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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
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二十一ノ一、呼ぶ者に

第二部 諸国巡り

二十一、黒き標

 ライオネルは壁の向こうの龍を――その閉じられた瞼を見ていた。

 氷河に飲まれた岩窟彫刻の如き荘厳で無機質な姿を前に、ただ吸い寄せられたように目を離せずにいる。

 レアムはその様子を無言で見ている。


「ダルデを外に連れ出す。ライオネル、手を貸せ」

 暫く待ってからレアムは声をかけ、ようやくライオネルも振り返る。

「この有様では龍座を開いて先に進むのは無理だ。一度地上に戻る」

 レアムは気絶させたダルデを抱えていたが、一人では支えきれなくなっていた。

「……レアム。お前、腕をどうした?」

 ライオネルは怪訝に思って尋ねたが、レアムは腕を痛めたわけではない。


「いや、さすがに少し無理をした」

 龍人族とはいえ、二人とも魔素の中に長く居過ぎた。

 加えてレアムは、ギミックの解除や操作を行い、かつ村周辺やここまでの道中の警戒、探索にかなりの力を使っている。


「お前、まさか」

 ライオネルが思い当たる。

「レコーダーにやられた傷がまだ回復してないんじゃないのか?」

「あれは。あのダメージは治るものじゃない……」

 自嘲からか薄い笑いを浮かべるレアムに、ライオネルは労わりを見せるでもなく、ダルデの体を引き受けた。


 気絶したままのダルデを肩に担ぎ、口調は苛立ちを隠さない。

「だったら何故そう言わなかった! お前一人の戦力をアテにした私が馬鹿だった。兵たちを連れて来るべきだった!」

 今はとにかく、この場を離れることだ。

 ダルデを荷物のように担ぎ、来た道を戻り始める。


 後を追いながら、今度はレアムのほうが軽口を返した。

「それで? 末端の兵卒を大勢遺跡に引き連れて、あげく最後にあれを見せるのか? それこそ愚かというものだ」

「……それはまぁ。たしかに、な」

 ライオネルもその点は認めざるを得ない。


「それにしても……」

 ライオネルはここまでの事態を振り返り、大袈裟でなく嘆息する。

「どうしたものかな。遺跡自体の調査もまだこれからだというのに」

 ライオネルにとってイーステンの森奪取は今回の成功報酬、その程度の認識だった。しかし遺跡の規模が予想外に大きかった上に、龍族まで出てきてしまった。


「此処はひとまず封印、帝国の管理に任せるのが妥当かな」

 ライオネルは現状での優先順位を選んだが、レアムは何か言いたげである。

「ライオネル。まだ当初の計画のまま事を進めるつもりか」

「当たり前だ。自分のことより、兄上達に力添えせねば」

「……」


 ライオネルは、レアムに誘導をかける。

「では訊くが、今このタイミングで『あれ』を私たちに見せたわけは? さっきの様子だと予め全てを知っていた風だったな。この遺跡の謎も――」

「違う、あくまで仮定に仮定を重ねた上の推測だ。私も確かめたかっただけだ」

「何をだ。御伽噺の真実か? 神話の裏打ちか?」

 ライオネルは畳み掛けた。


「ふん。それで、妄想が現実だったと知った感想は?」

「……この目で見た今も信じられない」

 レアムの声音が思い詰めた色に変わる。

「御伽噺なら、御伽噺のままであれば良かったものを」

「……」

 ライオネルはそれ以上尋ねるのをやめた。

 レアムが何かに没入する時、多くは厄介ごとに繋がると認識している。


 通路を戻ってくる足音が響く。

 小部屋リフターの奥で魔素を避けて待っていたロロラトたちは、用心しながら顔を出しレアムと、ダルデを肩に担いでいるライオネルの姿を見つけた。


「大丈夫、気絶させただけだ」

 レアムはそう言って二人を制し、元の小部屋へと辿り着く。

「やれやれ、とんだ力仕事をさせられたもんだ」

 皮肉を言うライオネルから、ダルデの息子が代わって父を背負う。

 もっともダルデの歩調に合わせていては三人とも魔素にやられていたかも知れず、早く戻る方法としては止む無し、ではある。


「……どうでした? ダルデはなぜ?」

 ギミックを発動させて扉を閉じると、ロロラトがレアムに問う。ロロラト達が待っていた時間はそう長くはない。

「この先の通路は、魔素の濃度が想定より高い。常人が立ち入るべきではない」

 レアムは手短に説明したが、これだけは告げた。

「あの先には、巨大な龍族が眠りについている」

「……龍……」


 実際に目にした三人よりも、伝聞のロロラトの方がその光景をイメージしやすかったようだ。

「それはもしや、古の三賢龍に関わるなにものかでしょうか」

 思い出したように息を飲んだのはライオネル、頷いたのはレアムだ。

「おそらくは」


 ライオネルはようやく全体の輪郭を掴んできた。

「なるほど、ノルド・ノア族にも三賢龍の伝説はあるが……」

「えぇ。ノア族のみならずタイレス族にも共通の創世神話ですわ」

 ロロラトは、さすがに語り部らしくすらすらと伝承を口にする。


「ノア族の祖である人々が、この大陸に石の舟で渡ってきたという石舟伝説――彼らはこの大陸で龍族に出会い、親交を深めたとあります」

 その人々とはノア族の祖、プレ・ノア族と分類される。

「のち彼らは三つの集団に分かれ、龍の棲家をあとに大陸に拡散しました。この時彼らを導いたのが三柱の龍であり、また彼らが各地で興した三つの里が――今の三つのノア族と云われています」


「ノア族は龍族にも敬意を払いますが、特にこの時の三龍を『三賢龍』と呼んで敬い、今でも節には祀りの儀式を行います」

 ここまではタイレス族と同じ言い伝えだが、ここから先ノア族とタイレス族は分岐し、その伝承もそれぞれ固有のものとなっていく。


「なるほどな……ノルド・ノアでの伝承は『龍の亡骸の上に里を興した』とある」

 ライオネルが同じ伝承の微妙な差異を説明する。

「龍族はその長い寿命が尽きる時、地下深くに身を沈めて眠りにつき、やがてその身はいわおとなって大地の一部になる――」

「大地の……」


「さっき見たのがそれならば、伝承の通りというわけだ。ただしその身を包むのは土でも岩でもなく、龍晶石だったがな」

 ライオネルはようやく理解に及んだが、それを聞いているレアムは納得のいかない様子だった。


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