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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
209/379

二十一ノ八、白き来訪者

 サドル・ノアの村。

 イーステンの森と呼ばれた聖域。


 ライオネルは未だ村内に兵を配置したまま、レアムたちが戻るのを待っている。

 レアムとロロラトらは気絶したままのダルデ・サナンを小屋に運び、その介抱と治療に当たっていた。


「レアムの奴」

 ライオネルは広場の望める木陰で、巨木の幹に凭れて悪態をついた。

「バテてる癖にこの上まだ治療術を使うとは。酔狂だよまったく……」


 村の広場には人々がようやく家から出てきており、やりかけだった仕事を再開していた。糸を紡ぐ者があれば機を織る者、薪を割る者もいる。

 多くは屋外で語らいながら作業していて、中には声を合わせて歌う者達もいた。


 ライオネルはその様子を、ほんの少しの郷愁をもって眺めていた。思い返せば、ノルド・ノア族の村もほぼこのような生活だった。楽師や絵師などはいわばシャーマンであり、村人の生活には鮮やかな文様といくつもの音階と古の詩がある。


 龍人族の血を引きほとんどを帝都で過ごしたライオネルには、ノアの村が故郷というはっきりとした意識はない。ただ、妙に心に馴染む。

 ライオネルが言語に興味を持ち、民族・時代を選ばず解読し記憶していった情熱の源とは、こういう景色なのかも知れない。


 しばらくとして、レアムとロロラトが戻ってきた。

 ダルデは小屋で休んでおり、息子たちがついている。

「――で? さっきの流れだと、まだ話は終わってないよな?」

 待ちくたびれたように絡むライオネルに、レアムは返事の代わりに笑みを返す。


(いつものレアムとは違うな……)

