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アモルファス  作者: 霧音
第三部 ドロワ・弐
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二十二ノ二、熱き鉄

 「そろそろ本題に取り掛かっても宜しいか?」

 それまで黙っていたカミュが、場を仕切り直した。


 カミュは、セルピコほどすぐにはこの場に対応出来ずにいた。特にヘイスティングに対しては動揺を隠せない。

 未だに顔の左半分には大きな傷が残っており、カミュにはそれが痛々しく見える。魔物ハンターを真似たような姿格好にも無理を感じていた。


「ヘイスティング、大まかに三つの話がある。うち一つはお前には――」

 言いかけたカミュの言葉を、ヘイスティングは両手で制するように遮った。

 その後ろでジエルトが絡む口調で笑って言う。

「『ヘイスティング』?」

 言われたヘイスティングは上げた片手の甲でもって、後ろにいるジエルトの肩を一叩きする。黙れというしぐさだ。


「今は、その名は使っていません。申し訳ないが」

「あぁ……」

 カミュもすぐに察した。

 ヘイスティングはすでにガレアン家から勘当されている。少し前まではヘイスティング・ルネーとも名乗っていたが、それすら曽祖父の名であるからと封印していた。


「今はなんと?」

 セルピコが問い、ヘイスティングは腰の剣に手をやって示した。

「……カルード。師父ピオニーズ殿があだ名として付けて下さいました」

「ほう」

 それは剣の銘でもある。

 意味としては『熱い鉄』といった所。同じ鍛冶場で打たれた剣にはその名がついている。剣といえばロワールと云われる中で、珍しくサドル・ムレスに拠点を持つ鍛冶師一党である。


 剣の師であるピオニーズ・ルネーがガレアン家に通っていた頃、教え子ヘイスティングに手渡した剣も同じ名前だった。

「あやつらしい、捻りの無さじゃわ」

 セルピコは旧友を笑い飛ばしたが的を射た名付け、言い得て妙だとも思った。


 公的には今でもヘイスティング・ルネーとなっているが、自警団ではもっぱらカルードで通っていた。殆どの団員がカルードと呼び捨てている。

「ならば通り名はカルード・ルネーか……なかなかに様になっておるのではないかの?」

「いいえ、ただカルードとだけ……まだまだルネーを名乗るほどには」

 ヘイスティング――カルードは首を横に振って師への尊敬を示した。


「それよりもカミュ団長。話の腰を折ってしまって申し訳ない、再度続きを」

「あぁ、そうだな」

 カミュは頭の中でカルードという名を反芻しつつ、話題を戻す。

「話は三つある。一つは、お前たちも覚えているであろう月魔の剣のことだ」

「月魔……!」

 この場に居並ぶ全員がその単語に反応し、緊張が走る。

「二つにはファーナムの現状についての報告、そして三つがドヴァン砦への対策について……だ」


 事ここに及んでは避けて通れぬ問題であるが、一気に三つ提示されては困惑するというもの。

「ドヴァン砦……ですか」

 カルードは三つの中で関連が薄く現状から一番遠そうなものを口にした。

「対策というからには」

「あぁ。我等は現状、聖レミオール市国領――実質ノルド・ブロス帝国傘下となっているが、あくまでサドル・ムレス都市連合側としての参戦を考えている」


 三人の団長が今日このような場所で顔を揃えたのは、他に聞かれてはまずい話し合いをするためだ。ドロワの街は一見以前の平穏を取り戻したように見えるが、実際には張り巡らされた監視の中、虜同然である。


