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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
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十八ノ四、目の高さ

――ファーナム市。

 アイス・ペルサンはこの所、ガーディアンとしての任務をひとまず置き、聖レミオール市国から脱出した学生や事務官などの送致や配置替えの処理に当たっていた。


 当初の予定ではアイスもフロント市やウエス・トール王国まで足を伸ばす予定だったが、ファーナム市に入ってからその予定を大きく変えた。


 彼女自身はジグラッド率いる第三騎士団と共にファーナム市に到着したが、その後はファーナム聖殿と役場を往復する毎日である。

 本来は付き人の女官らと行動するのだが、彼女らも一時郷里に帰らせて今は単独で活動している。


「レアム・レアドの身柄についてなのだけど」

 アイスは、行く先々で出会うファーナム評議員に掛け合っていた。

「ガーディアン・バーツがドヴァン砦を落すことに成功したら、レアム以下砦内の適合者の身柄を任せて貰えないかしら?」


 ガーディアンとして、同じガーディアンを引き受けるというのが建前であったが、本当の目的は聖レミオール市国と大聖殿の存在を中立に保つ為である。

 現状のノルド・ブロス帝国の管理下にあるのも問題だが、サドル・ムレス都市連合の支配下に入るのも厄介だからだ。


 また、アイスは活動の隙間にウエス・トール王国への繋ぎも執り行っていた。

バーツとイシュマイルがウエス・トールに赴き、すぐに帰還してドヴァン砦攻略に間に合うよう調整している。

 個人的には予定を変更したことで、ウェス・トール王であるフィリア・ラパンを気遣い、連絡を密にしておきたいと思っている。アイスにとってフィリアは年下の友人であり、同期のガーディアンであり、妹のような存在だ。


(ドヴァン砦での結果次第では……ウエス・トール王国にも影響が及ぶでしょうね)

 アイスは、サドル・ムレス都市連合とノルド・ブロス帝国という肥大してゆく二国に挟まれた古き王国の将来に危機感を持っていた。


(でもスドウに入ってしまったウォーラスは、ライオネルだけで手一杯だし)

 未だスドウ聖殿から動かないシオンは、何か思うところがあるらしく音沙汰がない。

(彼らしくないわ……)

 アイスにはガードの固いシオンの心の奥底までは視えなかったが、それが強く暗い感情で覆われていることは感じている。


 シオンというのはひねくれた所はあるが、問題を放置して苦悶を愉しむタイプではない。切り刻んででも解決の突破口を探し出すか、出来ないなら感情ごと一先ず棚上げして優先すべきことから進める類の人間だとアイスは思う。


(彼が感情を捨てきれないことがあるとしたら、それは何かしら……?)

 アイスから見ればシオンは師範格にも相当する先輩ガーディアンであるが、尊敬よりも自分のカンを信じることにした。

(レヒトの大災厄とそこからの復興――帝国内で何かがウォーラス・シオンにあったのは確か。ちょっと趣味が悪いけど、痛い所を探ることになりそうね……)


 諸々の問題を前に、アイスのカンは諸国に散らばる敵味方の中から、もっとも近くにいる味方に焦点を当てた。



――アリステラ市。

 天のエルシオン・太陽が正午の高さにある頃。

 アリステラの街中を走り回る子供らの姿が見える。


 彼らはアリステラ聖殿内にある神学校に通う児童たちであるが、同時に貴重な労働力でもある。学童は一日校内に閉じ篭っているわけではなく、必要な科目のない時間はそれぞれ家事手伝いや仕事の補助などに出てくるのである。


 上級の施設に進級する前の基礎訓練期間でもあり、バスク=カッド家の子らのように早くから神学校を繰り上げる例もある。


 封建的な社会ではしばしば子供は養育されるだけの雛ではなく、大人の予備軍として扱われる。子供には子供に向いた役割や仕事があり、早くから職業訓練を兼ねて街中での活動に従事するのである。


 この時も、ちょうど子供らが街に出てくる時間で、特にメッセンジャーの子らが活動していた。


 メッセンジャーとは郵便屋に似た役目で、用事は様々だが個人の伝言からメモの運搬まで比較的軽微なものを運ぶ仕事だ。

 街の隅々まで走り回るため、二次的には観光客や労働者の様子を見聞きして情報として運んでもいる。


 アリステラ市の中央、広場に四人のメッセンジャーの子供らが集まっていた。

 うち二人は新米で、あとの二人が抜け道などを教えるために一緒に行動していた。


「おい、見ろよ。昨日のヤツだ」

 一人の少年がそう指差すと、残る三人も集まってきた。少年らの視線の先に、タイレス族の衣服を見につけたイシュマイルがいた。

「ラナドール女史だ」

 横にはロナウズの妻・ラナドールとバーツがいて、二人はイシュマイルをアリステラ聖殿へと連れて行くところだった。

「あいつ、ラナドール女史と一緒にいるってことは貴族の子だったのかな」

「バカ言え」


 少年らは昨日、サグレス団長と連れ立って歩いているイシュマイルの姿を見ていた。だがその後バスク=カッド邸に入ったことや、四辻で異変があったことなどは知らない。


 大人たちは、バスク=カッド邸にガーディアンが訪れたことを僅かながら知っている。噂としてひっそりと広まるだろうが、表になることはないだろう。

 かのハロルド・バスク=カッドと関係があることなのか、違うのか。気にかかる点といえばその程度の所で、バーツが何者でそれ以外の目的は何かなどは割合どうでもよかった。


 それよりも、ちょうど今はノルド・ブロス帝国からの鉱石・加工品の運搬船が便数を増やす時期で、港湾付近は忙しくなっている。人足の増員や役人の監査などもあって、何かと慌しい。

 それでなくてもドロワ市や聖レミオール市国の事件があった直後で、通関や警備兵などはピリピリしていた。


 イシュマイルとバーツが、ウエス・トール行きの船を捜したのはそんな頃である。


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