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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
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二十ノ五、意外性

 第四騎士団の執務室において、幹部三人によるこの奇妙な『面接』はひとまず終了した。

 軍団長であるアレイスはいくつかの事務的な書類にサインし、アーカンス・ルトワの入団を正式に認可した。


「ではひとまず、そなたは自分の部下となる騎士たちに会ってきなさい。当面は通常の聖殿騎士と同じ任務となろう」

 アレイスは立ち上がり、机から離れてアーカンスの前へと立つ。

「ずっと外にいたそなたには退屈なことかも知れん。祈りの時間と鍛錬、そして学び……。だがそれが本来の我々である」


 アーカンスは無言で片膝を付き、頭を垂れた。

 軍団長アレイスが祈りと誓約の言葉を紡ぐ間、思い出していたのは昔のこと。第三騎士団に配属された時も同じ儀式を受けた。

(……もう、戻る道はないのか……)

 今頃になって胸の痛みを感じた。

 けれど祝福を終えて立ち上がる頃には、そんな感傷を彼方に追いやるくらいには動揺を抑えていた。


「それでは……」

 アーカンスは敬礼するとその場をあとにした。

 扉を閉める直前、サイラスが無心する声が僅かに聞こえた。

「――アレイス殿、彼はわたしの指揮下に置いて下さいますよう。なるべく近くに」


 アレイスが何と答えたのかは聞こえなかったが、アーカンスもそれがいいと考える。なまじ組織の中に取り込まれては動きが取れない。サイラスの直下ならば何をするにも都合が良いように思われた。

 アレイスやサイラスの言葉を信じるならば、第四騎士団での立ち位置も遊撃隊とそう変わらないだろう。


 そして、ふと思う。

 自分はいつから、こうも組織から浮いた存在になったのだろう、と。

 遊撃隊? バーツの小隊に居た頃? あるいは入団当初から――?



 アーカンスが退室した後。

 最初に口を開いたのは、日頃無口なエリファスである。

「おい……サイラス」

 いつもの無作法な口調で、上官を問い詰めた。


「お前の報告書、存外あてにならないな」

「ふ……そうですな」

 サイラスは怒るでもなく、笑って答える。

「あの男、部屋を出る時に俺の目を見やがった」

 エリファスはまだ自分の首元を撫でている。


「俺の剣の前で悲鳴を上げなかった新兵はいなかった……今の今まで、な」

 手荒い歓迎で出鼻を挫かれて、大抵の新人はエリファスの前では目を伏せるようになる。

「お前の見立てを鵜呑みにして、手加減が過ぎたようだ」

「――エリファス」

 アレイスが横からたしなめる。

「あれでも第三騎士団で数年に及ぶ実績があるのだ。比べてはいけないよ」


「だがアレイス――」

「それよりサイラス」

 エリファスの抗議を遮って、アレイスはサイラスに尋ねた。

「何故あの場で唐突に方針を変えた。私はあの者たちをあのまま放置するなど認められんぞ」

 あの者たち、つまりバーツとイシュマイルである。

「いいじゃありませんか。刺客などと呼んだところで今の我々の手駒に、あの者たちを仕留められる人材などいない。すでに証明されたでしょう?」

 エリファスは不満げにサイラスを見たが、否定はしなかった。


「それに……アレイス殿がそうされたいのであれば、どうぞ続けていただいて構いません。アーカンス・ルトワとの口約束に効力があるわけではありませんからね」

 サイラスはさらりと口にする。

「口約束……あれもどういう意味があるのだ。この街から一歩も出ることが適わぬ身で、どうやってバーツや少年の行動を制御せよと?」

「餌ですよ……」


 サイラスはその横顔にいつにない笑みを乗せている。

 エリファスの言ではないが、サイラスもアーカンスの反撃は予想外だった。見立てが外れたこともあるが、久しく忘れていたものを目の前にし新鮮な感覚に内心胸を躍らせていたのである。


「――それよりもアレイス殿、わたしはこれから詰め所に忍び込んで盗み聞きの一つでもして来ようと思いますので、これにて失礼させて頂きますよ」

「またか……今度は何だね」

「彼の本音、です」

 サイラスは書類の束を机に置くと、アレイスの問いを流すように話題を変えた。


「アーカンス・ルトワの、かね?」

「厳密に言えばアカルテル・ハル・ルトワの思惑、ですな。あの男が素直に神聖派に転向するなど考えられない……何かしらの確とした目的があるのでしょう。が」

 サイラスは、その芝居がかった声音を僅かに変える。

「どこまで知り得たのか……見極めませんとな」

「……」

 アレイスは無言で頷き、詮索を許可した。



 その頃。

 ひと気のない廊下で一人、アーカンスは窓に凭れるようにして目を閉じていた。

 部下となる騎士たちに会う前に、この混乱をおさめ頭の中を整理したかったが、いつにない疲労を感じてただ天を仰ぐ。

 上官たちが揃いもそろって個性的過ぎたのもあるが、その内容も突拍子がない。


(少しばかり覚悟が甘かったかな……)

 なんて一日なんだ――そんな恨み節も出てくるというものだ。

 だが本当に甘かったのは今日や昨日の話ではない。遊撃隊として任務を受けた時からもう試練は始まっていたのだと、アーカンス自身が気付くのはもう少しあとになる。


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