「自警団長としてはどうじゃ?」

「それは……勿論我々も総意として賛同致しましょうが……」

 カルードは二人の団長の思惑を掴めずにいる。

「つまり、セルピコ団長はこの二人をドヴァン砦攻略に使おうと?」

 二人、とはカルードが連れて来た二人の自警団員である。

「ピオニーズの奴も了解しておる。お主はどう思う? カルード」

 セルピコはヘイスティングをその名で呼んだ。


 話の見えないカミュが問いただす。

「――お待ちを。私はその話、まだ伺っておりません。もう少し具体的にお願い出来ませんか」

 セルピコは指を二本立てて見せた。

「厄介事がある。竜馬と存在と、ドヴァン砦の妙な仕掛けじゃ」

「竜馬、ですか」


「カミュよ、おぬしも覚えていよう。あのファーナムの龍人族が言っていた『渦』と『感覚共有』のことを」

「えぇ。あの厄介な」

 渦とは特定の龍人族による異能の感応力であり、感覚共有とは竜馬たち六肢竜族の持つ超知覚である。


 どちらも情報を透破抜かれる可能性がある。

 さらにはライオネルによって竜馬の制御が失われる危険性も指摘されていた。


「確実性が無いうちは、帝国と事を構えるにあたって竜馬は使えんと判断した」

 確かに、とカミュは頷くがセルピコはもう少し考えを進めていた。

「気取られんよう、竜騎兵は今までと同じように活動させておくが、ドヴァン砦攻略についての算段には一切触れさせてはならん。つまりは表に対して裏の部隊が必要になる」


 カミュはようやく思い当たり、そして驚きをあらわにする。

「もしや、自警団をその役割に?」

「いやいや、こやつらはもう一つの厄介事よ」

 セルピコは後ろ手に、荒くれ二人を指し示す。

「ドヴァン砦潜入と仕掛けの破壊工作……それが可能かどうか――の判断じゃ」

「……っ」

 荒事に馴染まないカミュは絶句する。


「カルード、おぬしはどう思う」

 セルピコに問われ、カルードはジエルトと今一人の自警団員を見る。

 ジエルドは降参するように両手を挙げた。

「……クロオー、お前は?」

 クロオーと呼ばれた男は、目線だけをカルードにくれ薄い笑みを浮かべた。

「そやつは?」

「クロオー・エアライ。……まぁ見ての通り、縛り首の縄を付けたまま自警団に飛び込んできたような奴ですよ。それだけに腕は確かですが」


「クロオー……といえば、あの?」

 クロオーの名は一部の界隈では有名である。

 カミュは「そんな男を」とばかりに顔に表し、セルピコは珍しいものを見るように姿形を目踏み見た。


「クロオーはピオニーズ師匠が直々に自警団に連れてきたワケ有りですが、今日のことも師匠からの推薦であります。まずは候補に」

「相わかった」

 カミュが心配げに口を挟む。

「まだ……決定ではないのですね」

「現状では危険が大きすぎるのでな」


 横から、クロオーが初めて口を開いた。

「……ドヴァン砦……そしてレミオール……。オレは何度も潜入しているし、行き来も出来る。必要ならばいくらでも、な」

 掠れるような焼けた声ではあるが、存在感と強い自信は感じられる。

「どうやってだ?」

 カミュとセルピコはその言葉に驚き、カルードはクロオーに問うた。

 しかしクロオーは笑うだけだ。

「方法は言わない……。人の善意を逆手にとる、としか」

「……」

 およそ聖殿騎士の耳には入れたくない方法だということは、予想できた。


「まずは現状の把握からじゃの。ピオニーズも含めて、もう暫し煮詰めてみるとしよう」

 セルピコは一先ずこの件を切り上げる。

「……オレを使うなら、オレの仲間が必要だ……。お前らに悪行を見逃す度量と……確かな金銭の援助、そして幾ばくかの堪忍が、な……」

 クロオーは駄目押して挑発する。


 クロオーは言うだけ言うと、背を向けて歩き出した。

「――クロオー、もう行くのか?」

 カルードが声を掛ける。

「あぁ……ルネーのところに」

 カルードは返事の代わりにまた何か手振りで示し、クロオーもそれに手振りで答えた。

 途端にクロオーの姿が消えた。

 術などという類ではなく、犯罪の技術としての隠形術である。クロオーは見た目によらぬ素早い捌きでその場から立ち去った。


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