

「月魔の異常発生の謎、これが手掛かりになるやも知れません」

「……なに?」

 フェルディナントは、自警団に取り押さえられたままの男を視線で示して言う。

「あの男が持っていました。目の前で団員一名が月魔に変化して……」

 居並ぶ白騎士団に驚きと緊張が奔る。


「見た限りはギミックのようですが……仔細はわかりません。これは、ドロワ聖殿にお持ちするのが正しいと判断します」

「……見ても宜しいか」

「注意して下さい。傷を負うと月魔化する危険があります」

 ネヒストは一人進み出ると、フェルディナントの前で膝をつき聖布を両手で受け取る。


 聖布を僅かに開き、中の物体を窺い見る。

「……たしかに、ジェム・ギミックの類。しかし小さすぎる……」

「えぇ。けれどこの武器で傷を負ったすぐ後に――」

 フェルディナントは言葉を切った。

 ジエルト自身が口走ったことが正しいのなら。


「わかった、引き受けよう。して、自警団の現状は」

 ネヒストはちらとカルードに目をやるが、カルードは横を向いたままだ。

 その足元にある月魔石を見、ネヒストは眉屋根を寄せる。

 フェルディナントが代わって答える。

「別働のレイムント隊は支障ないと思われるが……こちらはこの通りの有様で」

「あの巡礼の男も白騎士団で預かろう。ほかには」

「そう……ですね」


 フェルディナントは少し言い淀む。

 副団長の権限では言えない言葉だったが、それを汲むようにカルードがぼそりと言った。

「白騎士団に……一時、指揮権をお預けしたい……。まだ多くが活動できる」

「……団長」

「それで、宜しいか?」

 ネヒストはフェルディナントにも問う。

「えぇ。他の、恐慌から回復しない者もいったん撤収させましょう。まずは立て直します」

「承ろう。カミュ団長にお伝えする」

 ネヒストは頷くと、その手に聖布を持って立ち上がる。そして自ら石畳に落ちたままの月魔石を拾い上げ、ついでカルードの剣を取り上げた。


 ネヒストは、剣をカルードでなくフェルディナントに差し出す。

「……」

 刀身には剣の銘である『カルード』の文字。

 フェルディナントはそれを、神妙な面持ちで受けとった。



 ネヒストはカルードたちを後に、ダヒサ泉の方へと歩いていく。

 そこには巡礼服の男が居て、ちょうど自警団から白騎士団に引き渡される所だった。男は先ほどまでは押さえ付けられながらも暴れていたが、今は大人しく両手を後ろに縛られた状態で、白騎士団に囲まれている。


 ネヒストは、ふと男の喉元に気付いた。

 先程の首飾りの奪い合いでローブが肌蹴ていたのだが、その首元、喉仏より少し下辺りに、何かの刺青がある。

 赤い色、一色だ。

 赤い円の中に模様があり、魔方陣のようにも見えた。


「……こ、これこそが、人族の始祖の印……よ」

 男の形相は、正気を疑うものだった。

 嗤ってはいるのだがその両眼は恐怖に見開いていて、それでもネヒストに語り続けた。

「お前らの……祈る神は偽者、だ。偽者に……仕えるお前らも、偽者の騎士、だ」

 どうやら男はネヒストがこの場のリーダーと目をつけたらしい。白騎士団とネヒストに対し、挑発的な言葉を続ける。


「赤い髪の龍人族こそが龍人を名乗るに相応しく、そして大地の覇者である。これはその刻印である」

 男は顎を上げ、赤い刺青をネヒストに見せ付ける。


「……お前は、龍人族ではない」

 ネヒストの口調はいつも通りの冷静なものだ。


 男は激高した。

「我等はその生まれこそタイレスの子孫であるが、心は龍族と共にある!」

「帝国の者か?」

「……ぁあ?」

「ライオネルの手下か?」

「ハッ……ハハ……ッ」

 男は息を切らしながら途切れ途切れに嗤う。


「ライオネルの如きノルドの者、所詮は亜流の龍人族に過ぎぬ。卑しき六肢竜と戯れているが似合いよ」

 そして怒鳴る。

「六肢竜は龍族に害を成す化け物に過ぎぬ!」

「……」

 ネヒストは、これ以上この場で聞くべきでないと判断し、踵を返した。


 男の声音が変わった。

「……くるぞ……くるぞ……くるぞォ。お前たちの死だ……」

 ネヒストが見せた背中に、男は勢いづいたか呪いの言葉を吐く。

「お前たち偽の騎士は……偽者に喰われるが似合いよ。共食いの果てにこの大地から消えるが良い……」


 白騎士団は男の言葉を聞き流したが、男は確信の声で続ける。

「……くるぞ……きたぞ……くるぞ……きた……来たぞ……」

 皆が気付いた。

 地面が、かすかに揺れている。


 振動と伴う音が周囲に響いている。

 徐々にその音量も増してきた。


 何かが、こちらに向かってきている。


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