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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
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二十ノ八、鍵の在り処

 石柱の並ぶ石畳、その先には深い下り坂が続いている。

 ライオネルも立ち上がり、レアムの横に立ってその暗闇を覗き込んだ。よく見ればそれは人工的な通路であり、壁が白いのもあって奥に向かって仄かに光っているように見える。


「やれやれ……今からここに入るんだろうけど」

 ライオネルは、すっかり様相の変わった周囲の森を見ながら言う。

「下っている間に、こいつらが上から降ってくるってことは……ないんだろうな?」

「その程度の危険で済むのならば」

 レアムはさらりと言ってのけるだけだ。


「先に言っておくが、ここは『管理者の入り口』だ。これから進むのも管理者だけが通ることを許される道ということだ」

「……つまり、裏口ってことか。比較的安全ってことじゃないのか?」

「手順を間違えなければ、な……」


「まだ段階フェーズは壱だ。ギミックを起動させる局面がまたあるだろう」

「ふぅーむ……」

 ライオネルは呆れたのか観念したのか、深い溜息と共に両手を広げた。

「で、プランは?」

「入るのは三人だけだ」


「三人? お前と私は確定として、あとの一人は?」

「あと一人は――」

 レアムがロロラトに振り返り、その名を口にするより先に――。

「儂だ」

 ダルデ・サナンが口を挟んだ。

「族長は私である。私が行くべきだ」


「生憎だが」

 レアムは冷ややかな声でダルデに告げる。

「お前は族長の夫であって、族長の血筋ではない」

「血筋だと?」

 気色ばむより先にダルデは咳き込み、さすがにライオネルも口を挟んだ。

「そ、それよりも何があるかわからない。今の族長殿の容態では無理ってものだ」

「そうですわ。ここはやはり私が行きます」

 ロロラトも、そうダルデに反対した。


「いや、ならん。これは儂の意地でもある」

「……」

 レアムは黙って聞いている。

「儂はこの村に生まれてこのかた、ノア族の戦士として村を守ってきた。これと一緒になってからは村長むらおさとしての務めもな」

 これ、とはロロラトを指す。

「儂はこれまでの生涯で、一体何を守ってきたのか……それを見ずには死ねん。二年前に亡くしていたかも知れん命で、それでも恥をおして生き延びた理由が今日この日のこれならば、一目たりとも見ずにはおれん」


「……後生だ、レム」

 ダルデは、レアムをその名で呼んで嘆願した。

 レアムは黙って聞いていたが、やがて無言のまま頷いた。

「誰か、途中までダルデを支えてやってくれ。かなりの距離を進むはずだ」

 そしてダルデに警告した。

「途中で倒れたら、お前をその場に置いて私たちだけで行く。いいな」

「おうよ……」

 ダルデは昔の顔でニヤリと笑い返した。


 レアムとライオネルのほか、ロロラトとダルデ、そしてダルデに肩を貸して長男が入ることになった。

 入り口で灯りを使おうとするライオネルを、レアムが止める。

「内部では光源は要らない。かえって目が眩むだけだ」

「あ、あぁ。わかった」

 しかし少し進んだだけで、内部は外からの陽射しが入らなくなり、暗さを増す。


「おい……これで本当に――」

「じきに目が慣れる」

 レアムは取り合わなかったが、ライオネルはまだ言い続けた。

「では武器は? なにか道具は?」

「いざという時は私が守る。なるべく両手を空けておけ」

 慣れると言われても、薄暗い坂道である。

 ライオネルは壁に片手を付きながら進み、後ろからついてきている三人を振り返る。


「やっぱり無理なんじゃないか? そもそもなんであの三人を入れた」

 ライオネルなりに気遣いながら、レアムへの抗議は止めない。

「不服そうだな」

 そう返すレアムは三人から離れて随分先を歩いている。

「ならば、ライオネル。お前は何故ここに入れたと思っている?」

「え? それは」


「お前がそういう条件を出してきたからじゃあ――」

 その答えに、レアムはふっと抜けるような笑いで返す。

「ライオネル。お前もまた、ノルド・ノアの族長一族ではないか」

「……」

 確かにライオネルの母は族長の家系である。


「血筋血筋って……さっきも言ってたが、そんなものが遺跡に入るのに関係あるのか?」

「ある」

 レアムは簡潔に答えるだけだ。

「遺跡の最深部には、族長の血統の者しか入れない」

「!」

「私はこの遺跡について幾ばくかの知識があり、ギミックを動かせる。お前たちは鍵を開くことが出来る。それだけだ」


 ライオネルは会話をやめた。

 振り返れば、少し離れて三人が寄り添うように進んでくるのが見える。事前にレアムが言ったように、洞窟内はぼんやりとした灯りで満ちている。


 ライオネルは入り口からずっと片手を壁について歩いてきたが、姿勢を確保するためだけにそうしていたわけではない。

(この感触、暖かさ……そしてこの振動)

 壁についた手から、かすかな振動が伝わってくる。


 壁肌は手に吸い付くように滑らかで、所々が暖かい。

(長らく放棄されていた構造物とは思えないな)

 振動は地震などの異変ではなくギミックの稼動音と思われ、定期的にそれを感じる場所がある。ライオネルはその数も数えていた。


「すでに地下五階層目、か? 思ったより深いな」

 白い床石だったスロープの中は、途中から滑らかなタイルに変わっていて、それらがほんのりとした灯りとなって視界が利く。

 窓も扉もない、長い長い一本の坂道が続いている。


 どのくらい潜ったのか知れないが、やがてスロープの先に行き止まりの壁とギミックらしき扉が見えてきた。


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