表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アモルファス  作者: 霧音
第三部 ドロワ・弐
224/379

二十三ノ三、共鳴連鎖

 この大陸にも山羊や羊、牛といった動物が居る。

 みな人族と共に大陸に流れ着いた種で、それ以前にこの大陸には居なかった。

 絶滅したのである。四肢龍族を除いて――。


 植物は、人族が持ち込んだしゅが大陸の土に適応変化したもので、元の大陸の植生と同じではないが、似た景色を作り上げた。

 人族やそれに類する生物には環境の復活であり、先住の四肢龍族や後発の六肢竜族は順応したが、そうでない種はやはり消滅した。


 現状で最も繁栄している種は、外来種の六肢竜族だろう。


「――狼?」

 ドロワ城内の厩舎から、レイムントたち自警団の竜騎士隊が出動して行く。

 すでに西側の城壁付近には徒歩の長柄隊が展開していたが、それによると侵入した獣は、複数の狼だと言う。

「レイムント、いつもより現れるのがちょっと早かないか?」


「確かに。でも今年は国境線に黒騎士団が張っているし、ドヴァン砦からこっちの街道には常に見張りがいる。……森の動物も散ってしまったのかも知れないね」

 レイムントはいつもの穏やかな口調を崩さない。

「この辺りのボスは、白くて大きい個体だそうですね」


 ドロワ市周辺で何かと人々の生活を脅かすのは狼で、もっぱら城外の放牧地が狙われるのだが時折城壁を越えて街中に侵入して家畜を襲う。

「あぁ、フェンリルだねぇ。私はまだ見たことがないよ」

 噂だけで語られる賢しい害獣を、人々はそう呼んでいた。


 その時だ。

 先頭を歩いていたレイムントの竜馬が、唐突にその歩みを崩した。

 街中を見ていたレイムントはその反動で大きく体勢を崩したが、竜馬はそのままぺたりと座り込んでしまった。

「おい、どうしたんだい? 脚でも痛めたのかい?」


 レイムントは飛び降り、竜馬の前に回りこんで調べる。

 その大きな赤い瞳が、今は輝きを失っている。複数に重なる瞼が次々と閉じていき、一番外側の厚い瞼が下りてきて、とろんと半眼になった。

「……妙なものだ。先程まで何も無かったのに?」


 その間にも、レイムントの周囲で「あっ」と声を上がり、やはり竜馬が座り込んだ。

「なんだ? 何事だ?」

 次々と竜馬が崩れ、中には倒れこんで目を閉じている竜馬もいる。

 まだ城門を出ていくらと進んでいない。

 見る見る間に自警団の竜騎兵隊は身動きが取れなくなった。


「団員は全員無事かい?」

「え、えぇ……我々はなんとも」

 近くの枝で、鳥類がいつも通りにさえずる。

 木々も、植え込みの花々も、流れる山風もいつもと変わらない。


「調べましたが……外傷はありません。気絶しているようですね」

 レイムントはふと一つの言葉を思い当たる。

「これは……共鳴連鎖というやつかも知れんね」


「共鳴? 感覚共有とは違うもので?」

 感覚共有とは、超個体である竜族が群れで同じ知覚を共有し行動を同じくするらしい、という説である。


 対して共鳴連鎖はそれよりも強い追体験を得るほか、その個体を中継として情報が伝播していくのでは、と考えられている現象である。訓練士の中では仮説として知られてはいるが、事例が少なく確とした検証は未だ成されていない。


「私も初めて見るからなんとも言えないが……何か竜族にとって強烈なことが起こって卒倒したようだ」

「……こんなに一斉に?」

「わからん」

 竜族の訓練士であるレイムントにも経験したことのない事態だった。

 ともかくも、レイムントは応援を呼ぶ一方で自警団にこれを知らせる使いを出した。



「――竜馬が?」

 それほど離れた距離でもなく、知らせは詰め所にいたフェルディナントに届く。

「レイムントの奴、何やってる!」

 相手が狼や家畜だと聞いて、当てにしていたのは竜馬の速度と威嚇力である。竜騎兵が一騎も出られないことにフェルディナントは苛立った。


 この頃には、カルードも自警団に合流している。

「致し方ない……。みなに鉤棒と盾、網縄を持たせろ。どのみち狭い下町では竜馬も万能じゃない」

 レイムントらしからぬ失態に、カルードも内心では戸惑っている。

徒歩かちで狼を追い回すのか? とんだ捕り物になるな」

「……自警団らしくていいじゃないですか」

 フェルディナントの愚痴に、居合わせた中隊長からも皮肉の一つも出る。


 団員らが捕縛の道具と装備を揃えていると、物見の団員が飛び込んできた。

「大変だ! オアゼ商会の小屋で山羊七頭が月魔化したぞ!」

 一同がまさか、と注視する。

「月魔は囲いを破って町に出た! 今ハンター部隊が追ってるが、市民の避難が間に合わん!」


「ジグス隊は市民の安全確保を、ロディ隊は月魔の誘導を手伝え」

 カルードは矢継ぎ早に指示を出す。

「それでは足りない、セバート隊に物見の応援を!」

 フェルディナントが横から駄目出しをする。


「カルード」

 フェルディナントが方針を仰ぐが、カルードはまだ考えている。

「……こんな真昼間から、七体も? 竜馬の件といい……」

「カルード、考えるのは後だ。俺も出る」


 すぐにでも飛び出しそうになるフェルディナントを、カルードが止める。

「待て! 月魔相手となると俺か、ハンターでなれば無理だ。聖殿騎士団にも応援を頼む」

「しかし――」

 カルードは小声になって、フェルディナントを諭す。

「……民兵はまだ実戦慣れしていない。ましてこの月魔は、普通じゃない」



 その頃。

 ドロワ城の外門で白騎士団が、二名の巡礼者を拘束していた。


「……最も怪しいとされていた四人のうちの二人、か」

「残り二名は、目下捜索中ですが」

 カミュは報告を受けて尚も不安は隠せない。

「一先ず確保して尋問を。……もう半日過ぎている」


 レオネ夫婦の宿屋にて、剣の部屋に滞在していたとされる十数名の巡礼者、そして前後して宿を利用していた者たちを、自警団は全て洗い直していた。


 にわかに室内外がざわつくが、そこへ硬い表情の騎士が戻ってきた。

「カミュ団長、竜馬が……命令を聞き入れません」

 唐突にして異様な報告に、一同が訝しむ。

「どういう意味だ?」

「言葉の通りです、竜馬が制御不能です。今のところ、ほとんどが……」


 白騎士団の厩舎でも、竜馬たちに異変が起こっていた。

 多くの竜馬が勝手勝手に鳴いて落ち着きを無くし、そうでないものは隅で小さくなって反応しない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