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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
200/379

二十ノ九、地の神の座(くら)

「ここが段階フェーズ弐の扉か……まさか、こんな場所でさっきみたいな大事が起こるとかいわないよな?」

 ようやく軽口の戻ったライオネルが、扉の前へと降りてくる。長いスロープの先は、一部屋ほどの平地になっている。

 ただし天井の高さは巨人用ではなく、ノア族のサイズだ。


「ライオネル」

 レアムが静かな声で呼び寄せる。

「お前なら、ここにある文字が読めるだろう」

「んー、何の文字だって?」

 レアムの指し示すプレートに近寄り、常人には絵にしか見えないその文字を確認する。


 途端に険しい表情に変わった。

 ライオネルは、普段から装着している眼鏡状の魔法具、ギミック・グラスの弦に手をやる。指先を微細に動かしグラス越しに表示される翻訳を再度確かめた。

「……龍、座……」

 龍座。直訳するなら神龍が鎮座する岩座いわくらというところか。扉の先に何がしかの龍、それに類する者が在るということだ。


「レアム」

 ライオネルの声が低くなる。

「お前、知ってて私をここに連れてきたのか」

「……いいや。私もここまで潜ったのは初めてだ」

 レアムは首を横に振って否定する。

「だが……予想はしていた」

 そこへ、ようやくダルデたち三人が追いついてきた。


 ダルデはその場で座り込み、ロロラトにも疲れが見えた。

「頑張るなぁ、あんたも」

 ライオネルは平静を装って声をかける。

 龍人族の常で、親しみの感情から気遣ったり励ましたりしているわけではない。ただ帝国の代表としてノア族の村長と居る手前、多少の演技をすることは厭わない。


 レアムは間髪を容れずロロラトを呼んだ。

「ロロラト、ここに。貴女ならこの扉を開くことが出来る」

「……はい」


 ロロラトは夫から離れ、呼ばれるままに扉の前へと立つ。

「あの……これでどうせよ、と?」

 ドアノブも、鍵穴もない巨石を前にしてロロラトは尋ね、レアムは言葉の代わりに手でその場所を指し示す。

 僅かに窪んだ枠があり、その大きさは大人の手の平が収まるほどの大きさだ。


「こう、かしら?」

 戸惑いながらも枠の中に手を重ねる。

 なんの反応もない? とロロラトが再度強く押さえると、ふっと周囲の空気が変わったのが感じられた。


 巨石は押されるままに数センチ下がり、そのまま横にスライドして開いた。

 ほとんど音もなく、重さも感じなかった。


 果たしてその奥には、もう一つ部屋があった。

 同じぐらいの広さ、そしてその先には扉はおろか、窓もない。

「これは……」

 ロロラトは狼狽したが、ライオネルとレアムにはこれが何なのかすぐに理解できた。

「どうやら歩くのはここまでで済みそうだ」

 ライオネルは振り返ってダルデにそう声をかけた。


 レアムは何かを用心し中に入る前に手をかざしてみたが、予想に反して何事も起こらない。長男がダルデを中に運び、ロロラトとライオネルも続いた。

「起動させる」

 部屋に入ったレアムは、すぐに壁に刻まれたレリーフにに気付いた。

 浮き彫りの円形の紋章が壁に描かれている。明らかにギミックの操作盤である。


 レアムはこれに近寄って手を触れた。そのまま暫く目を閉じて様子を伺っている。

「……どうした、トラブルか?」

「ライオネル、紋章に手を」

 レアムは協力を求めた。

「ほう、花の紋章のようだが……古い意匠だな」

 ライオネルは、浮き彫りの花の一輪に手を添えた。


「アレウの花か。その謳われるところのことばに由れば――『迷わしの森にてそのホワを辿れ。蕾がその名を知る時、扉は開いて正しき道を示すであろう。汝、正しき言葉を識る乙女なり』……」