 ライオネルでなくとも思ったろう。

 普段の無愛想が嘘のように、微笑みが柔かかった。

「少し離れているが、もう一つ見せたい場所がある」

 レアムは、村から少し離れた森を示した。


 それは聖域の外周にあたり、以前住んでいた村にも近い。

 ライオネルは途中の小道まで数名の護衛を連れて行き、あとは三人で進んだ。

 深い森の中、育ちすぎた木々に囲まれて不思議と拓けた空間がある。

「この先はたしか」

 ロロラトが思い出す。


「そうだ。白石の祭壇がある場所だ」

 レアムの答えに、ロロラトが付け加えた。

「貴方とイシュが、初めて私たちと出会った所ですね」

「……あぁ」

 ライオネルは興味を引かれたか、黙って二人に付いて行く。


 小道の先には、確かに白い巨石の人工物がある。

 祭壇というには広く、家一件分ほどの台座のような大石、その周囲に遺跡のものに似た白い石柱が崩れながらも並んでいる。


「これは……明らかに、さっきの遺跡の一部だね」

 ライオネルは肩を竦めた。

「しかも何がしかのギミックとみた。当ててみようか?」

 ライオネルの問いに、レアムは頷くだけだ。


「転移装置……十中八九、ゲートだね。操作盤らしき物が見当たらないから動作の仕様は全くわからないが」

「あぁ」

 レアムは進み出ると、一足で白い台座の上へと飛び乗った。

 振り返り、周囲の森を見渡す。

「まさにこの景色……十五年前に見たものだ」

 ライオネルも続いて飛び乗り、ロロラトはそんな二人を見上げている。

「十五年前、村の娘たちが果実摘みをしていて、月魔に遭遇したのでしたわね」


「貴方に助けられた娘たちが大慌てで私を呼びに来て……あの子たち、月魔のことより先に、貴方が抱いていた赤ん坊のことを口にして」

 ロロラトは懐かしそうに笑う。


 レアムはこの時、その場の機転で持っていた剣で月魔を倒した。そして自分を魔物ハンターだと偽った。

 名を訊かれて咄嗟に「レム」という名を答えた。

 ハロルドが、レアム・レアドに無理やりにつけた名前だ。


「なるほど、その赤ん坊とやらがあのイシュマイルって少年か」

「……隊長さん、あなた、イシュにお会いになったの? 元気なの?」

「少し話しただけですが……元気どころか相当無茶な奴でしたけどね」

 ライオネルは気軽に答え、レアムは黙っている。


「それにしても。そうか……月魔、十五年前、か。その事件なら覚えてる。ノルド・ブロスにも現れたからな」

 ライオネルは何か思い当たったのか、一人納得している。


「たしか以前の話ではウエス・トールからゲートを使い、ここに飛ばされたって言ってたな。で、偶然ここで人助けをしたってわけか」

「そうだ。私はドロワに戻り、ウォーラス・シオンに会いに行く手筈だった……」

 ロロラトは未知の名前に黙って聞いており、ライオネルは重ねて訊く。


「シオンに引き渡すことは迷ってたんじゃなかったのか?」

「それもある。あの時の私は混乱していた」

 レアムは答えながらも、会話を遮るように両手でライオネルを制した。


「ライオネル、今私が言いたいのはそこではない。当時の私は重要な見落としをしていた」

「……なんだよ」

「わからないか? 私は聖殿のゲートを使い、ドロワ聖殿に行くはずだった。だが実際に飛ばされたのは此処だ」

「……」

「ここは、この遺跡はお前も言ったように、先ほどのノアの遺跡と同じものだ」

「あ……」


「そうか」

 ライオネルもようやく気付いて、手を打つ。

「たしかに、聖殿のゲートはゲート同士でしか転移しないはず。もしくは同じエルシオンの受信装置でないと」

 ドヴァン砦にあった片道のゲートなどがそれだ。


「なぜノアの遺跡と聖殿の装置が繋がったのか……答えは一つしかない、同じ技術で作られているからじゃないか?」

「あぁ」 

 ライオネルの疑問に、レアムは頷きで返した。


「何故だ。石舟伝承の通りならば、この遺跡を作ったのはプレ・ノア族と古代龍族になるはずだ。エルシオンが関わったという記述はどこにもない」

「そうだ」

 レアムはこれも肯定する。


「……どういうことですの?」

 それまで無言で聞いていたロロラトが尋ねる。

「レム、貴方は石舟伝承に間違いがある、と?」

「もしくは、意図的に――」

「……」

 レアムの答えに、ライオネルもロロラトも黙るしかない。

 

 元の広場に戻りながら、三人ともそれぞれに考えるものがあった。

 先に口を開いたのはライオネルである。


「……レアム、やっぱりさっきのはまずいだろう。私が言うならとかもかく、お前が口にするには冒涜的過ぎる」

 レアムの言う隠匿、改ざんの話はガーディアンとしては逸脱したもので、ライオネルたちにとっても困惑する内容だ。


「いまさら天の神々に申し開きか? タイレス族ならともかく、龍人族にとって天上人など高い所に住むタイレス族と同じだ」

「お前なぁ……」

 ノア族の神官に当たる役目を持つロロラトも、さすがに口を挟む。

「どういうことですの?」


 ライオネルはすかさず謝罪した。

「あぁ、失礼。タイレス族や我々ノア族にとっては、確かにエルシオンの神々は崇めるべき存在だ」

「龍人族には違いますの?」

 レアムが前を向いて歩きながら答える。

「エルシオンの住人である天上人のことを、龍族たちは天機人と称する。彼らは未知の大陸から来た来訪者であり、肉の体と寿命を持つ一つの種族群だ」


「確かにその技術と英知、超然とした力は称えられるべきであり、実際に特権階級ではある。だがエルシオン神話に語られるような曖昧で永続した存在ではない」

 ライオネルが遠慮がちに補足する。

「ま……今の天上の最高位である女神オーマ、彼女に『第二十七代目』なんて冠が付いている時点で、お察しではあるね」


「何より、レアムを始めとしたガーディアン達。地上の民である彼らが実際に天上に昇り、その末席に籍を置いて尋常ならざる力を持ちながらも、今こうして目の前にいる。これもその証拠だね」

「え、えぇ……たしかに」


 レアムが、未だ戸惑うロロラトに言う。

「ロロラト、この件は貴女が族長の血筋として知るべきであるから話した。だから村の人々には言ってはいけない」

「はい」

「いずれ貴女や貴女の息子たちが、天機人に会う機会もあるかも知れない……心積もりだけしておいた方がいい」

「……えぇ。わかりましたわ」

 ロロラトは理解しているのかいないのか、割合にすんなりと受け入れた。


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