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アモルファス  作者: 霧音
第三部 ドロワ・弐
233/379

二十四ノ二、見えども見えぬ

「そういやぁ、団長カルード。ここに来る中途で聞いたんだが」

 ジエルトがカルードに並んで歩きながら、報告の一部を確認する。

「修道院近くの商家で家屋が壊されて死体が出てるそうだな」

「そうなのか? 何があった」

「報告じゃあ、警邏中の小隊がその屋敷の前で全員昏倒したって話だ。フェンリルと巡礼を最初に見つけた連中だとよ。死体と無関係とは思えねぇな」


 それはまだらの竜の居た屋敷のことだ。

 巡礼服の男がまだらの竜を襲い、ドラゴン・ブレスの返り討ちに巻き込まれて屋敷の者が死んでいる。しかしそのことは巡礼服の男以外に誰も知らない。


 二発目のドラゴン・ブレスは屋敷の外にいた自警団員をも吹き飛ばした。

 知らせを聞いて応援にした団員らは、仲間を救助はしたが詳細は何もわからずにいて、ようやく破壊された屋敷に入って内部を調べる頃には、まだらの竜はとうに姿を消していた。


「フェンリルの仕業か?」

「……さぁな、俺も現場を見てない。こっちが片付いたら行ってみるつもりだ」

「……」

 カルードも頭の隅で引っ掛かりを感じたが、じっくり考えるいとまもなく次々と伝令役が走ってきては報告を置いていく。


 旧修道院に着いた時には、すでに追い立てられた巡礼姿の男が敷地内に逃げ込んだ後だった。

「こっからは俺らがやる」

 ジエルトはそう言ってカルードをその場に留めた。


 そこに、先に到着していたフェルディナントが合流した。

「カルード、おかしな報告が入ってる」

 カルードの顔を見るなり、フェルディナントは神妙な声で言う。

「ルネー師匠からだ」


「ルネーは黒騎士団を引き連れて南側だろ? 下手打つようなタマじゃねぇだろ」

 ジエルトは旧修道院に向かう足を止めて、フェルディナントにいつもの調子で絡む。

 カルードも、ルネーに限ってはジエルトと同じ信頼を置いている。

「何かあったか? 月魔を取り逃がしでもしたか?」

「……それはないな、あの人なら」

 フェルディナントも同意見だ。


 実際ルネーは半数以上の月魔を独りで片付けて回っていた。

 高名な剣士でドロワ市の下町の地理にも詳しい。黒騎士団の小隊がルネーに付いていたが追いつけず、もっぱら彼が散らかした灰や月魔石を集めて回る役目になっていた。

「ならばどんな不具合なんだ?」

「ルネー師匠が仰ったらしい。月魔の様子がおかしい、と」


『弱すぎる』――そうルネーは言ったらしい。

 もとよりルネーの敵で無かったのかも知れないが、ルネーが言うに『月魔らは何かに怯えている』とのことだった。

 月魔はほとんど感情など持たない。僅かに残る本能は破壊の衝動に向けられ、動き回り、荒ぶる屍だとされている。


「月魔が怯える?」

 カルードもフェルディナントも、聞いたことがない。

 魔物狩りの本業ジエルトも首を傾げる。

「ルネーの形相に恐れをなしたか?」

 軽く冗談を言った後、魔物ハンターとして続ける。

「……たしかに防衛や逃避の行動をとることはある。だが何かに怯えて目の前の敵にやられるってのは、不自然だな」


 カルードがぼそりと口にした。

「まるで竜族の階級だな」

 以前、龍人族レニの変化した翼竜と対峙した時、白騎士団の土竜はレニを上位を見なして騎士の命令を聞き入れなくなってしまった。

 今回もまた、原因は違うが同じく竜馬が動かなくなっている。


「上位の月魔でも現れたと?」

 フェルディナントは素朴な疑問を返したが、カルードもそこまで考えて言ったわけではない。

 首を横に振って、この話を切り上げた。



 その頃、旧修道院内では逃げ込んだ巡礼服の男が自警団員らに見つかり、廃屋の中を逃げ回っていた。

 建物内は壁と建具以外はすでに取り除かれていて、がらんどうになっている。

 ろくに隠れる場所も見つけられないままに男は逃げ、それを追っているのは魔物ハンター部隊である。


 報せを聞いてジエルトは現場に急ぎ走って行き、少し遅れてカルードはフェルディナントらと進んでいる。

「見つかった巡礼とやらは何人だ?」

「一人。どうやらフェンリルと共に屋敷前で見つかった男のようだ」

「……となればあと一人、まだどこかにいるな」


 怪しいと思われる四人の巡礼うち、白騎士団が確保したのはごく普通の巡礼が二人。自警団が今追っているのが血の付いた巡礼服の男。

 あと一人は今の今まで何処にも誰にも引っ掛かっていない。


「この包囲網で見つからないんだ、旧市街区には居ないのやも」

 と、フェルディナント。カルードは最悪の事態を考えている。

「あるいは、もう城外に……」

 まさか、とフェルディナントは眉を寄せる。

「し、しかし城門はあの通りの厳戒だぞ」

「門をくぐったとは限らん。フェンリルの逆で、城壁の崩れから抜けたのかもしれん」


 過去にも密輸等の目的で壁を抜けて来る者は居た。

 だがこのような騒動を目的とした者は居なかった。迷路に入って火を付けて回れば自分も煙に巻かれる、そんな状況だ。

「何より、奴らの目的がわからん……」

 月魔や狼との関係があるのか、今もってわからない。

 あと一人の不審者を見つけてそれが仲間だったとしても、たった二人で何をしようとしているのか。

 前回のライオネルのような声明もないため背後関係もわからない。


「薄気味が悪い……」

 靄を相手に薄靄の中にいるような気分だ。


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