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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
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十九ノ八、夜語り二

――深夜。

 一度は眠ってしまっていたイシュマイルだが、ふと目を覚まして起き出してきた。

 レニはまたソファで横になっていたが、イシュマイルが部屋を出て行くのを気付かぬフリで見送り、その分周囲への警戒を強めている。


 今、屋敷の中にいるのは数人。

 使用人たちは殆どが街にある自宅などに戻り、間借りしている者はそれぞれの部屋で眠りについている時間だ。

 先ほどまではバーツやロナウズが晩酌などで居間に居たが、それも終わり片付けられた。貴族屋敷のある区画は、この時期割合静かである。


 イシュマイルはバルコニーに出て、いつものように星空を見上げている。

 空を見るのはノア族の村にいた頃からの癖だ。レンジャーとしてだけでなく、ただ見上げていると色々とわかることがある気がする。

 ドロワ市での夜は慌しかった。その後の野宿の夜空も今はとても遠くに感じる。

 今は――静かだ。

(そういえば、アリステラの夜は初めて見るなぁ)

 ぼんやりと霞む灯りは、港からだろうか。

 昨日は四辻の件で寝込んでしまった為、夜景なども見ていなかった。


 イシュマイルはもう皆が寝静まったと思っていたが、聞き慣れた靴音に気付いて振り返る。

「冷えるぞ? 寝ていなかったのか」

 部屋着姿のロナウズが居た。

 身に付けていたらしい長衣ガウンをイシュマイルにかけてやると、横に並んで手摺りに両肘をついて夜景に目を流す。

 仕立ての良い物なのか、イシュマイルには少し重く感じた。

「ありがとうございます。あの、ロナウズさんは――」

「酔い覚ましさ」

 ロナウズはいつも通りに見えたが、何か言いたげなのも見て取れる。


「……昼間は、少し話過ぎたかもな」

 しばしの沈黙のあと、ぽつりと口にした。

「今の君には、言うべきでないことまで話してしまったかも知れないな」

「ロナウズさん……」

 どの話のことを言ってるのかはわからない。だがイシュマイルは、ロナウズが次に言おうとしたことを先に口にする。

「でも、今聞いておかないとその機会がまた有るかなんてわからないでしょ」

「……」


「いつもこの話になると、ロナウズさんは黙ってしまうから……言いたくないんだろうなって思ってた」

「……誰かかから聞いたか。ハロルドの話――」

「ハロルドさんのこと」

 二人はほぼ同時にその名を口にした。

「やれやれ……身内の恥は話したくないものだが、君には見透かされるようだな」

「ご、ごめんなさい」

 イシュマイルは、今度は言葉に出して素直に謝った。

 ロナウズは困惑したように自分の髪を撫でる。バーツの癖でもうつったようだ。

「ガーディアンの掟、か」


「ただ、考えてもごらんよ。家族の誰かが、不老長寿になってしまったら……その人は独り、時間の中で取り残される。見送るのも見送られるのも、辛いことじゃないのかな」

「……ガーディアンは、家族を持てないってこと?」

 イシュマイルの言葉に、ロナウズは思い当たる。イシュマイルの言っているのは、レアム・レアドのことでもあるのか。


 ロナウズはそれに答える代わりに、遠い昔を思い浮かべて言う。

「――ハロルドがガーディアン修行に入った時、ハロルドは二十九で私は十八だった。しかしハロルドはエルシオンの門をくぐった瞬間に、時を逆戻りしてしまう。……不思議なことだ」

「やっぱり、どう考えてもいびつ、だよね」

 イシュマイルは、かつてのドロワで会ったタナトスの言葉を、また口にした。


「イシュマイル君。当時、私はこう考えた」

 ロナウズは、庭に視線を向けたままで話を続けた。

「その『いびつ』な何かは、この世界で存在が許されているからこそ依然として有る。そしてそれを認めているのがエルシオンだ、と」

 イシュマイルがロナウズの横顔を見上げる。


「けれど、そのエルシオンに――エルシオンの成すことに人々が疑問を持った時、彼らガーディアンはどうなるのか」

 ロナウズは、言葉を選ぶようにゆっくりと話している。

「それが現実になったのが、かの『神官戦争』ではないだろうか、と」

「神官、戦争……」

 それは百年も前の戦争の話だと、イシュマイルはかつて体験者であるシオンから直接聞いたことがある。レアム・レアドもまたこの戦争の体験者の一人だ。


「……ふ。当時からそのようなことを考えていた私は、不真面目な祭祀官になっていたかも知れないな」

 ロナウズは、そういって苦笑いを浮かべた。

 いつもの穏やかなロナウズを感じて、イシュマイルは我知らずほっと笑みを浮かべる。


 ロナウズはというと相手が子供であるということを忘れているのか、日頃口には出さないことを話し続けた。

「ガーディアンのタブーの一つ、結婚に関してはもう一つ問題があってね」

 いつも頭の中で引っかかりは感じてきた問題だが、誰彼なく話せる内容でもなく今まで誰にも話したことがない。


「ガーディアンから生まれた子供は、極端に生命力が低いと言われている。つまり過去にもそういう例がいくつもあって、不幸な子供もいたということだ」

 イシュマイルはあまり理解していないのか、素朴な質問を返す。

「その子たちはどうなったの?」

 ロナウズもあっさりと答える。

「生まれてすぐに命を落したそうだ。理由はわからないが……ガーディアンというのは存外、生命力に乏しいのかも知れない 」


「……そう、か。だからガーディアンは弟子を取るのかな」

 イシュマイルは深くは考えずにいたが、ロナウズの注目点は違った。

「だがそれが本当だとしたら、例外が三人いる」

「三、人?」

「そう、ノルド・ブロスに。三人だけ」

 さすがにイシュマイルも気付いた。


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