 ライオネルは龍族の歌の中から古典的な詩を読み上げた。

 レアムも同じ解釈をしたか、頷いてみせる。

「紋章に向かって、先ほどの言葉を――プレートの文字だ」


 龍座。龍の御座みくらとも訳そうか、ライオネルは一息吸うと丁寧な発音で、古い龍族の単語を声に出す。言葉が、物理的な質量を持つかのように紋章へと吸い込まれるのを感じた。

「――見つけた」

 目を閉じていたレアムが短く言うと同時に、円形のレリーフの模様が複数の輪に割れた。同心の輪はそれぞれに動いて、やがて一つの模様を作るとまた一枚の紋章に戻る。


「『花の紋章の部屋』、アレウ=ホワ・クライス――なるほどリフターとしては面白い仕掛けだが……少々手間だな」

 ライオネルは、今の奇妙な感覚の残る手の平を見ながら言う。

「ふ。私を連れてきた理由がこれか?」

 ライオネルはそうレアムに絡んだが、レアムは答えない。


「まぁ、いい――扉が閉まったら揺れるかもしれない。気をつけたほうがいい」

 ライオネルが促し、ロロラトが内側にある枠に手を触れると、ようやくそのギミックは動き出した。


「あの、これは何です?」

 感じるのはかすかな振動と、少しばかりの方向感覚の違和感。自分たちが、この箱ごと高速で移動しているとは露とも思っていなかった。

「あとで説明する。貴女がたはこれと似た仕掛けを見知っている」

 レアムは説明を避けたが、その言葉も終わらぬうちにギミックが止まった。


「この速度、この安定性……随分と良く出来たギミックだ。いつ頃に作られた物かはわからないが」

 ライオネルが軽口でなく感心する。


 もしロロラトが古龍族の言葉を知っていれば、それで事足りた。それが適わなかったためにライオネルを使い、レアム自身が直接ギミックの機構に干渉して、やや強引に岐点をスウィッチしたのだ。

 ただ傍目に見ていた者には、その労苦は伺えない。


 ロロラトが紋章の枠に手を当てると花の紋章が二つに割れ、扉のように左右に開いた。

 その先に長い通路が延びているのが見える。

「どうやら終着か」

 ライオネルが外の安全を確認し、先に通路へと出――。


「待て! 部屋から出るな!」

 数歩といかないうちに、ライオネルが片手で制するようにして声を上げた。ロロラトとダルデたちはその一声でその場に立ち竦む。

 レアムは制止の声を無視してライオネルの横に立ち、確認するように周囲を見回した。

「なるほど、これはまずい」

 ロロラトたちには何も見えなかったが、龍人族の二人はすぐに気付いた。


「なんですの?」

 ロロラトは尋ねながら、喉に異変を感じてか手を口に当てている。

 ライオネルは、指で上を示しながら答える。

「通路の内側に、龍晶石が発現している……あんたら流にいうと、ジェム原石とでも呼ぼうかな」

 わずかではあるが、壁や天井の隅に結晶柱が張り付いている。


「月魔が出現していないのが不思議なくらいだ。魔素が通路に満ちようとしている」

 ライオネルの言葉に、ダルデは思い出した。

「もしや、『生きた石』か」

「そうだ」

 レアムが答え、ダルデは部屋の中から目だけ動かす。

「やはりか。このような地下深く、いずれ当たるのではと恐れていたが……」


「地の神のおわいわやであったか……静謐を妨げてしまった」

 ダルデは沈痛の声音で呟く。

「地の神、ねぇ」


 ライオネルはサドル・ノア族の伝承に対して、その言い回しの妙には感心している。『聖地』で土を掘り返すこのへの禁忌、地表に唐突に現れた龍晶石への対処法など、危険を避ける方便としては中々気が利いていると思った。

「しかし、まぁここまでだな」


「私たちはもう少し進めるが、あんたたちには無理だ。ここで扉に隠れて大人しくしていることだ」

 サドル・ノア族の三人を残し、ライオネルは先に進もうをする。


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