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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
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十八ノ一、視線

第二部 諸国巡り

十八、友

「レニは口も悪ぃし無作法だが、俺よりマシだ」

 バーツは、レニを庇うわけでもなく苦笑する。


「レニはあれで悪い奴じゃあねぇよ。……しかし今日は突然にやってきて迷惑かけどうしだからな。そこんところは俺に責任が――」

「そんなことは言っていない!」

 ロナウズは、バーツの言葉を制した。


「良いか悪いかではない。私は、危険はないのかと言っているんだ」

 そして付け足した。

「三人とも、君たちは私の客だ。迷惑などとは考えていない。――屋敷の者もな」

「……ふむ。それは、ありがたいけどな」

 バーツもそこはしおらしく頷いて答える。


「だが……どうにもあの眼が」

 ロナウズは、バーツの前では本音を口にする。

 レニの紫の瞳を見た時、その背後に無数の視線を感じた。


 おそらくは渦を通して追体験している他の龍族の存在を、ロナウズは感じたのだろう。

 こちらを覗いている絡めとるような、纏わりつくような幾つもの目。通常ならば感じることのない視線なのだが、ロナウズはそれを鋭敏に感じ取った。


 不愉快である。

 何者かの興味本位の視線を感じる時、思い出すのはハロルドである。ハロルドの一件は、常にロナウズの心を頑なにする。


 ロナウズは話を戻した。

「龍人族と行動を共にして、危険はないのか? 君たちの行動は帝国に筒抜けになるのではないのか」

「それは――」

 バーツはそこまで考えていなかったのか、頭を掻いた。

「レニの奴を、信用するしかねぇな」

「だから」


 そのレニがどうなのだ、と問いを重ねようとした時、執事のエミルが入ってきた。

 ロナウズらにイシュマイルの様子などを報告し、それから夕食について判断を仰いだ。

「……ラナは?」

 ロナウズは平静を装いつつエミルに問うたが、バーツらの前であるのに妻・ラナドールを愛称で呼んでいる。本人はそれに気付いていない。


 不愉快な思いもあったが、それ以上に動揺もしている。

 レニに見透かされた内面の思惑は、今まで誰にも悟らせなかった。


 敵意のまなざしを向けられることは構わない。

 だが、レニが守ろうとしているのはイシュマイルである。

 あらゆる害意のある者から。


「奥様はさきほどお部屋に戻られ、御支度をなさっています」

「……わかった。まずは食事にしよう。バーツ、それでいいだろう?」

 ロナウズはバーツに問い、バーツも素知らぬ顔で答える。

「あぁ。だがレニの奴はイシュマイルと同じにしてやってくれ」

「では、今晩のところは三人だな。……エミル」

「はい、旦那様」

 エミルはゆっくりとした動作で頭を下げる。


 ロナウズとバーツはエミルが退室するのを見送り、ロナウズはまた思案顔に戻った。バーツはそれを長椅子から眺めている。

「……なぁ。俺が言うことでもねぇけど」

 バーツが声をかける。


「あんたがイシュマイルの奴を気遣ってくれてること、俺からも礼を言っとくぜ」

 ロナウズは無言のまま、ヘイゼルの瞳をバーツに向けた。

「正直んとこ、俺にはイシュマイルは手に余る……持て余してんだ」

「と、いうと?」


「今日みたいなことは、これで二度目だ」

「ドロワの時のことか」

「あぁ」

 バーツは、困り顔を作りつつ億劫そうに首を回した。

「イシュマイルの奴は、タフなんだか虚弱なんだか……」


「レンジャーのくせにな」

 ロナウズが口を挟んだ。

「たしかに、少年の適合者には似た症状が見られるが……」

「うん?」

 ロナウズは、自身の経験を踏まえて語った。

「私の幼少の頃とも似ている。しかしイシュマイル君の場合は外的な要因があるように思う」

 ロナウズの場合は少年期、日常的に異変があったが、イシュマイルにはそれがない。普段はまるで兆候がないのである。


 なによりロナウズもバーツも、ドロワで起こった時には何者かの気配を感じた。そして今回はレニが言うところの、タナトスとの接触があった。

「外的な……」

 何者かとの接触。

 それが悪意なのか善意なのかはわからない

「問題は、それによってあの子の力が著しく不安定になる、という点だ」

「……あぁ」

 体調不良も案じるが、それ以上に気がかりがある。


「あの年齢にしてはよく我慢している方だが……何がきっかけで暴発するか」

「暴発、か」

 バーツもロナウズも、それが実際にどの程度の威力の物なのかは知らない。


「各地の聖殿に顔を繋いだほうがいい」

「聖殿? なんでだ」

「私も幼少時、聖殿に通って力を安定させていた。何かの時には頼むといい」

「ふぅん?」


「けれどイシュマィル君の場合、基礎となる身体もまだ出来ていないうちから実戦経験ばかり積み過ぎだろう。正式な訓練を受けるに越したことは無いが……」

 バーツは理解できないながらも、思案する。

「しかしなぁ。どうも俺とはタイプが違うみてぇで、対処の仕方がわかんねぇんだよな」


 成人してからガーディアンの訓練を受けたバーツには、元からロナウズやイシュマイルのような高い適合能力があったわけではない。したがって、この類の経験がないのだ。


「私が先方に報せておこうか?」

 ロナウズが提案した。

「てぇと、アリステラ聖殿か?」

 ロナウズが頷く。


「例の、許可証のこともあるだろう? バスク=カッド家の名で身元を保証すればいい。ガーディアン・バーツが、ガーディアン適合者を連れて歩く分には、何も不自然はあるまい」

 バスク=カッド邸には、すでに親族のノア族の子供を三人受け入れている。四人目として申請しよう、というわけだ。


 観光地でもあるアリステラ市では、流れ者の永住に関しては厳しいが、居住地の確定した滞在者ならば審査も比較的緩い。やり方さえわかっていれば、難しくはない問題だった。

 さらには。

「で。……俺の弟子ってことかよ」


 バーツの脳裏に、レアム・レアドのことが思い出された。シオンはこれを頑なに拒否したが、バーツはそれよりは気楽に考えていた。

「所詮、紙の上の話だ」

 ロナウズは、バーツの言葉を借りて言った。


 話が程よくまとまったところに、エミルが戻ってきた。

 慇懃に食事の開始を知らせ、二人を食堂に促す。


 食堂は三人が使うには広すぎ、互いが意図的に避けた話題もあったが、終始和やかな雰囲気のまま食事は進んだ。


 バーツとロナウズはアリステラの話しをし、バーツとラナドールはオヴェス・ノアの思い出話をし、三人が揃う時にはバスク=カッド家の子供たちの話しをした。

 アリステラの食卓は、その地勢もあって野菜や果物なども豊富で色彩豊かである。


 一方イシュマイルは、何度か目を覚ましては眠ることを繰り返していた。

 夜中まではラナドールが付き添い、軽い食事を取るよう勧められて起きはしたが、少し口にするとまた眠りについた。

 レニはその傍らで一晩中起きている。


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